「どうする家康」岡田准一が織田信長役を全う。信長、そして松本潤への思いを語る

NHK総合ほかで放送中の大河ドラマ「どうする家康」(日曜午後8:00ほか)。7月23日放送・第28回「本能寺の変」では、岡田准一演じる織田信長の最期が描かれた。ここまで、迫力ある演技で信長役を務めてきた岡田が、役柄に対する思いや、大切なシーンだったと振り返る、第27回の安土城で家康と対峙(たいじ)するシーン、徳川家康役・松本潤への思いを語った。

松本が主人公・家康を演じる「どうする家康」は、誰もが知る歴史上の有名人である家康の生涯を、新たな視点で描いた波瀾(はらん)万丈のエンターテインメント時代劇。脚本は、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「相棒」シリーズ(テレビ朝日系)、「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズ(ともにフジテレビ系)などで知られる古沢良太氏が担当している。

第28回では、信長に挑発され、自分のやり方で世を治めると宣言した家康。やがて、信長がわずかな手勢のみを連れて京の本能寺に入ったとの知らせが届く。家康は、信長を討つ準備を整えるため堺へ。そこへ、市(北川景子)が現れる。家康は市から、信長の知られざる思いを聞かされ戸惑うが、信長を討つ好機は今夜しかなく、一世一代の決断を迫られることに。悩むうちに夜が明け、本能寺は炎に包まれる、という物語が展開された。

ここまで演じてきてた信長の人物像について、岡田は「信長は、愛情を伝えるのが苦手な人、いち早く結果を求める人だと思っています。信長なりに周囲に愛情をかけているけれど、厳しく接するからそれが相手には伝わりにくい。競争させて人を育てるのは得意だけれど、愛情は伝わっていないので、ただ恐怖で人を従えているように見えてしまうし、競い合わせる中で反発する人も生み出してしまうのだと思います。史実上の信長も、浅井長政など、かわいがってきた人たちから、たびたび裏切られています。周りに愛情をかけているつもりなのに、気付かれない上に裏切られる。そして何度も裏切りに合っているのに心の底では裏切りに慣れていない…不器用で分かりにくいけれど、愛があって、本当はシンプルでピュアな人なのかなと思っています」と自身の解釈を明かす。

続けて、「信長は皆さんから愛されている戦国武将の1人で、視聴者の皆さんもそれぞれの信長像をお持ちだろうと思います。今作なりの信長をつくり上げるのは自分にとって挑戦でしたが、各登場人物が家康に対してどんな役割を担うかが描かれている脚本だったので、それをいかに全うするかということと、実際も先輩・後輩の関係性である僕と松本くんだからこそ生み出せるキャラクターにしたいという思いで務めてきました。意識してきたのは、家康に対してプレッシャーを与え続け、彼にとっての大いなる壁でいること。特に、プレッシャーを与えるだけでなく、その裏にある家康への期待や愛を見え隠れさせ、本当は心を許しているのでは…と思わせる何かを出したいというのは考えてきました」と役づくりについて語る。

さらに、「ただ、今作は家康をメインにした物語なので、映像上で信長の生涯を見せられる訳ではない。少ないシーンの中でインパクトを残し、作品における役割を全うするという意味では、家康に対する思いのぶつけ方も、重めにやらないとさらりと流れていってしまうなと危惧していました。恐怖の対象でもあり、兄のような存在でもあり、時には強く、時には厳しく、時には怖く、時には優しく。振り返って、やり過ぎたかなと反省していることもありますが、家康への愛は重めですよね(笑)」と本作ならではの信長像について触れ、「それが特に現れていたのが第14回『金ヶ崎でどうする!』で、家康から『お前の心のうちなど分かるものか』と言われて信長が涙を流すシーン。正直あのシーンで泣くつもりはなかったのですが、演じてみたら勝手に涙が流れてきたので、それはそれでありなのかなと、自分の中の信長の感情に従おうと思ったのを覚えています」と話題となった、“涙を流す信長”についても振り返る。

また、「ぶつかり合うことはあっても、幼い頃から家康を特別に思っているのは確か」という信長の家康の関係を、「でも時が経つにつれて、家康も弱小国の主(あるじ)だったのがどんどん成り上がり、立場も変わって。信長のせいで愛する妻子を亡くすことになったり、状況も変化している。そうした中で2人の関係も徐々に変わり、気持ちがすれ違ってきているのかなと思います。頼りにしているし期待もしているけれど、素直に言葉にせず探り合うし、裏切られる恐れもある。家康は天下を背負う重みを感じつつも、信長のやり方に疑問を持ち、討つべきかという選択を迫られていくんです」と分析する。

劇中で描かれた信長の最期においては、「家康が妻子を亡くすきっかけをつくったのは信長なので、それに対して家康がどう思っているかは想像していたでしょう。状況的に裏切られる可能性もあると思っていたはずなので、家康が決心して討ちに来るのなら、受け止めて戦う。でも、ただやられる気はなかっただろうと思います。最終的に家康は討たないという彼らしい決断をする訳ですが、家康に本能寺へ来てほしいと願っていたかと聞かれると、どうでしょう…難しいですね。でも、明智光秀に討たれた時、最期に思い出すのはやはり家康だったのだろうなと。家康を救いのような、恐怖の対象のような、頼りたいけど突き放したいような…2人ならではの関係性、愛情が死ぬ間際まで続いていたのかなと思います」と自身の解釈を述べた。

第27回で描かれた安土城で家康と対峙するシーンに関しては、「織田信長が出てくる作品では、本能寺の変が注目されがちですが、今作は違うなと感じています。家康が信長を乗り越えて自分の歩むべき道をはっきりと見つける、第27回のラスト、安土城で家康と対峙するシーンの方が重要だと思っていました。そして個人的な裏テーマとしても、真面目な松本くんが殻を破って自分なりの家康像を見つけられるよう、最後のお手伝いとして、どんな背中を見せられるかということも考えていました」と回顧。

そして、「初めて経験したのは大河ドラマ『軍師官兵衛』の頃なのですが、時々、芝居を通して演じている自分自身も傷つくことがあります。2~3日経っても心が泣いていて、回復できないことがあるんです。それはセリフや段取りを意識していると得られないですし、大河ドラマのように、1年以上かけて役と向き合うからこそ味わえる、役者をやる上でのご褒美だと思っています。そんな感覚を、第27回のこのシーンでも味わいたいし、松本くんにも感じてほしい。ボロボロになって、セリフも段取りも見栄えも気にせず、役としてぶつかり合える瞬間をつくりたい、異様な熱のあるシーンにしたいと思って臨みました」と自らの経験を踏まえながら、松本と向き合ったことをうかがわせる。

加えて、「信長は、恐怖で人を従え、すべてを強引に覆そうとしてきました。多くの人をあやめてきたし、物事を早く変えようとしてきた人。信長としても苦しさはあったでしょうが、強靱な精神を持ち、覚悟を決めて、突き進んできたと思います。家臣たちのことも競わせながら育てる側面があり、人を育てるのはうまい。でも、そのやり方は反発を生み、裏切られることもある。そして自分の死後、再び争いが生じて結局乱世に逆戻りしてしまう…。後に太平の世を築く家康に“あなたのやり方は身を滅ぼす”と気付きを与え、“違うやり方で世を治める”と固く決意させるきっかけとなるシーン。信長に限界がきていて、実はもろくて壊れるギリギリなのかもしれないと家康に感じさせることが必要で、どう表現するかは悩みましたが、今作の集大成という気持ちで演じました」と、ここまで演じてきた信長という人物への思いをすべてぶつけたシーンだったことを明かした。

そんな集大成となるシーンを撮影した数日後、松本とスタジオで再会したという岡田。「松本くんから、開口一番、『まだ回復しません』と言われたので、それほど心に残るシーンになったのならよかったですし、信長として家康にバトンを渡し、次のステージに送り出せたのかなと安堵したのを覚えています」と率直に語った。

この先も撮影が続く松本に向けて、「松本くんと話したこともあるのですが、第40回に突入するまでに、自分なりの答えを見つけてくれるといいなと思っています。人それぞれ意見はあると思いますが、結局は自分で『これが家康だ』と胸を張って言えた時に初めて、本当の家康になれると思いますし、それはドラマを見てくださる方にも伝わるものだと思います。でも、そこまで到達するには、頭に描いたプランをなぞるだけでは駄目で。スタッフやキャストの皆さまとセッションしてピースを拾い集めて感情を爆発させて、作り上げた先にあるものだと思っています。彼なら、それをつかみ取ってくれると信じています」と、より一層熱のこもった演技で作品をけん引してほしいと激励。

「作品は折り返し地点まできましたが、ある意味、第29回以降が『どうする家康』の“始まり”だと思っています。瀨名や信長との別れを経た後、家康がどのように天下統一への道を歩むのか。家康の成長と完成を、松本くんがどう作り上げていくのか。近くで見られないのは残念ですが、これからは僕も視聴者の皆さんと一緒に、放送を楽しみたいと思います」と大きな期待を寄せている。

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