怪我で苦しんだ小椋藍が見せた復活の兆し。世界の舞台で邁進する羽田太河/Moto2前半戦振り返り

 2023年ロードレース世界選手権は前半8戦が終了し、8月4日からの第9戦イギリスGPから後半戦が始動する。世界最高峰MotoGPクラスへの登竜門とも言われるMoto2クラスは、トライアンフ製のエンジンが使用されており、2023年から回転数の制限が14,000rpmから14,400rpmへと引き上げられた。また、シャシーにおいてはカレックスやボスコスクーロ、MVアグスタが製作している。

 これによって、エンジン特性の違いが出てくるため、ライダーたちはギアチェンジのタイミングを変更しなければならなくなる。2022年シーズンから新たにマシンへの回転数のみならず、新しいマシンへの適応に時間を要してしまうため、少々苦戦を強いられてしまっているライダーも多いのではないだろうか。

 そんな今シーズンのMoto2クラスは、15チーム30名がエントリー。前半戦終了時点でのランキングトップは148ポイントを獲得したトニー・アルボリーノ(Elf Marc VDS Racing Team)でペドロ・アコスタ(Red Bull KTM Ajo)、ジェイク・ディクソン(Inde GASGAS Aspar Team)が続いている。

 日本勢は、Moto2クラス初の王座獲得が期待される小椋藍、シーズン途中からの参戦となったが再び世界の舞台に戻ってきた羽田太河の2名が参戦している。後半戦にかけての注目ポイントは、小椋は母国開催となる日本GPで2年連続の優勝を獲得できるか。そして、羽田はいかにマシンに早く慣れて2022年より自身のレベルアップに繋ぐことができるかだろう。そんな後半戦にさらなる活躍が期待できるふたりの前半戦を振り返っておこう。

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■小椋藍/IDEMITSU Honda Team Asia

■予選最高順位:3番手(第8戦オランダGP)
■決勝最高順位:2位(第8戦オランダGP)
■表彰台獲得回数:1回(第8戦オランダGP)

 小椋は2022年シーズンにMoto2クラスで自身初となる優勝を飾り、最終戦までチャンピオン争いを繰り広げたことで印象深いだろう。大躍進のシーズンとなったが、ランキングは惜しくも2位となり、参戦3年目の2023年こそはMoto2クラス日本人初となる王座獲得に向けて多くの期待を集めている。

 そんな小椋だが、前半戦は苦戦を強いられた。原因は開幕前に負った左手首の脱臼骨折と、マシンの回転数の上限が引き上げられたレギュレーションの変更によるマシンへの適応が遅れたことが原因だ。小椋は開幕前に行われた2度のテストにも参加できず、開幕戦を含む序盤2戦も欠場となっている。

Moto2:小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)/2023MotoGP第3戦アメリカズGP

 第3戦アメリカズGPから復帰を果たしたが、他のライダーよりも走行時間が少なくなかった小椋は、マシンの開発に遅れが出てしまった。そのため、第7戦ドイツGP終了までの自己ベストは、第5戦フランスGPでの9位という成績だった。

 しかし、前半戦の締めくくりとなる第8戦オランダGPでは、昨シーズンの好調な小椋を彷彿とさせるような走りが見られた。初日、総合4番手で終えると、2日目のP3ではコースレコードを更新する1分36秒000のトップタイムをマーク。予選Q2では3番手で今季初のフロントロウに並んだ。

 多くのファンが期待を寄せるなか、小椋は決勝で序盤からトップ3を走行し、一時は先頭に立って熱いバトルを繰り広げた。しかし、ジェイク・ディクソン(Inde GASGAS Aspar Team)に惜しくも破れて2位となったが、小椋の走りは“復活の兆し”と言っていいだろう。前半7戦を苦しんだ小椋にとって、後半戦に繋げる大事な1戦となったことに違いない。

 表彰台に戻るまで時間を要してしまったが、後半戦は12戦で争われるため、決して遅くはないと言っても良いのではないだろうか。小椋は現在トップから117ポイント差のランキング14位となっているが、後半戦では上位に食い込む走りを見せ、昨シーズンに引き続き熱いチャンピオン争いを見せてくれることに期待したい。

Moto2:2位表彰台を獲得した小椋藍(IDEMITSU Honda Team Asia)/2023MotoGP第8戦オランダGP

■羽田太河/Pertamina Mandalika SAG Team

■予選最高順位:27番手(第8戦オランダGP)
■決勝最高順位:21位(第6戦イタリアGP、第7戦ドイツGP、第8戦オランダGP)

 羽田は今シーズン、2022年から参戦している全日本ロードレースのST600クラスに継続参戦していたが、Moto2クラスに参戦しているPertamina Mandalika SAG Teamからロレンツォ・ダラ・ポルタが離脱したことにより、召集されたライダーだ。

 2021年に代役とワイルドカード、そして2022年は代役として終盤8戦をMoto2クラスで戦った経験を持っている。2022年は最初の数戦は20位以降ばかりだったが、レースを重ねるごとに成長していく姿を見せていた。自己ベストとなったのは第16戦日本GP予選での20番手、第17戦タイGP決勝での13位だ。

Moto2:羽田太河(Pertamina Mandalika SAG Team)/2023MotoGP第8戦オランダGP

 2023年も代役として第6戦イタリアGP以降の15戦を戦うことになり、未だ3戦のみの出場だが、わずかながら成長を見せている。前半戦最後となった第8戦オランダGPでは、今シーズンのベストを更新する27番手を予選で獲得し、決勝では前半戦った3戦を全て完走して21位でチェッカーを受けている。

 Moto2クラスは台数が多く、毎戦激しいバトルが展開されるため、リタイアを余儀なくされるライダーも多いが、羽田はこの数戦でも安定した走りで結果を残し続けている。そのため、今シーズンは参戦レースも多いことから、羽田自身のレベルアップに大きく繋がるだろう。後半戦にかけ、2022年の自己ベストを上回る走りと、レベルアップした羽田の走りが期待できるのではないだろうか。

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