米中新冷戦とは―中国軍事研究の大御所が語る その1 米ソ対立より厳しい

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・中国軍事研究の権威、マイケル・ピルズベリー氏に聞く。

・「新冷戦に勝つ・中国に対抗する計画」との調査報告書発表。

・氏は、「米中両国の争いは米ソ冷戦よりも厳しい要素もある」と述べた。

アメリカの首都ワシントンでの最大課題はやはり中国である。政府も議会も、研究機関もメディアも、連日、中国を論じる。ドナルド・トランプ前大統領の起訴をめぐる騒ぎも波紋は大きいが、中国論議にくらべると規模は小さい。

中国がアメリカの国益の根幹を侵し、国際的にも独自の秩序を求め、アメリカを排そうとしているという認識は米側の超党派で確立されたようなのだ。つい数年前まではそうではなかった。

アメリカのこの中国認識の根底からの変化で最大級の役割を果たしてきたのはマイケル・ピルズベリー氏だといえる。

中国研究、とくに中国軍事研究の権威として同氏は約40年、アメリカ歴代政権の対外戦略の中枢ポストを占めてきた。とくにトランプ前政権によるそれまでの歴代政権の中国への「関与政策」が間違っていたとする宣言ではピルズベリー氏が中心の役割を果たした。

同氏は2015年には中国共産党政権が建国から100年までにアメリカを追い越す超大国になるという野望を一貫して追ってきたとする「100年のマラソン」(日本語版の題名は「CHINA2049」)という書を出した。同書は長年のアメリカの対中政策を劇的に変える契機となり、全米ベストセラーともなった。

ピルズベリー氏はトランプ前政権での対中政策の非公式な主要顧問を務めた後、ワシントンの大手研究機関ハドソン研究所で中国戦略部長となった。その後は2023年1月に別の保守系シンクタンクのヘリテージ財団で中国担当の主任研究員となり、4月に「新冷戦に勝つ・中国に対抗する計画」と題する調査報告書を発表した。

同氏はこの報告書で中国をアメリカの正面からの脅威と特徴づけ、その世界制覇の野望を防ぐためにアメリカが官民で団結して具体的な対抗策を講じることを強く勧告した。

そのマイケル・ピルズベリー氏にワシントンでインタビューした。(古森義久)

――いまやあなたはアメリカと中国との対立を「新冷戦」と定義づけていますが、米中両国の争いは米ソ両国の東西冷戦のように険しくなったということですか。

マイケル・ピルズベリー「はい、米ソ冷戦よりも厳しい要素もあります。この新冷戦と呼ぶべき状態は中国がアメリカにとって第二次世界大戦以来、もっとも強力で危険な国となり、軍事、経済、政治などの各分野でアメリカを凌駕し、世界制覇を目指していることが明確となったために生じました。

私は以前の自著で、中国共産党は中華人民共和国の建国の1949年から100年目の2049年を目標にその野望を達成する計画だ、と総括しました。『100年のマラソン』です。この総括の状態がそのまま続いているわけです。

習近平主席は公式には『100年のマラソン』を否定し、アメリカ側が新冷戦という間違った心理状態に陥ったなどと述べています。しかしその一方、習氏は中国の戦国時代の戦略思想家、韓非子の覇権奪取のための格言を頻繁に引用して、現代の中国の国家指針にしています。

強力な覇権を確立したい王朝はその以前の既存の王朝の内部に自己満足と混乱とを育てて倒し、新たな覇者になっていった、という趣旨の格言です。いまの中国のアメリカに対する態度に似ています」

(その2につづく)

**この連載は月刊雑誌「正論」8月号掲載のインタビュー記事「米国の過ちは抗議だけで対中政策Wをを変えなかったこと」の転載です。

トップ写真:マイケル・ピルズベリー氏(執筆者提供)

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