野菜づくりは社会づくり、nestが鴨志田農園から社会課題の解決方法を学ぶ(後編)

堆肥について説明する鴨志田農園の鴨志田氏(東京・三鷹市、写真はいずれも6月17日のフィールドワークの様子)

同じ志を持つ若い世代が共創し、アクションを起こすサステナブル・ブランド ジャパンのユースコミュニティnest [SB Japan Youth Community]は、5月と6月のプログラムで、生ごみを堆肥化させ野菜作りを行う鴨志田農園(東京・三鷹市)から、コンポストを通じて社会課題の捉え方や解決方法の探し方を学んだ。もと数学教師で実践的な書籍を紹介しながら話す鴨志田農園の鴨志田純氏は、消費者とのコミュニケーション方法として大事なのは、言葉ではなくてデザインだという。

小さな取り組みから、緩やかに社会全体をより良い方向へ

5月20日に開催された事前学習の講演の後半では、鴨志田氏はどのような堆肥づくりをしているかを説明。「CNBM分類」という考え方から材料を収集しているという。「C」は炭素で例えば、もみがらやおがくずだ。「N」は窒素で米ぬかなど。「M」はミネラルで牡蠣殻や関東平野でよく出る赤土などだ。さらに落葉広葉樹5種類以上をまぜて、「B」の微生物で発酵させる。さらに60度の高温発酵で1カ月かけて病原菌を消滅させた堆肥は、臭いが無くなっているという。

「生ごみはなぜ、腐るのか?をまず考えてほしい」と鴨志田氏は強調する。原因は前述の通り水分が多いことと、養分が高いことだ。それぞれ天日干しにすることで水分は抜け、おがくずなどの炭素資材で養分を下げることができる。「きちんとした肥料を作るとその後の管理作業の費用を飛躍的に減らすことができるし、いい堆肥を作ることが技術の要らない良い技術に直結する」と話した。

コンポストを家庭で置けない会員が生ごみを置いていく場所。ほとんど臭いがない
農園でできたトマト。とても色が鮮やかだ

また、どのように社会課題を捉えて解決に向けて取り組みかについて、鴨志田氏はまず、「地域の悩みの種になっている資源を調べること」を提案。採算ベースと言われている20キロ圏内を意識し、自分の所属流域を知ってその中で資源循環を考え、それらを基にポテンシャルマップを作成することを薦めた。そして、伝える方法は言葉ではなくてデザインだ。

鴨志田氏は何かを声高に訴えるのではなく、商品デザインから発信している例として、オランダのチョコレート「TONY’S」を挙げた。「TONY’S」の表明は平らでなく溝を入れて大小のタイルが割れたようなデザインになっているが、これは富の不均衡や児童労働を表しているのだという。

「物事をいきなり劇的に移行することは難しい。目の前の小さなものからでも、緩やかに社会全体の移行を促すことができる。今日の話がそのきっかけになったら嬉しい」と鴨志田氏はまとめた。

その後メンバーは、各自ワークシートに問いの形で学びたいことや知りたいこと、6月の定例までにできることを書きだした。メンバーは「目的のために逆算して考えるのではなく、行動によって少しずつ軌道修正をしていく点や、興味のある分野以外にも目を向けて飛び込むことの重要性について再認識した」「堆肥化は、サステナブルな活動においても身近な事で今まできちんと学んでいたつもりだった。だが、『完熟処理』などといった必要なことに意識を向けずにいた自分に気づくとともに、周りや周囲の環境はどうだったかも同時に振り返れた」など、多くの気づきを得たようだ。

発酵した堆肥であれば農産物は腐らない

nestが6月17日に訪れたのは、アパートが隣接する約2300平方メートルの広さの、キュウリやトマト、ズッキーニなどを育てている農園だ。このフィールドワークには26人が参加。ボランティアで参加した第一期のメンターが協力し、オンラインで農場見学の様子を実況中継した。

「臭いを嗅いでみて」と鴨志田氏

鴨志田氏はまず、「住宅地なので堆肥の臭いを出してしまうのはタブー。材料をバランスよく調節していくと、こういうふうに臭いが出ないものを作れるということを知ってほしい」と、完熟した堆肥の瓶と未熟の瓶をメンバーに渡した。メンバーは、「あれ?こっちは匂わない?」と瓶を交互に嗅いでいた。「未熟なものがあると腐敗臭が出るが、きちんと発酵していると、無臭もしくは土の香りがしてくる」と鴨志田氏は説明する。こうした発酵した堆肥であれば、農産物も腐らずにただ枯れていくだけだという。

また農園の一角には、堆肥をつくる生ごみ置き場があり、鴨志田氏はおがくずなどが混ざった堆肥の山に温度計を指して、高温処理をしていることを説明。また、畑のうねで、キュウリとトマトをもぎり、メンバーに勧めた。メンバーは新鮮なキュウリを手に取って「とげが痛い!」「ほぼ水分なのに味がある!」「断面が美しい!」と歓声を上げていた。

都内の小さい面積でもきちんと売り上げがあり、経済合理性を取りながら環境への負荷を下げる農業が実際にできることを確認し、嗅覚や味覚を通じて農園を体感したメンバー。場所を三鷹市市民協働センターに移して、振り返りをした。

会場の様子

早速始まった質疑応答では、「サークルでコンポストをやっているが、臭いがきついというクレームがあり、活動の循環ができていない。どうしたらいいか?」という具体的な質問があり、鴨志田氏は「市民菜園を自分たちで持ってはどうか?まず、自分で作って食べるまでやってみると、どういう過程があるのかが分かる。絵にかいた餅を餅にしてください」とアドバイスした。

また「農業をやっていて楽しかったこと、嬉しかったことは?」という質問に、「娘が野菜をたくさん食べてくれること。食べてみて美味しかったと言われると、経済的につながるよりも嬉しい。NPOの受け入れで来た、キュウリ嫌いの子がうちのキュウリを食べて作文に書いてくれたこともある。コミュニティで何かが生まれることが楽しい」と鴨志田氏は笑顔で答えた。

メンバーは、「五感を通じた体験がとても楽しかった。自分にとって、土の匂いも触り心地も久々の感覚で新鮮だった。事前学習と実地体験で頭の整理も進んだ」「自分が学習した時と現地に行った時では、やはり感じ取るものが違った。触れて、気づいて浮かぶ疑問の方が強く鮮明」「質疑応答の時間が濃くてよかった。やはり“人”が大事なんだと思った」など、多くの学びを得たようだった。

【前編はこちら】
野菜づくりは社会づくり、nestが鴨志田農園から社会課題の解決方法を学ぶ(前編)

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