田中美奈子「顔が怖くて話しかけられない」とウッチャンが恐れた『もう誰も愛さない』の悪女ぶり

前作ドラマとの落差に“この役を受けて大丈夫なの”と戸惑ったという田中美奈子

青春時代に夢中になったドラマの裏には私たちの知らない“ドラマ”がいっぱい。出演者ご本人を直撃し、今だから話せるエピソードをこっそりお届け!

【『もう誰も愛さない』(フジテレビ系・’91年)】

吉田栄作演じる沢村卓也、宮本小百合(田中美奈子)、田代美幸(山口智子)の3人を中心としたラブサスペンスドラマ。登場人物は全員悪人、クライマックスにはほぼ全員死亡する展開が衝撃的。

「初めて『もう誰も愛さない』の台本をいただいたときは“登場人物のほぼ全員が悪役で、ドロドロとした欲望の塊を描いている”って衝撃を受けて……。前年に、安田成美ちゃん主演の『キモチいい恋したい!』(フジテレビ系)に出演して、コメディエンヌになりたいと思っていた矢先だったので、その落差に“この役を受けて大丈夫なの”と戸惑いました」

こう振り返るのは、田中美奈子さん(55)。『もう誰も愛さない』は、当時、ジェットコースタードラマと呼ばれ話題だった。

「監督からは、視聴者に考える時間を与えないほど、早い展開にすると伝えられていました。トイレに行っている間に、数年たっていたりするものだから、目が離せなかったと思います」

そのスピード感と、これまでになかった役どころに、出演者も神経をすり減らしていたという。

「ロケの本番中、見学に来た一般の人が吉田栄作さんの視線の先に入ってしまって『どかしてくれ!』と、スタッフに叫ぶこともありました。私は吉田さんとドラマで共演するのが3作目だったから、なんでもツッコミを入れられる関係だったのですが、あのときばかりは近くにいられなくて……。あとで吉田さんから『お前、何いなくなっているんだよ』って言われたりしましたけど(笑)」

■心身ともにこたえた“悪を貫く演技”

辰巳琢郎は、田中さんをペットのように扱い、支配する役どころ。クリームシチューを指でぬぐい、田中さんになめさせるシーンが記憶に残っている人も多いはず。

「辰巳さんも悪役は初めてのようだったし、元来、真面目な方なので、このシーンはすごく緊張されていました」

田中さん自身にとっても“悪を貫く演技”は心身ともにこたえたという。

「ちょうど『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』(フジテレビ系)にレギュラー出演していたころ。『もう誰も愛さない』の役を引きずっているからか、内村(光良)さんには『スタジオに入るときは顔が怖くて、話しかけられない』と言われたりしました。でも、ドラマで悪女を演じる一方で、同じ時期にコントのお仕事をすることは、いい気分転換になったんです」

田中さんにとって、演技の幅を広げてくれた作品だった。

「とはいえ、イメージが定着してしまって、その後に来る仕事は悪女役がほとんどという時期も。ちょっと悲しかったですね(笑)」

【PROFILE】

田中美奈子

’67年、千葉県生まれ。多数のドラマ、バラエティ番組で活躍する傍ら、パラオ共和国親善大使、日本RV協会公式キャンピングカーアンバサダーに就任。愛玩動物飼養管理士などの資格を持つ

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