亡き父の思いを胸にお囃子 紀州三大祭り「田辺祭」に田辺・片町の庄司さん兄弟

庄司悦三さんの写真や片町の法被を持つ長男の兼三さん(右)と次男の好宏さん=和歌山県田辺市高雄3丁目の自宅で

 和歌山県田辺市東陽の世界遺産・闘雞神社の例大祭「田辺祭」で、片町地区の笠鉾(かさほこ)のひき手を長く務めた男性が2月に亡くなった。男性とともに祭りに携わり続けてきた2人の息子は、いつも祭りを楽しみにしていた父に思いをはせながら、田辺祭に参加する。

 男性は庄司悦三さん。急性白血病と分かり、入院から6日目に亡くなった。70歳だった。大工の仕事が好きで、弱音を吐かない人だったが、昨年末から疲れを口にするようになり、食欲も落ちていった。

 妻の加奈さん(54)=田辺市高雄3丁目=によると、庄司さんは20代で地区の笠鉾をひくようになり、10年ほど前からは、ひき手のまとめ役を担っていた。この3年は新型コロナウイルスの影響で地区の笠鉾が出なかったが、家では「来年こそは」と毎年、次の機会を心待ちにしていた。

 昨年の田辺祭では、お囃子(はやし)のメンバーの練習や、神社でのお囃子奉納を見学。「やっぱり田辺祭は最高」と話していた。

 物心ついたころから田辺祭が好きだった庄司さんのために、葬儀では、ひつぎに地区のひき手が着る法被が掛けられた。

 そんな庄司さんの影響を受けたのが、長男で大学3年生の兼三さん(20)と次男で専門学校生の好宏さん(18)。ともに小学生の時から、地区の笠鉾の中でお囃子を奏でる「笠の内」として、祭りに参加している。

 兼三さんは「急過ぎたので、まだ信じられない。ひょこっと帰ってきそうな気もする」といい、好宏さんも「夢に出てくるし、存在はそんなに遠くない」という。父がいたからこそ身近な存在になった田辺祭。だからこそ、今年は盛り上げたいと強く思う。

 笛を担当する兼三さんは「しっかり音を出しているのを聞いてもらいたい。若い世代でこれからの祭りを支えていけるのは楽しみでもある」。太鼓を担う好宏さんは「楽しんでいる姿を届けられたらいい。地域では大きな祭りだから、死ぬまで関わりたいと思っている」と決意を語った。

 片町地区は今年、笠鉾に庄司さんの写真を乗せることにしている。

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