「ありがとう」忘れない…森村誠一さん死去 出身地・熊谷から悼む声 市内には書斎風の「展示コーナー」も

書斎風にリニューアルされたコーナーで、森村誠一さんをしのぶ大井教寛さん=24日午後4時半ごろ、埼玉県熊谷市桜木町の市立熊谷図書館3階郷土資料展示室

 「人間の証明」などで知られるベストセラー作家の森村誠一さん(90)が24日、死去した。社会派ミステリーの旗手として知られるが、出身地である埼玉県熊谷市との結び付きも深く、提唱した写真俳句などを通じて晩年も市の文化発展に寄与。関係者らは「本当にショックで残念」「作品はこれからも生き続ける」などと、熊谷愛にあふれる大作家を悼んだ。

 熊谷市桜木町の市立熊谷図書館3階郷土資料展示室は昨年3月、森村さんを紹介する展示コーナーをリニューアル。森村さんが2017年に寄贈した約2400作品や各種資料を基として書斎風にリニューアルを行った。著者解説、作品解説付きで、同館の蔵書状況が分かる検索システムで森村さんの業績が学べるようにしている。

 実際に森村さんが使用していた椅子も展示し、来館者は座って記念撮影ができる。また作品になる前に、森村さんが作品の構想を練っていた大学ノートに書かれたプロットのレプリカを展示。代表作「人間の証明」ができる過程などを追えるようにしてある。森村さんの作品に登場する熊谷の舞台地を紹介する聖地巡礼マップや愛用のガラスペンも紹介されている。

 同館副館長・学芸員の大井教寛さん(49)によると、昨秋に森村さんは妻らと一緒に同館を訪れた。リニューアルを担当した大井さんが「このように展示しましたが、どうですか」と森村さんに聞くと、椅子に座っていた森村さんが立ち上がり、大井さんの目を見てにこっと笑って「ありがとう」と一言。大井さんは「宝物の言葉で、あの表情は忘れない」と振り返る。

 寄贈時の著作は404タイトルだったが、それ以降の作品も含めて現在は411タイトルの作品を展示。書棚にはビジネス書、推理小説、歴史小説、エッセーなど幅広いジャンルの本が並ぶ。大井さんは「ジャンルがなく、森村文学という世界をつくった。非常に真面目で、自分の課題と向き合って一つの作品を作ることにまい進した」と評する。

 市立江南文化財センター学芸員の山下祐樹さん(40)は、昨年3月に出版した本「熊谷ダイナミズム―躍動する人類史と熊谷に息づく『動』の記録を探し求めて」(埼玉新聞社)で、森村さんに序文を書いてもらった。山下さんは「森村さんは、人は亡くなっても魂は引き継がれるという話をしていた。本当にショックで悲しいが、今後もわれわれの心の中で生きていく」と語った。

 市と市教育委員会は9月30日まで、「~作家・森村誠一による~第12回くまがや『写真俳句』コンテスト」の作品を募集している。写真俳句は森村さんが提唱する写真と俳句・川柳などを組み合わせた新しい表現手法。森村さんが選者を務めたり、賛助作品の提供や特選作品への講評を行うなど全面協力していた。

 15年に市民団体「熊谷空襲を忘れない市民の会」を立ち上げた米田主美さん(77)は森村さんの講演会に参加後、森村さんに賛同人になってもらおうと依頼したところ、快諾されたという。米田さんは「熊谷空襲を忘れてはいけないということだったと思う。本当に惜しい人を亡くした」と話した。

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