「元暴力団員」口座開設“拒否”は差別と提訴…銀行側の「反社チェック」知られざる“精度”とは

水戸地方裁判所(yu_photo / PIXTA)

元暴力団員が暴力団から離脱して5年以上経過していたのにも関わらず、口座開設を拒否されたのは「不合理な差別」としてみずほ銀行に損害賠償を求めた訴訟の弁論準備手続きが7月18日、水戸地裁で行われた。

みずほ銀行側は裁判所に対し、「原告が指定暴力団の構成員で複数回逮捕歴を有する者と確認し、総合的な判断により拒絶した」などの答弁書を提出。双方の主張は真っ向から対立している……。

「元暴5年条項」を基に口座開設の可否を判断

司法担当記者が今回の訴訟の論点について解説する。

「みずほ銀行をはじめとしたメガバンクや地銀、信用金庫などは暴力団を離脱してからも5年以上経過しないと犯罪に利用されかねない、などの理由で口座開設をさせないことを盛り込んだ『元暴5年条項』を基に口座開設の可否を判断しています。この条項には口座開設のほか、携帯電話、賃貸物件などの契約なども含まれていますが、昨年2月には警察庁が組織の弱体化や再犯防止のために、元暴力団員の受け入れ先の企業が(更生支援のための)協賛企業であることなどを条件に給与を受け取るための口座開設を排除しないよう金融庁に求めています」

今回、訴訟を提起した元暴力団員は警察からの支援を受け、暴力団を離脱してすでに5年以上が経過していたというが、みずほ銀行側は、「(口座開設を)拒絶時点で原告の離脱を把握しておらず、離脱方法を得る情報はない。拒絶性に違法性はない」(同前)などと主張している。

「すべて調べるのは困難」

元暴力団員とおぼしき人物からの口座開設の申請があった際、銀行側は申請者が離脱者であるかどうかを各都道府県警に照会できることになっているが、「現実的には銀行側に申請者が元暴力団組員かどうか? 離脱してから5年以上経過しているかどうか? をすべて調べるのは困難だ」と民間調査会社幹部のA氏は言う。

「例えば、みずほなどの大手のメガバンクなら警察OBも含まれてるでしょうし、過去記事などのデータを基にした自社内の反社会的勢力情報を集約していると思いますが、それらの情報から元暴力団員の申請者が離脱から5年以上経過しているのかどうかを調べるのは困難ですし、すべての口座開設申請者の照会を警察にしていたらキリがありません」

各銀行から警察に対して照会があった場合、警察は所有している暴力団員の登録情報、「いわゆる“G登録”を基に暴力団員かどうかを調べる」(A氏)というのだが、

「現役の暴力団員であれば“該当アリ”との回答が出てきますが、離脱してから5年以上経過しているかどうかまでの回答は得ることはできません。そうした場合、銀行側は全国銀行協会が所有しているデータベースや自社内のデータベースを基に口座開設申請者が暴力団を離脱してから5年以上が経過しているかどうかを調査する。

もし過去に1件でも申請者が犯罪を起こしたような記事が出てくれば、それが10年以上前の記事であってもそうした情報などから総合的に口座開設の可否を判断せざるを得ないんです」(同前)

そのような理由から、一度行内で反社会的勢力とのデータが残ると口座開設するのはほぼ不可能に近いという。だがA氏は今回の裁判が今後の分水嶺(れい)になるかもしれない、と考える。

「今の世の中の動きを見ていると、いわゆる“ホワイト化”、過去に犯歴などがあった人をいつまでも犯罪者扱いするのはいかがなものかという風潮になってきています。一度暴力団員になると2度と人権はないのか、と。今回の裁判でも、もし原告側が破門状など暴力団から離脱してから5年以上が経過していることを証明できるものなどがあれば、裁判に勝つことができるかもしれません」

裁判の行方が注目される――。

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