86歳の夢実現…役者諦め教壇へ、娘らが奔走で舞台→映画化 俳優の孫らも出演「米寿の伝言」 来年1月試写

映画「米寿の伝言」を親子3代で自主制作した(左から)西本健太朗さん、西本匡克さん、西本浩子さん、西本銀二郎さん(西本さん提供)

 「お父さんを一度でいいから舞台に立たせてあげたい」―。家庭の事情で夢だった役者を諦め、高校や大学で教壇に立った父親の夢をかなえようと、埼玉県和光市のイメージコンサルタント西本浩子さん(57)がプロデュース、俳優の息子らが協力し、80代の父親を主役にした舞台劇「米寿の伝言」を制作した。大阪と東京で上演後、舞台劇の脚本を基にした映画を自主製作した。親子3代でかなえた物語の映画は来年1月8日、和光市広沢の市民文化センター「サンアゼリア」で、試写会が行われる。

■中学、高校は演劇部

 「米寿の伝言」の主役を務めたのは大阪市の西本匡克(まさかつ)さん(86)。中学や高校で演劇部に所属し、上京して役者になるのが夢だった。2人兄弟だったが、弟が不慮の事故で急死。このため、両親から上京を反対され、私立高校の国語教諭など教師の道を歩んだ。

 1人娘の浩子さんは関西の大学を卒業後にアパレル会社に就職し、2年後の1991年に結婚。その直後、会社員の夫が東京に転勤になり、和光市に転居した。その後、3人の子どもに恵まれ、長男健太朗さん(30)と次男銀二郎さん(27)は役者になった。

 匡克さんが80代を迎えたころ、健太朗さんらの劇を観賞するたび、駄目出しをするようになった。そんな光景を目の当たりにした浩子さんの心にはこんな思いが湧き上がった。「父親から愛情をたっぷり注がれた私が、父親の心の奥底にある演劇の世界をたたいてあげたい」

■孫の同級生が脚本

 役者である2人の息子に協力を呼びかけ、健太朗さんの同級生の脚本家に「祖父と孫2人が出演できる舞台劇をつくってほしい」と依頼。2018年春には、米寿の誕生日に亡くなった発明家の祖父の葬儀で、孫と祖父の中身が人格移転装置で入れ替わるドタバタドラマの脚本が出来上がった。

 書き下ろしの創作劇「米寿の伝言」は匡克さんが祖父の「米蔵」役、健太朗さんと銀二郎さんが孫の「キョウヘイ」と「キッペイ」役を熱演。18年8月、大阪市で4日間に8公演、翌19年9月に東京・上野で5日間に10公演を上演し、いずれもチケットは完売するなど好評を博した。

 公演終了後に新型コロナウイルスの感染が拡大。コロナ禍で外出が思うようにできず、落ち込んでいた匡克さんを元気づけようと、舞台劇を映画化することを決めた。22年7月から80日間で1千万円を目標にクラウドファンディング(CF)を実施。435万円が集まり、不足分は家族が捻出した。

■ロケの中心は和光市

 撮影は和光市などを中心に行われ、西本家の3人のほか、俳優の浜野謙太さんや芸人の中川パラダイスさんらも出演。撮影終了後、匡克さんは台本の裏表紙にこんなメッセージを書いて浩子さんに手渡した。「浩子よ。色々有難う。一生の宝物になるものを与えてくれて感謝・・父―匡克」

 浩子さんは「舞台ではせりふを覚えられずくじけそうになったが、やり遂げた時はとてもいい顔をしていた。周りが背中を押すことで夢は実現できると伝えたい。この映画を見れば『おじいちゃんやおばあちゃんに連絡したい』と優しい気持ちになれると思う」と観賞を呼びかけている。

 問い合わせは、西本浩子さん(電話090.5530.6019)へ。

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