妻・佳寿美さんの首を絞め、殺害したとして逮捕・起訴された愛媛県新居浜市の藤田宗武被告(54)。裁判では、夫婦の一人娘・優香さん(仮名)が証人として出廷し、家庭環境を語っていた。
(前編・後編のうち後編)
【前編記事】
「母さんのこと、殺さなあかんのかな」
事件当日となる2022年8月22日の午後6時45分ごろだった。優香さんから宗武被告に連絡があった。
「毎晩電話かけなきゃいけないの、しんどい、本当にやめたい」
高知に暮らす優香さんは、当時、社会人の恋人がいたが、母・佳寿美さんに反対され、相手に会わないことや毎晩電話することを約束させられていた。
この日の母は、機嫌が悪かったという。
「点けていたテレビの音を聞き、部屋に誰かがいると勘違いしたらしく、わーっとなった」「最初からどこか怒っている感じがした」
この電話の少し前の午後5時頃。仕事から帰宅した宗武被告は、家に入れてもらえず、閉め出されていた。
2011年に「うつ病」などと診断された佳寿美さん。その後、娘とのささいな口論をきっかけに宗武被告への暴言や暴力も始まっていた。
閉め出されていた間も、優香さんは宗武被告と会話していた。
「もういっそ荷物を持って家を出て、母から逃げてはどうか」
優香さんからの言葉に、宗武被告は答えた。
「いざとなったら母さんのこと、殺さなあかんのかな」
「すまん、母さん殺してしもた。限界やった」
午後8時過ぎ。宗武被告から優香さんに再び電話。
「すまん、取り返しのつかないことをしてしまった。母さんのことをボコボコにしてしまった。多分、顔の骨が折れた」
優香さんは驚いたという。
「冗談ではないと言い方から伝わったが、頭が真っ白になった」
家族に対して手を上げることはほとんど無かったという宗武被告。
「これまでの夫婦げんかとは違うことがあったのだと感じた」
しばらくすると、佳寿美さんも電話口に。
「左目が見えにくい」
酒を飲んでいるのか、ろれつが回らない様子だった。
「私のこと、父さんが殺すんだって」
そして…電話は切れた。
「一体どういう状況なの?」
優香さんが電話をかけ直すも、繋がらない。
気をもんでいると1時間ほど経った午後9時10分ごろ、電話が鳴った。
「すまん、母さん殺してしもた。限界やった」
優香さんはパニック状態で叫んだ。
「私よりも警察に連絡して」
約20分後、宗武被告は警察に通報した。
「妻を殺しました、首を絞めて殺した」
「日ごろのうっぷんが溜まっていた、いっぱいいっぱいだった」
証言台に立った娘「殺さなければよかったという資格ない」
「一番は申し訳ない気持ち。家の事を父に丸投げしていた。もっと何かできたのでは…」
母親を殺されたことを問われた優香さんは、涙ながらに証言する。
「母にも申し訳ない、両親に家族の事を放り投げて、関わらないようにしていた。もっと関わるべきだった」
「父のした事は、確かに悪い。刑を受けるのは当然だが、私が例えば親戚に相談していたら…と思う」
そして、声を絞り出すように続けた。
「殺さなければよかったと言う資格はない、何もしてこなかった私には…」
論告の中で検察側は、犯行に至った経緯について、被害者へのストレスが蓄積していた中で暴力をとがめられ、怒りを爆発させたと指摘。
そして、佳寿美さんが生前、娘の成長を何より楽しみにしていたことや「夫のためにも死なずにいよう」と考え、宗武被告から「うつ病」などへの十分な理解や支援が得られない中でも治療に励んでいたとした上で「人の命は重く、どのような事情があっても殺害してはいけない」と主張。
さらに、精神不調時の言動に腹を立て犯行に及んだことを「短絡的」だと非難し、懲役10年を求刑した。
一方の弁護側。
特に2年ほど前から夫婦関係が悪化し「DVとまでは言えない」ものの、宗武被告が複数回、自宅から閉め出されていたことや、暴言を浴びせられたり髪の毛をつかまれたりするなどの暴力があったこと、小遣いや食事をもらえないなどの仕打ちを受けていたことを挙げ「非難できる度合いは強くない」と主張。
情状を考慮して懲役7年が妥当と訴えた。
「夫婦間の問題解決」対応すべきだった
2023年6月9日。
判決公判で、松山地裁の渡邉一昭裁判長は「背後から突然、首をタオルで絞め、体勢を変えるなどして、約10分間、力一杯絞め続けた。強い殺意があり、危険な犯行で結果は重大」と指摘。
フルタイムで臨床検査技師として働きながら、家事や育児を担ってきた佳寿美さんへの対応についても「妻の話に親身に耳を傾け、治療にも協力するなど、問題解決に取り組むべきだったのに、十分でなかった」と非難した。
一方で、精神的に不安定だった妻から暴力や暴言を受けたことのストレスについては「酌むべき事情ではある」と認定。
このほか、娘・優香さんが長期の服役を望んでいる訳ではないこと、自首の成立などを踏まえ、懲役9年の判決を言い渡した。
宗武被告は、真正面の裁判長を見つめながら判決を聞いていた。
判決を真摯に受け止めている
閉廷後、宗武被告の弁護士は、我々の取材に対し、判決について「背景事情について一定程度、認めてもらえた」と話した。また、宗武被告本人も「判決を真摯に受け止めている」と明かした。
宗武被告は控訴せず、6月24日、判決が確定した。
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