4度目の挑戦で受賞 山之口貘賞のローゼル川田さん「通ってきた道、忘れ去ってはいけない」タイトルに込めた思い

 第45回山之口貘賞を受賞したローゼル川田さん(74)の詩集「今はむかし むかしは今」。沖縄の懐かしい風景や戦争の痕跡を描きつつ、過去が今を生きる私たちの時間と場所につながっていることを浮かび上がらせる。タイトルに込めた思いについて、ローゼルさんは「昔と今には普遍性と横断性がある。過去の歴史と知恵が今こそ大切だ。通ってきた道を忘れ去ってはいけない」と強調する。

 詩集の冒頭を飾る詩が「木造映画館」。少年の頃に首里劇場で映画を見た思い出を克明に記す。詩の後半は観客のいなくなった現在の首里劇場を描きつつ、「古いスピーカーから『まだいける』の声が聞こえてくる」と締めくくる。

 詩集の最後に据えた詩は「痕跡の長い一日」。自身が関わった造成地の地中から、沖縄戦当時の日本軍の大砲と砲弾が出てきたことを9ページにわたり書いた。現場のリアルな描写に平和への祈りを込めた。ほかにも親族の体験を基にした「とおいあなた」など、個の人生を基にした詩から歴史が見えてくる。

 2018年に刊行した初の詩集「廃虚の風」を皮切りに、4度目の挑戦で貘賞に選ばれた。「素直にうれしい。貘さんの詩だけでなく随筆も全て好き」と笑顔を見せる。「今はむかし―」には貘について書いた「三郎少年」という詩もある。

 貘について「自分を客観視して生きられる人。俯瞰(ふかん)するまなざし、宇宙的な目線がある。夜空と陸との隙間に潜り込んで寝た、といった表現がとても魅力的だ」と指摘し、「自分も貘さんのような俯瞰する目を持って詩を作っていきたい」と語った。

(伊佐尚記)
ひと 水彩画、俳句 多彩な表現
 書斎には建築や文化、歴史など幅広い分野の本が並び、机の上には絵の具とパレットが置かれている。第45回山之口貘賞に選ばれたローゼル川田さんの本業は建築士。表現手法は詩にとどまらず、水彩画、随筆、俳句と多彩だ。「山之口貘さんも少年の頃から絵を描くのが好きだった。非常に親近感がある」と共通項を挙げ、受賞を喜ぶ。

 那覇市首里当蔵町の生まれ。那覇市の実家と大阪市西成区に住む親戚宅を行き来しながら育った。福岡県の九州産業大学に進み、1971年に卒業。関西で働いた後に沖縄に戻り、設計事務所を開いた。貘の詩は大学時代に読むようになったという。

 絵は「生まれつき描けた」といい、文章を書くのも好きだった。地元紙で水彩画と随筆の連載をし、それらをまとめた「琉球風画帖 夢うつつ」「よみがえる沖縄風景詩」などの著作がある。

 詩より先に、15年ほど前に俳句を始めた。2012年には第10回沖縄忌俳句大会で自身の句「花でいご 家族の墓は 基地の中」が大賞に輝いた。同時に「もっと長く書いてみたい。素の感覚を解き放てるのではないか」とも思い、6年程前から集中して詩を書き始めた。「俳句と詩には共通項がある」と語る。今後は「私の視点で山之口貘論を書きたい」と、さらなる意欲を示す。

 ペンネームは、かつて友人や親族と共に南城市知念の農園でローゼルを育て、農園の近くに川や田んぼがあったことに由来する。昔の沖縄で家の特徴から屋号を付けたことに倣ったという。那覇市繁多川在住。74歳。

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