奄美の捕獲ノネコ 9割は首都圏へ 島外頼りのいびつな構造 「世界遺産の恩恵は受け、ノネコ要らないは身勝手」

奄美大島の年度別ノネコ捕獲数を確認する

 奄美・沖縄の世界自然遺産登録から26日で2年になる。鹿児島県奄美大島では、アマミノクロウサギなどの希少動物を補食する野生化した猫(ノネコ)の対策が道半ばだ。島内5市町村でつくる「ねこ対策協議会」と環境省はノネコの捕獲・譲渡に2018年度から着手。これまで466匹を捕らえたものの、600~1200匹とされる推定生息数には程遠い。譲渡先の9割を島外に頼るいびつな構図も浮かぶ。

 16日、横浜市にあるビルの一室。猫の飼い主を募る猫カフェ「ケット・シー」に数組の親子連れがいた。飼育する17匹のうち7匹は、奄美大島で捕獲されたノネコ。「たつご」「うけん」と島ゆかりの名前が付く。毛並みもきれいで野生だったとは見えない。

 同店ボランティアの市川由佳さん(54)は「昔に比べ避妊去勢も済み、人慣れした猫が運ばれてくる割合が高い。人里で暮らしていた猫が多いのだろう」とみる。

■「生まれた島の土に帰るべき」

 都内ではこの日、複数の団体による猫の譲渡会があった。犬猫の殺処分ゼロを目指すNPO法人「ゴールゼロ」(東京)の専門部会「あまみのねこひっこし応援団」が世話をしてきた奄美のノネコもいた。

 同応援団は、ねこ対策協の取り組み開始当初から、譲渡の認定団体としてノネコを引き受けてきた。その数は総捕獲数の9割、420匹に上る。首都圏を中心に飼育するほか、猫カフェと協力して新たな譲渡先を探す。「ケット・シー」もその一つだ。

 1匹約6000~7000円かかるノネコの輸送費などは寄付金で賄う。関係者は譲渡先を探す期間が1週間と短いため、収容期間の延長や財政的な支援の必要性を訴える。

 ゴールゼロ代表で獣医師の齊藤朋子さん(49)は「奄美で生まれた猫だから島の土に帰るべきだ。地元で譲渡の機会を設けて」と強調。ノネコを巡る問題については、人間が猫を捨て外飼いを続けた結果とし、「世界遺産の恩恵は受け、ノネコは要らないというのは身勝手」と憤る。

■繁殖力「マングースより驚異」

 なぜ奄美大島で譲渡数が少ないのか。ノネコの“予備軍”とされる野良猫も相当数いることが背景にある。対策協事務局の奄美市世界自然遺産課は「身近な野良猫を引き取る人はいるが、ノネコまで飼おうとする人は少ない」と説明する。輸送費支援や収容期間の延長には事業費増につながるなどと難色を示し、「手続きの簡素化などで譲渡先を広げたい」とした。

 ノネコは繁殖力が非常に強く、「(ほぼ根絶された)特定外来生物のマングースより脅威」との声もある。推計で150~200匹生息する徳之島では15年度から環境省と3町が捕獲・譲渡している。

 同省のノネコ捕獲検討会委員で、沖縄大の山田文雄客員教授(70)=動物学=は「猫を捕獲し、譲り渡さざるを得ない状況にしたのは島民なのに、島外の人が熱心に引き取る状況はいかがなものか。地元は責任を認識し、不幸な猫を増やさないようすべきだ」と指摘した。

◇ノネコの捕獲・譲渡
 
 2018年7月に始まった。主に環境省は捕獲、奄美大島5市町の「ねこ対策協議会」が譲渡を受け持つ。協議会が運営する奄美ノネコセンター(奄美市)に捕獲したノネコを一時収容。ノミ取りや避妊去勢、ウイルス検査などを経て島内外16の個人・団体の譲渡認定者に情報提供し、引き取り先を1週間募集する。見つからなければ安楽死させるが、これまで回避している。

〈関連〉猫カフェで育てられている奄美大島で捕獲されたノネコ(手前の2匹)=16日、神奈川県横浜市
奄美大島で捕獲されたノネコが並ぶ譲渡会=16日、東京都目黒区

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