白髪一雄という人物をご存じだろうか?戦後日本の前衛美術の中で重要な集団であった具体美術協会、通称「具体」の中心メンバーのひとりだ。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、クリエイティブプロデューサーの三好剛平さんが紹介した。
スターバックス前CEOが評価するアーティスト
まずは、白髪一雄がどれくらい世界的に高い評価を集めているかを知ってもらうために、2つのエピソードを紹介します。
2014年パリで開催されたサザビーズオークションでは、「激動する赤」という白髪一雄の作品が約5億円で落札されています。さらに2018年開催の同オークションでは、「高尾」という作品が今度は約11億3000万円で落札されており、それらはいずれもその年までの日本人作家では最高落札額を記録しています。
皆さんもご存知、スターバックスの前CEOであるハワード・シュルツさんも白髪一雄の作品を評価しており、スターバックスコーポレーションの自身の部屋に作品を飾っていたと言われています。
さらにもうひとつ。海外でも日本語がそのまま同じ意味で通じる言葉といえば、MANGAやOTAKU、KARAOKEといったサブカル系、SUSHI、TEMPURAあるいはTSUNAMIなど色々思いつくと思いますが、実は国内に限らず世界の美術シーンではこの白髪一雄が所属した具体美術協会の呼び名として、「GUTAI」と口にすれば今でもその名が通るほどに世界では広く知られた存在です。
日本国内ではなく欧米の美術界で広まった「具体」
具体美術協会、通称「具体」は、関西の抽象美術の先駆者=吉原治良というアーティストがリーダーとなって1954年に結成され、吉原が亡くなる1972年まで活動した美術集団でした。
「具体」には吉原治良が掲げた「人の真似をするな。今までにないものをつくれ」という思想が根底にあり、これは手法や表現としても「今までにないもの」を模索する姿勢であると同時に、作家自身の“誰にも似ていない”一個人の内面からだけ沸き起こる精神を、自由に、かつ具体的に、直接的に提示せよ、という厳格な意志でした。
作品は絵画だけにとどまらず、パフォーマンスを伴ったものもあり、当時、国内ではほとんど注目されませんでしたが、時を同じくして、世界的な美術のムーブメントのひとつとなっていたフランスの前衛芸術運動「アンフォルメル」を提唱したミシェル・タピエという批評家が、来日時に具体美術協会と出会ったことにより「GUTAI」の名前で1950年代後半から欧米の美術界で広く知られるようになりました。
北九州市も“世界の超重要アート”を所蔵
北九州市立美術館本館(北九州市戸畑区)でいま、「『具体』白髪一雄尼崎市コレクション」が開催されています。この展覧会の前半では、これまで紹介してきた「GUTAI」のシーンを概観できる重要作品の数々が展示されています。
この作品群は、実は北九州市立美術館の所蔵するコレクション作品で、その多くが先ほど紹介したミシェル・タピエ本人から購入された、きわめて歴史的意義の強い作品たちであり、そんな世界の超重要アートの数々が北九州市立美術館に所蔵されていることにまず驚きポイントがあります。
そして展覧会の後半では白髪一雄のキャリアを一気見できるゾーンが展開されています。白髪一雄は、1940年代から画家として自身の表現を模索していくなかで、いよいよ自分ならではの表現スタイルを掴み出す1950年代前半に具体美術協会に参加します。
白髪一雄ならではのスタイルとして、絵筆を使わず、天井から吊り下げたロープにつかまり、床に張ったキャンバスに足を使って描く「フット・ペインティング」という身体的表現を追求したことで知られています。意識を超越したストローク、スピード感、躍動感などが「記録」された作品の画面には、たしかな、「具体」的な実存感が直接観客に迫ってくるようで、圧倒的な迫力があります。
今回、この白髪一雄ゾーンについては、白髪の出身地である兵庫県尼崎市が所蔵する「尼崎市コレクション」から借りたものを織り交ぜて公開されており、これが、先ほどの「具体」の導入から、白髪一雄のキャリアをまるごと展望できる構成になっており、「具体」と白髪一雄という作家を知るにはこれ以上ないほど格好の展覧会になっています。
いま、福岡にいながら、世界の美術シーンで圧倒的に認知されている具体、白髪一雄の仕事を展望できるこの機会が、観覧料300円で見られるわけですから、これは行かない手はありません。会期は8月13日までです。ぜひチェックしてみてください。
田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、田中みずき、三好剛平
※放送情報は変更となる場合があります。