【第2回WUBS】山﨑一渉所属、ラドフォード大のバスケットボール - ダリス・ニコルズHCが語るエキサイティングなラン&ガンスタイル

8月10日(木)の開幕までいよいよあと3週間を切ったWUBS(Sun Chlorella presents World University Basketball Series=ワールド・ユニバーシティー・バスケットボール・シリーズ)。この大会にアメリカから来日して出場するのダリス・ニコルズHCが、月刊バスケットボールWEBとの独占インタビューに応じた。ニコルズHCは、飛躍を収めた昨シーズンをチームの特徴に触れながら振り返り、WUBSへの豊富、そして山﨑との出会いから現在までの学生生活の支援など、興味深い話を語ってくれている。

仙台大明成出身の山﨑一渉が2年生として在籍するラドフォード大は、NCAAディビジョン1のビッグサウス・カンファレンスに所属するチーム。WUBSでは8月11日(金=DAY1)の第2試合(Game2、13:30ティップオフ予定)でと初戦を戦う。

大学としては元来、教育関係の人材育成機関としての歴史を歩んでおり、ラドフォードという名前はキャンパスの所在地であるバージニア州ラドフォードに由来している。ハイランダーズというニックネームは、この地に受け継がれているスコットランドとアイルランドの伝統に関連しており、ラドフォードの町自体もこの伝統を大切にする祭典などの催しを毎年行っているそうだ。

NCAAディビジョン1のバスケットボールでは、俗に「パワー・シックス」と呼ばれる全米トップクラスの強豪チームが集まる6つのカンファレンスが毎年注目の的となるが、真にその奥深さを物語るのは、それ以外のカンファレンスから光を放つ有力校やタレントたちの存在だ。そしてハンランダーズは間違いなくそんな存在の一つであり、2023-24シーズンでも勢いのあるチームといえるだろう。

ニコルズHCがラドフォード大のヘッドポジションに就いたのは2021-22シーズン。最初のシーズンは11勝18敗と負け越し、NCAA」ディビジョン1のヘッドコーチとして洗礼を受けた形となったが、翌2022-23シーズンは13人の新メンバーを迎え入れたチームで21勝15敗(ビッグサウス・カンファレンスでは12勝6敗)と勝ち越し、カンファレンス・チャンピオンシップで準決勝に進出。この好成績を評価されて招待を受けたCBI(College Basketball Invitational=ポストシーズンのビッグトーナメントの一つ)でも準決勝進出を果たすに至っている。

ラドフォード大のコーチングスタッフ。左から2番目がダリス・ニコルズHCで、アシスタント陣は左からティモシー・ピート、シェーン・ニコルズ(ヘッドコーチの実兄)、ジェームズ・ハリング(写真/©Radford University Athletics)

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チームのダイバーシティーがプラスに働き飛躍を遂げた2022-23シーズン
――まずは2022-23シーズンについてお伺いします。ご自分では昨シーズンの仕事をどのように評価していますか?

1年目から2年目にかけて、私たちは大きな飛躍を遂げたと思います。1年目はどうしても厳しくなるものです。まずは自分の信念や文化を、スタッフやプレーヤーに浸透させる必要がありますからね。慣れるのに1年かかり、勧誘して良い関係を築いたプレーヤーを迎え入れ連れられたことで、1年目から2年目にジャンプすることができました。

――本当に急速な変革だったと思います。NCAAディビジョン1のバスケットボールでトランスファー・ポータル(他大学への転入を望むプレーヤーがその意思を公示するシステム)が話題となる時代とはいえ、勧誘は簡単ではなかったと思います。強力なチームをまとめることができた成功の要因は何だったのでしょうか?

適切なプレーヤーを正しく評価できたのだと思います。才能あるプレーヤーを加えたというだけではなく、彼らは人格的にも優れたプレーヤーなんです。非常に利他的な考え方をできるんですよ。そうした適切な人材をトランスファー・ポータルの時代に見つけるのは難しいことですが、私たちはそれをうまくやれたと思います。才能と個性をまとめていくのもさらに難しい仕事ではあるんですけれどね。

――その点では何がうまくいったんですか?

チームとしてまとまる助けになったのは、異なる国や文化からやってきたプレーヤーがたくさんいたことだったと思います。日本、ハンガリー、セネガル、マリから人が集まれば、バスケットボール・プレーヤーとしてはもちろんですが、人としてお互いについてより多く学ぶために質問し合うようになるものです。

例えば私も、日本の文化に慣れようとして、気がつくとイブにたくさんの質問をしていることがあるんです。うちにはハンガリー出身のプレーヤーもいますが、私もハンガリーでプロとしてプレーしていました。プレーヤー同士の間でも今は日本語を話そうとしていて、お互いの仲間について学べるようになっていて、それが私たちの団結につながったと思います。チームには素晴らしい状況ですよね。

――チームとしてどのようなプレーをしているのかについても大変興味があります。“ハイランダーズ”バスケットボールとはどんなものでしょうか?

我々はとことんタフで、強靭なフィジカルがあります。今シーズンは2人のビッグマンと3人のガードでプレーします。昨シーズンは4人のガードでプレーしましたが、それもうまく取り入れて、さまざまなスタイルで戦うつもりです。3Pショットもどんどん打っていきますし、楽にレイアップで得点できるようなオフェンスを展開していきます。最大のポイントは多くのプレーヤーを起用することで、ベンチのメンバーもどんどん使って相手チームを消耗させていきたいです。


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\--{WUBSでは学びのために「山﨑の日本語通訳サポート禁止令」発動(?)}--

WUBSでは学びのために「山﨑の日本語通訳サポート禁止令」発動(?)
——8月のWUBSはオフシーズンの日本遠征で、稀な機会ですよね。コーチご自身にとっても、チームと個々の若者たちにとってもこれまでにない経験ですし、プレシーズンでコンディション調整を含めなかなかな挑戦かもしれません。難しいと感じる部分はありますか? また8月に権威ある大会でプレーすることにどんな意味を感じていますか?

教育機関としては小規模な我々にとっては特別です。日本に行って、大学はもちろん私の自身の出身地であるラドフォードを代表することができるのですから、本当に特別なことです。この招待を通じて、国外に出たことがないチームの仲間たちも異なる文化やまったく新しい、異なる世界を体験することができますしね。

イブがアメリカに来て英語やあらゆることを学びながらまったく異なる世界を体験しなければならなかったのと同じことを、日本に行く我々が小さな規模で体験できるのも楽しみなところです。私はプレーヤーたちに、「イブに通訳やらなにやらしないように言うからね。皆で彼がここに来たときにどんなことを感じたか学ぼう。彼は自分ですべてを理解しなければならなかったんだから」と言ってあります。「これは彼の体験に共感する機会なんだ。皆にも同じことを小さな規模で経験してほしい」とね。

——コート外での活動ではどんなことを楽しみにしていますか?

とにかくいろいろと学びたいですね。これまでにバスケットボールという競技を通じて、私は世界中を飛び回ってきました。でも日本は今回が初めてです。だからその体験ができることを幸運に思っています。バスケットボールの試合で旅することで、スポーツがさまざまな形で人々を結びつけるところを見られます。バスケットボールほどグローバルな競技もそう多くはありません。だから大会を通じて異文化を体験できることが楽しみです。

——試合会場について下調べなどもしてみましたか? 今回の会場は1964年の東京オリンピックで決勝戦が行われた場所ですよ。ラリー・ブラウンやウォルト・ハザードなどのメンバーが金メダルを目指してプレーしたのと同じコートです。

下調べはしましたが、それは知りませんでした! 建物だけでなくコートもそうなんですか?

――建物があるだけでなくコートそのものもありますから、これも特別な体験になるのではないでしょうか。ぜひ思い切り楽しんでいただきたいと思います。

ええ、これは楽しみです!

自身の海外プレー経験を生かして「イブを助けたい」
——山﨑一渉選手についても聞かせてください。まず、どのようにして彼を発見したのですか?

実は私のアシスタントの一人、ジェームズ・ハリングが、私も知らない日本の人々とのつながりを持っているんです。シーズン中に彼とズームでミーティングをしたのですが、当時は提案できる奨学金がありませんでした。そこで春になって奨学金の枠ができたところで、あらためて彼と再度ズームを行い、満額の奨学金を提案しました。

彼のプレーを生で見る機会はありませんでしたが、映像をたくさん見て、日本で信頼のおける多くの人々とやり取りを重ねて奨学金の提示に至ったわけです。奇遇にも、日本のチームでコーチをしている人の中に、私がプレーし、アシスタントも務めたウエストバージニア大学のマネージャーだった人物もいました。日本にはたくさんのつながりがあります。私は八村 塁選手と同じワッサーマンに所属していて、アリゾナ大学のトミー・ロイドHC(ゴンザガ大に八村が在籍していた当時アシスタントを務めていた人物)に電話して、彼のプレーを見たことがあるか尋ねたり。すると、彼自身は見ていませんでしたが、ケン(ゴンザガ大のスタッフ、中川 拳氏)が見たことがあるとわかり、私から彼に電話をしました。私が「山﨑一渉はどんなプレーヤーですか?」と尋ねると、「本当に優秀です。あなたがたにも良いでしょう」との返答でした。世の中、小さいものですね。

ニコルズHCは山﨑の立場に立って競技活動に取り組めるような支援体制を作っている様子だ(写真/©Radford University Athletics)

——日本人とは関係が深いんですね。

ええ、これからもっと深めていきたいですしね。

——山﨑選手の第一印象はどんなものでしたか? シューターとして獲得したと思いますが。

驚いたのは、彼のフィジカルの強さでした。クローズアウトしてくるディフェンダーへのカウンターがあれほどうまいとも知りませんでした。彼とはそのカウンターのアングルをより鋭くするためにボールハンドリングの練習に取り組んでいますが、彼は迫ってくる相手を抜き去る能力を持っています。ものすごく素早いというわけではありませんが、相手を背にして得点できるだけの強さがあります。ここにやってきた彼を見て驚いたのはそういったところです。クローズアウトへのアタックは思った以上でした。

——2022-23シーズンの彼のプレーぶりはどう評価していますか?

私は、彼が本当に良い仕事をしたと思っています。良い一年だったと思いますよ。新入生の多くがレベルの変化に苦しむものですし、彼にとってもそれは同じだったでしょう。プレースタイルもそれまでとは違ったはずですし、言葉の変化という壁など、いくつも考慮すべきことがあります。まずは一年、成功だったと思いますし、勝利にも貢献しました。

数字を眺めて「なんだ、平均2.2得点だったのか」という人がいるかもしれませんが、彼を投入した試合はたくさんあり、彼は私たちがそれらの試合に勝つのを助けてくれました。我々は彼を何度も起用したし、その中で勝つための力となってくれたんです。彼は新入生として本当に良い年を過ごしたと思いますし、来シーズンはさらに良い年を過ごすと期待しています。

——言語の壁を克服するという点で、彼がうまく機能するのを助けるためにどんな支援をしていますか?

特に夏の間は映画を送って、英語で見て日本語で読んでもらうという宿題を出しています。いろいろと送っていますよ。英語の授業にも積極的に出席するように促しています。英語で1対1、1対2の状況でやり取りするようにして、同時に英語の個人家庭教師もつけています。

私たちは言語の壁の打破を早く実現しようとしましたが、どこでもそうだというわけではありません。彼には、「我々と一緒のときは、手振りでごまかさないように」とも伝えています。手を使わないようにと。「手を使わずにやり取りしてごらん。我々は君が何を言っているのかわからなくてもイラついたりしないから大丈夫だよ」とね。それから、「何かわからないときには、なんでも『イエス』と答えちゃいけないよ。理解できないなら、『わからない』と言うように」とも伝えました。そうやって彼が余裕を持てる幅を広げていく必要はありました。今すぐにわからなくてもいいんだよということを、彼にわかってもらえるように心がけたんです。

——うまく導かれているようですね!

ありがとうございます。何しろ自分自身、ヨーロッパでプレーしたときに彼と似たような経験を持っていたので、気持ちが理解できる部分があるのだと思います。私は自分の経験を通して彼を助けることができると思っています。

(以上独占インタビュー)

闘志と躍動感みなぎるフォワードのジャスティン・アーチャーもWUBSでの活躍が期待されるプレーヤーの一人だ(写真/©Radford University Athletics)

ラドフォード大の2023-24シーズンは、山﨑を含め10人が既存のメンバーだが、昨シーズンのスターターだったメンバー4人を含め6人が入れ替わっている。昨シーズン平均13.9得点でスコアリングリーダーだったダクアン・スミス、山﨑の同級生で爆発力があるコンボガードのケニオン・ジャイルズらが健在。フロントラインでは、昨シーズン3人いた210cm越えのビッグマンはダウントレイ・ピアース(211cm)一人となったが、200cm越えの力強いウイングプレーヤーが4人加わり、逆に層の厚みを増している。このポジションで山﨑の3Pショットが炸裂し、2022-23シーズンに平均7.7得点、チームハイの7.0リバウンドを記録したジャスティン・アーチャー(身長201cm、)らが躍動するようだと、カンファレンス王座とNCAAトーナメント出場権獲得が見えてきそうだ。

WUBSは大会で好成績を収めることだけでなく、そうした可能性に向けて現在の力を知る機会となる。その意味でも、非常に興味深く重要な大会となるに違いない。

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