アウディ、3度目のダカールラリーに向け『RS Q e-tron』を改良。ダンパーとタイヤに焦点

 チーム・アウディスポーツは、2024年のダカールラリー参戦に向け、彼らがT1カテゴリーから派生したT1 U(アルティメット)クラスで走らせる電動プロトタイプ・ラリーレイドカーの『アウディRS Q e-tron』にさらなる改良を加え、テストを継続している。

 DTMドイツ・ツーリングカー選手権由来の2.0リットル直4TFSIエンジンと、フォーミュラE用に設計された電動モーター『MGU05』を組み合わせた電動パワートレインを搭載したマシンで、2022年から“世界一過酷”とも言われるダカールラリーに参戦しているチーム・アウディスポーツ。

 彼らはサウジアラビアでのテストの後、7月11日から7日間にわたってスペインで別のテストを実施し1500km以上を走行したほか、同21日から22日にかけてはスペイン東部の都市テルエル周辺で行われた『バハ・アラゴン・ラリー』にも参戦した。長い伝統を誇る同イベントには、ステファン・ペテランセル/エドゥアール・ブーランジェ組、カルロス・サインツ/ルーカス・クルス組、マティアス・エクストローム/エミール・ベリークヴィスト組の3組が参加し、3台のアウディRS Q e-tronが出場している。

 なお、バハ・アラゴン・ラリーではT1 Uカテゴリーがないため、3台のアウディRS Q e-tronは章典外車両として出走することとなったが、アウディのモータースポーツ責任者であるロルフ・ミヒェルは参戦意義を次のように語った。

「我々は承認されているカテゴリーに参戦するわけではないが、このラリーに参戦することで、ドライバーとコドライバーが実戦条件下における徹底的な準備を行うことが可能になると同時に、我々の車両についてさらに詳しく知ることができるようになるんだ」

 ドライバーのひとりであるペテランセルも、バハ・アラゴン・ラリーにテスト参戦する意味について、次のようにコメントしている。

「バハ・アラゴンは、ほぼすべての点でダカールラリーと異なっている。ルートはWRCのように曲がりくねっているが、走行する距離はもっと長い」と、ダカール通算14勝を誇るベテランドライバー。

「ルートは明確に示されていて、基本的には道に迷うことはない」

「これらのさまざまな条件を考慮すると、バハは砂漠でのオフロード・プログラムに追加するのに適しているんだ」

アウディRS Q e-tron E2(2023年仕様)の電動パワートレインを紹介したインフォグラフィック
バハ・アラゴン・ラリーを前に行われたスペインでのテストは7月11日から7日間に及んだ
左からスヴェン・クヴァント(Qモータースポーツ代表)、エドゥアール・ブーランジェ、ステファン ペテランセル、ロルフ・ミヒェル(アウディ・モータースポーツ責任者) 2023バハ・アラゴン・ラリー

■改良はサスペンションとタイヤに焦点

 テクニカル・ディレクターのレオナルド・パスカーリと彼の開発チームは、スペインでのテスト走行およびテスト参戦では、アウディRS Q e-tronのサスペンションとタイヤに焦点を当てて改良を加えたと言う。

「多くの可能性を試すために、さまざまな設定をしたショックアブソーバーを用意したんだ。そして、RS Q e-tronと最適なマッチングを実現するBFグッドリッチの新しいタイヤも使用しているよ」と語ったパスカーリ。

 この他にもボディ形状の最適化によってフロントガラスの汚れが少なくなるなど、細部に改良が加えられた。

「この2日間でダンパーに関する知識が大幅に深まった」と語るのは、2023年のダカールで、アウディ勢唯一の完走者となったエクストローム。

 彼に賛同するように、サインツも「サウジアラビアで行った前回のテストの結果が活かされ、我々はさらに前進している」と述べた。

 バハ・アラゴン・ラリーのレギュレーションでは、土曜日のふたつのステージ間のサービス、およびステージ終了後のサービスは30分間に限定されており、車両に対する作業を許される人数も3人のメカニックにドライバーとコドライバーを加えた計5人までと厳しく制限されている。アウディスポーツがスペインのサラゴサで行ったテストには、こうした厳しいサービス条件に対応するための準備も組み込まれていた。

 アウディにとって3回目のダカールラリー参戦に向けた準備が進められるなかで、2024年大会の開催までは残り6カ月を切っており、今回行われたスペインでのテストは彼らが“集中的な準備段階”に入ったことを示している。今年1月のイベントではアクシデントによってリタイアとなったペテランセルは、「テストは良いことだが、実戦モードに戻ることも重要だ」と強調する。

「これはドライバーとコドライバーだけに当てはまるものではない。チームの新しいメンバーも実戦環境に慣れる必要があるんだ。時間的なプレッシャーがあるなかで、完璧な準備を続けなければならない」

 チーム・アウディスポーツはバハ・アラゴンに続いて、次回は10月のラリー・デュ・マロックへの参戦を予定している。『フォード・レンジャーT1+』の登場も予定されているモロッコのラリーイベントは、ダカールラリーと同様に砂漠が舞台となり、走行距離はバハ・アラゴンよりも大幅に長いものとなる。これらの追加のテストを行うことで、2024年1月のダカールラリーに向けたアウディチームの準備が整えられていく計画だ。

2024年1月のダカールラリー参戦に向け、スペインでテストが行われたアウディRS Q e-tron
チーム・アウディスポーツのマティアス・エクストローム
バハ・アラゴン・ラリーにテスト参戦したカルロス・サインツ/ルーカス・クルス組アウディRS Q e-tron
チーム・アウディスポーツのカルロス・サインツ
バハ・アラゴン・ラリーに出場した3台のアウディRS Q e-tron(チーム・アウディスポーツ)

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