繊細と鈍感のあいだで 星野陸也の“アイアンカバー”と欧州転戦で得たもの

星野陸也が自覚する最近の変化とは?(撮影/村上航)

◇メジャー最終戦◇全英オープン 3日目(22日)◇ロイヤルリバプール(イングランド)◇7383yd(パー71)

ウッド系クラブのヘッドカバーは当たり前でも、“アイアン用”を愛用しているゴルファーはそう多くない。几帳面なアマチュアが選ぶくらいで、試合中はキャディにバッグを預けるプロでは極めて少数派。それでいうと、星野陸也はその珍しい部類に入る。

使い始めたのは昨秋で、理由がまた独特だ。アイアンのヘッドに貼り付けられているバランス調整用の鉛が、ラウンド中や移動中にキャディバッグ内で他のヘッドと当たり、はがれてしまうのがイヤ。「みんな結構、苦悩だと思うんですよ。鉛ひとつ貼るのに、調整に30分くらいかかる。時間がもったいない」

アイアンにヘッドカバー。隣り合わせのヘッドが当たっても大丈夫なように、日によって奇数か偶数のクラブにつけている(撮影/桂川洋一)

みんな…か、どうかは置いておいて、星野がクラブ選びに超・繊細なことは日本ツアーで有名だ。鉛のシートをわずか2グラムに切り刻むため、糸切りバサミを持参するほど。ちなみに、現在使用中のグレーのカバーは一時帰国中に地元茨城で買った。「1つ400円くらい!」。お眼鏡にかなうものを探して、ゴルフショップを3、4件回ったという。

ゴルフをする上で、敏感な性格は度が過ぎると悪影響も及ぼしかねない。「体のコンディションも、打ち方も、ちょっと体に“詰まり”みたいなものがあると、めちゃくちゃ気になっていた」。プレー中、悩みが内面に向きすぎると、集中力が削がれることもある。

海外転戦により27歳の心境に変化が(撮影/村上航)

「でも自分、ちょっと鈍感になってきましたよ」。そう笑って胸を張れるのは、今季の欧州ツアー(DPワールドツアー)参戦によるところが大きい。毎週、違う国を渡り歩く生活は日本でのそれとはまったく異なる。「体の状態は最高を維持できない。気候で体調をちょっと崩したり、飛行機の移動でも体の感覚はズレるんです」

“鈍感”への変化を自覚する(撮影/村上航)

昨年までなら、それを言い訳にする自分がいた。「でもこっちでは、次の国に着いて、知らないコースをすぐに回らなくちゃいけない。前は体が“少し悪いと、全部悪い”みたいな感じだったんです。ちょっと感覚が出ないと『ああ、クラブが軽く感じるからダメだ』なんて。でも、今は“悪い感覚のこと”も分かってきて、『悪い感覚でも逆に何か利用できないか』とプラスに考えたり。もちろん、いつも良いコンディションを目指しますけどね」

今週は「全英」で自身初の予選を通過を果たした(撮影/村上航)

海外生活を続けて、改めて実感することがあった。「例えば、松山(英樹)さんが米国から帰ってすぐにZOZO(チャンピオンシップ)で勝ったじゃないですか(2021年)。そういうのって、やっぱりスゲエなって思うんですよ。絶対に疲れがあるはずで、その中でベストを出す感覚が大事」。問われるのは、心身ともにタフで、今ある自分を受け入れてプレーする姿勢。世界を股にかけて戦う覚悟ができてきた。(イングランド・ホイレイク/桂川洋一)

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