バレーボール男子日本代表が強くなった理由。石川祐希、髙橋藍らが追求する「最後の1点を取る力」

現在開催されているバレーボールの国際大会・ネーションズリーグ。10勝2敗という堂々たる成績で予選ラウンドを2位通過した男子日本代表は、悲願のベスト4進出をかけて20日、スロベニアとのファイナルラウンド準々決勝に挑む。大事な一戦を目前に控え、本稿では今大会開幕からの10連勝で男子日本代表の世界大会での連勝記録を塗り替え、「なぜ急に強くなったのか」という声も聞かれる男子バレーの強さの要因に迫る――。

(文=米虫紀子、写真=アフロスポーツ)

10勝2敗の2位で予選ラウンドを終えた“強豪”

“10連勝”の響きがもたらす効果は絶大だった。

現在開催中のネーションズリーグで、男子日本代表は予選ラウンド開幕からの連勝を10まで伸ばし、首位を走り続けた。11戦目で世界ランキング2位のイタリアに競り負けて今大会初黒星を喫し、最終戦で世界ランキング1位のポーランドに敗れ、最終的に10勝2敗の2位で予選ラウンドを終えたが、それでも堂々たる成績だ。

しかもその成績だけでなく、試合内容や一つ一つのプレーにも、見る人を惹きつけるものがある。

海外のトップ選手の威力のあるサーブにも簡単には崩されないサーブレシーブ力や、世界の強力なスパイクも自チームのチャンスにつなげられる守備力。そこから、4人のスパイカーが同時に攻撃を仕掛け、司令塔の関田誠大が相手ブロックをしっかりと確認しながらベストな選択をして、能力の高いスパイカー陣がそれに応えて得点する。スパイクを打つと見せかけてトスを上げるフェイクセットなど、トリッキーなプレーも鮮やかにこなし、全員が楽しそうに躍動する姿が見る者を魅了する。

注目度が上がっていることは選手たちも感じている。ミドルブロッカーの小野寺太志はこう話していた。

「(ネーションズリーグ第2週の)フランス大会や(第3週の)フィリピン大会から帰国した時に、空港に来られていた方も増えていたし、注目されているんだなとは感じます。みんなSNSのフォロワーも増えているし、いいことですよね。結果を残せば見てくれると思っていたので、今後も頑張るしかないなと」

最近、「なんで日本の男子バレーは急に強くなったの?」という声をよく聞くようになった。だが決して“急に”強くなったわけではない。兆しはあった。

転機は2014年。南部正司が監督就任後に行ったのは…

2012年ロンドン五輪、2016年リオデジャネイロ五輪の出場を逃していた日本が、なぜ強くなったのか。いくつもの要因が重なり今につながっているが、その一つは“世界への慣れ”だろう。振り返ると、転機は2014年だった。

その年、日本代表監督に就任した南部正司は、積極的に海外遠征を行うようになった。それまでの日本代表は、国際大会の期間以外はほとんど国内で合宿を行い、ひたすら日本人選手同士で練習を積んでいた。だから海外の選手の高さのあるブロックやスパイク、パワーとスピードあるサーブなどに慣れる機会がなく、試合ではそのギャップにまず圧倒された。

試合を重ね、海外の選手のプレーにやっと慣れてきた頃に代表シーズンは終了。冬場は国内のVリーグでプレーし、翌年、また海外の選手に慣れるところからスタートする。その繰り返しだった。

しかし2014年は、夏場にフランス、チェコ、ブラジルと移動しながら約1カ月間にわたる海外遠征を行い、2015年もイタリア、ポーランドなどで武者修行した。

海外の強豪と練習試合や合同練習を重ねることで、大型選手に慣れ、そうした相手に対する戦い方を習得できる。練習試合なら、公式戦以上に思い切っていろいろなことを試すことができた。

2007年に代表デビューし、2021年の東京五輪まで日本代表でプレーしたオポジットの清水邦広が、こう語っていたのが強く印象に残っている。

「長期間の遠征で海外の強豪チームと一緒に練習できたのはものすごく新鮮でしたし、高いブロックが相手でも、『こうやって打てば飛ばせるやん』とか、やり方がわかってきて、『自分の力でも決めることができる』と少しずつ自信につながっていきました。それまでは、世界だけでなくアジアでも置いていかれる焦りがあって、でもそれをどう打破していいかわからず、もうあがきようもないという状態だったんですけど、海外遠征を経験すればするほど、ちょっとずつやり方が見えてきました」

海外の選手と戦うことを日常とするメンバーの増加

2013年9月に、2020年の東京五輪開催が決定したことにより、2014年は有望な若手選手を抜擢し、先を見据えた強化を始めやすいタイミングだったことも功を奏した。

その年に日本代表デビューした、当時中央大1年だった石川祐希や慶應義塾大4年だった柳田将洋、愛知学院大3年だった山内晶大などの若手選手は早速海外遠征でもまれた。

身長204cmの高さを買われ、当時バレー歴わずか5年で代表に抜擢された山内は、「あの経験は大きかったと思います。海外での生活も、海外の選手とプレーできたことも。日本で合宿しているより、すごくいろんなことを勉強できたなと思います」と振り返る。

そうした代表の変化に加えて、選手個々が海外リーグに出て行くようになった。

現在代表で主将を務める石川は、大学1年だった2014-15シーズンにイタリア・セリエAの強豪モデナに短期移籍して飛躍的な成長を見せ、2016-17シーズン以降、毎年イタリアでキャリアを重ねている。柳田もドイツやポーランド、福澤達哉もブラジル、フランスへと渡り、逆にポーランドなどで実績を積んでいたリベロの古賀太一郎が日本代表に選出されるなど、海外の選手と戦うことを日常とするメンバーが代表チームに増えていった。

それにより、高いブロックを利用した得点の奪い方など海外の選手に対する戦い方がチーム内に浸透し、年齢の上下関係なく意見を言い合うなど、代表の空気が変わっていった。それが現在のチームの礎になっている。

フィリップ・ブランがもたらした戦術がさらなる成長に

選手個々の技術や意識が高まる中、2017年から日本代表の中垣内祐一前監督のもと、コーチとして代表スタッフに加わったフィリップ・ブラン(現監督)の戦術もチームにフィットした。

ブランはブロックとディグの緻密な戦術や、クイック、パイプ攻撃という真ん中からの攻撃を積極的に使う意識をチームに植えつけた。真ん中の攻撃を使うことに長けたセッターの藤井直伸や関田を起用し、それまで課題だったミドルブロッカーの得点力が向上。世界の強豪とも渡り合えるようになっていった。

2021年に開催された東京五輪では、29年ぶりに予選ラウンドを突破し準々決勝に進出。2022年からはブランが監督を務め、昨年のネーションズリーグでは5位と、世界のトップ4に手が届くところにまできた。

選手の海外移籍も続き、2021-22シーズンには新たにオポジットの西田有志、アウトサイドの髙橋藍がイタリア、セッターの関田がポーランドリーグでプレー。2022-23シーズンは、髙橋藍が引き続きイタリア・セリエAのパドヴァでプレーし、オポジットの宮浦健人はポーランドに渡った。今年のネーションズリーグでは、その髙橋藍、宮浦が攻撃面で飛躍的な成長を示し、スケールアップした攻撃陣を、司令塔の関田が巧みに操っている。

昨年初めに11位だった世界ランキングは現在6位にまで上昇。東京五輪は7位、昨年のネーションズリーグで5位と、ベスト8の常連になりつつある。ただ、ベスト4への壁はまだ破ることができていない。

東京五輪では準々決勝でブラジルに敗れ、昨年のネーションズリーグ準々決勝では、東京五輪金メダルのフランスに敗れた。昨秋の世界選手権も、予選ラウンドを突破したが、決勝トーナメント初戦で再びフランスと当たり、フルセットの接戦の末敗れた。

石川祐希が目指す境地「ああいう経験を何回も何回も繰り返して…」

ベスト4への鍵は“最後の1点をどう取りきるか”。

昨年の世界選手権のフランス戦は、フルセットの激戦となり、第5セットはフランスのミスで日本が15-14とマッチポイントを握った。しかし、「誰もが『勝てる』という景色を見てしまった。そこでもう一度チームとして『1点ずつだぞ』と引き締められれば良かったんですが、流してしまった」と髙橋藍は悔やんだ。

石川のサーブがネットにかかり15-15とされると、その後、フランスの好守備から逆転され、16-18で敗れた。髙橋藍は「最後の1点を取る力というのがフランスとの差だった」と語っていた。勝負所の経験の差だった。

選手たちはその課題を胸に各所属チームで冬場のリーグを戦い、そして今年、強豪を相手にその最後の1点を、ネーションズリーグ・予選ラウンドのブラジル戦で取ることができた。

世界選手権のフランス戦と同じく、ブラジル戦もフルセットとなり、第5セットのデュースにもつれ込むが、石川や宮浦のスパイクでサイドアウトを重ね、17-16の場面で石川にサーブが回った。石川は強力なサーブを打ち込んで崩し、髙橋藍がレフトからブロックアウトでスパイクを決め18-16でゲームセット。対戦前の時点で世界ランキング2位だったブラジルから、公式戦では30年ぶりとなる勝利を挙げた。

石川は「最後の1点、そこに関しては、昨年の世界選手権からは成長しているなと感じました」と語った。

「あの(サーブの)場面は、『(世界選手権の)フランス戦と同じような感じだな』と思いましたし、そこで今回はちゃんと結果が出たのでよかった。違いは、落ち着いていたか落ち着いていないかだと思う。あのフランス戦の時は『力んだ』というふうに言ったんですけど、今回はそれはなかった。いつも通りのサーブを打つことだけを心がけて打ったので。(勝ちを)意識しすぎず、うまく自分を制御できていたというか」

ただ、これでクリアできたわけではない。もっともっと場数を踏むことが必要だと石川は言う。

「あの場面ではうまくいったけど、これから先どうなるかはわからない。シチュエーションによっては、勝ちを意識しすぎたほうがいい場面もあるかもしれない。『絶対決めてやる!』という思いはやっぱり必要だし。ああいう経験を何回も何回も繰り返して、失敗もして、いろんなことを考えて、正解を見つけていくしかないんじゃないかなというのが僕の考えです」

その中で成功体験を重ねることが、勝ち癖につながっていく。

予選ラウンドを2位で終えた日本は、20日24時(日本時間)から行われるファイナルラウンド準々決勝で、予選7位のスロベニアと対戦する。

跳ね返されてきた準々決勝の壁を、今年こそ突破するために、最後の1点をどう取りきるか。その先には、次のステージが広がっている。

<了>

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