神田伯山「僕の講談への貢献度はもう絶大です」

講談師の六代目神田伯山が21日、東京・新宿末廣亭で『講談放浪記』(講談社)新刊発売記念記者会見に登場した。今書は、伯山が2021年から2022年の1年間にわたった『群像』で連載していたものを加筆し書籍化。伯山が名作講談の舞台となった場所を訪ね、講談の持つ物語としての魅力を再発見するほか、講談の未来について考えるなど。さらに伯山の師匠であり人間国宝の神田松鯉との対談も収録される。

落語に比べて講談師の人数が少ないことについて聞かれると伯山は「落語家さんが東京・大阪で合わせて900人以上いると思います。講談界は100人くらい。ネタも古典講談って4500席以上ありますけど、いま頻繁にかかっているのは、せいぜい、おなじみのが2~300。いっても400くらいです。おなじみのレパートリーは150とか200かもしれない」と話した。続けて「そもそも人数がいないので、いろんなネタができないとか、落語に比べるとネタの洗練度が非常に弱いんです。まず人数を増やす。そして聞いて頂くお客様を増やす。この作業を昔から大事にしてきました」と語った。さらに伯山は「私が入門した当時は、講談界のインフラが整っていなかったんですよ。こういう入門みたいな本もなかったですし、映像や音源も少ないので、初心者向けの入り口を広げようということで、私はインフラを整えたいことをかなり重要視しているので、ある種のインフラが整う本かと思います。講談師の人数を増やす、お客さんの人数を増やす作業が全盛期に近づく唯一の方法かと思います」と分析した。

講談界への貢献度について聞かれると「僕の貢献度は、もう絶大です。とんでもないレベルです」と自画自賛。「ただこれは僕がそういう役割を今しているだけであって、師匠やほかの先輩や後輩たちも一丸となってやっている。僕はたまたま役割がめぐってきて、その役割を果たしているだけです。たまたまいろんな運だとか役割が巡ってきて、やらなきゃいけないことを粛々とやっているということでしょうか。別に僕がやらなくても、他の方がやればいいとは思っていますけど、私の弟子たちもどんどん育って、そういう感じになってくれたらうれしいと思います。これは役割の問題で、人間は、やっぱり役割をちゃんとやらないと業界全体が潤わないので。それは、ちゃんとやらないといけないと思います」と話した。続けて「なにかのきっかけでものすごい才能があるやつを講談に振り向かせることができたら、という作業を今あらゆる媒体でやっていて、僕なんか比べ物にならない才能の持ち主が講談界に来ることを期待しています」とコメントした。

今作の見どころとして、師匠であり人間国宝の神田松鯉との対談も収録されるが、「師匠が言っていたのが、修行自体は大事なのはもちろんですが、ただ人について言われるがままに修業するだけではなくて、自分の頭で言われたことの意味を考える修業も必要です。そういうふうに伯山は指導するべきだし、彼らもそういう自覚のもとで取り組んでもらえると実りのある修行になりますと話してくれたんですよ。これは僕びっくりました」と振り返った。

さらに伯山は「くだらないんですけど、バレ講談、いわゆる艶っぽい講談。キャバレーとかお座敷で披露するエッチな講談のようなもので、こういうのは活字にも映像にも音源にも残っていないんですよ。ニーズがないからといって下に伝えていかないと残らないんですよ。活字にしたって誰も買わないと思いますけど、それは僕は惜しいなと思っていています」としみじみ語った。「今回の師弟対談で『大石主税の初夜』の講談について話しましたけど、こういうのを資料として、文字として残す。これから僕が一番やらなきゃいけないことは、『大石主税の初夜』のようなエロい話しをうちの師匠の音源や映像で撮っておきたいです。そういう講談の良さも残しておきたいんですよね」とアピールした。

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