<まとめ>ロザリア/J.バルヴィン/バッド・バニーなど、日本にインスパイアされるラテン・アーティストたち

タイニーからロザリア、J.バルヴィン、ヤング・ミコまで、東アジアの芸術や文化から影響を受けたと話すアーティストが増えている。アニメから“イレズミ”(日本の伝統的な刺青)、禅に根ざした落ち着いたミニマルな装飾まで、日本文化は一握りのラテン系アーティストにとってインスピレーションの源であり、安らぎの要になっている。日本の思慮深い美学と禅に根ざした哲学により、多くのミュージシャンがクリエイティブな放浪の旅で東アジア芸術への憧れを表現してきた。

例えば、タイニーは現地時間2023年6月30日に、日本、レゲトン、音響実験へのラブレターを兼ねた緻密なアヴァン・ポップ作品であるデビュー・アルバム『DATA』をリリースした。アルバムのジャケットには、影響力のある日本人アーティスト、小倉宏昌が描いた、現在のタイニーと同じピンクの髪のマンガのキャラクターが描かれている。

プエルトリコ出身のスーパー・プロデューサーである彼は、米ビルボード・エスパニョールに対し、「音楽を始める前から、日本文化は自分の人生において常に特別なもので、影響を受けてきました。アニメ映画を見て、幼い頃から想像力を膨らませてきたんです。日本のほかの芸術作品でもそうですが、細部までこだわっていることを知りました。アニメは、自分の想像力を広げて好きなことに挑戦し、この世のものではないもの……現実とは違うものを創り出すのに役立つと思います」と話している。

ロザリアも6月に「Tuya」という日本に捧げた楽曲を発表した。そのミュージック・ビデオでは、スペインのスターである彼女が東京を散策し、ラーメンを楽しむ姿が映っている。これは単なるトレンドではなく、日本文化は10年以上前からラテン音楽のメインストリームに浸透している。フアン・ルイス・ゲラの代表的なヒット曲「Bachata en Fukuoka」(バチャータ・エン・フクオカ、2010年)を見れば一目瞭然だろう。

以下、日本に芸術的思索を向けているラテン系ミュージシャンを順不同で紹介しよう。

タイニー

デビュー・アルバム『DATA』の最終仕上げに入る数日前、タイニーは日本でラップトップに向かって作業する自身の写真をインスタグラムに投稿し、「DATA en KYOTO/TOKYO」とキャプションを添えた。

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彼は米ビルボード・エスパニョールに対し、「僕が作る音楽には、(アニメのように)SF的で、別世界のようで、超能力があるように感じる技術があります。と同時に、(アニメは)人間的で、魂がこもっていて、さまざまな感情がひとつのアートフォームで描かれています。それが僕にとって最も特別なことであり、最も完璧な形で“DATA”を表現できると感じたんです」と語っている。

この話題のアルバムは、レゲトン、幽玄なトラップ、80年代にインスパイアされたシンセウェーブに支えられた非常に想像力豊かな作品であり、ネオン色に輝くビジョンを掻き立てる複雑なテクスチャーを導入し、事前に約束していたことを全て実現した。

実際、彼のレコード・レーベルである<Neon16>は、ラテン・ミュージックの重要人物であるレックス・ボレロとのパートナーシップによるもので、自身と日本文化との共通点におインスパイアされたものだ。ボレロは2019年に報道陣に対し、「この名はタイニーと僕の日本文化愛に由来している。“東京”と言われて最初に思い浮かべるのはネオン・サインだ」と語った。

ロザリア

ロザリアが、2023年6月9日にリリースした最新シングル「Tuya」は、特徴的なフラメンコとテクノの融合に、日本の民族楽器である琴の音色をフィーチャーした官能的なレゲトン・ソングで、日本のスタイルにオマージュを捧げている。MVでは、アニメのシャツを着て髪を2つに束ねたロザリアが、東京の賑やかな通りを歩き回っており、ラーメンを食べる時間もつくっている。プレス・リリースにはこの楽曲が「ロザリアが深く愛し尊敬する国、日本へのラブレターのようなもの」であると記載されている。

以前、彼女はアルバム『モトマミ』から「Hentai」と題された、官能的なピアノ・バラード調の楽曲をリリースした。(“ヘンタイ”は、日本のアダルト・アニメや成人向け漫画などを指す言葉として欧米で一般化している。)音楽以外では、婚約者のラウ・アレハンドロと、ハロウィンにアニメ『エヴァンゲリオン』のアスカとシンジのコスプレをしたりもしている。

ラウ・アレハンドロ

プエルトリコ出身のこのスターの外見で最初に目につくのは、彼の見事なタトゥー、特に首の両脇を飾る芸者と侍のデザインだ。以前のインタビューで彼は、それらはアジア文化への愛のあかしだと自慢していた。彼がフィアンセのロザリアに捧げた告白的ラブソング「Aquel Nap ZzZz」の中の「To take you to Tokyo and never miss a thing(君を東京に連れていってどんな小さなことも見逃さない)」という歌詞にも親日感情が表れている。一緒に日本を旅行したり、アニメのコスプレをしたりと、日本文化を一緒に楽しんでいるのは明らかだ。「Que Rico Ch-ngamos」のMVも日本で撮影された。

J.バルヴィン

J.バルヴィンは以前から東アジアの美学に憧れていることを公言してきた。彼の『Colores』(2020年)のアルバム・ジャケットや、日本人アーティストの村上隆が手掛けた関連グッズを見れば一目瞭然だろう。そしてこのコロンビア人アーティストは、母国の邸宅のインスピレーションを禅の思想から得て最小限の装飾にとどめた。

『ストリートファイターII』のパーカーを着て米ビルボードのビデオ・インタビューに応じた彼は、「日本に行った時、本当に大好きなエネルギーとつながれたので、この家で確実にそれをやりました。“テンプル”(寺院)と呼んでいます、お寺みたいだから」と説明し、「望んでいた場所を作ることができてとても嬉しいです。自己顕示の場ではなく、自分の魂が休まる場所。誰かに見せつけようとしているわけではなくて、別のバイブスです。ここは僕と自分の魂のための、仲間たちが来て、ただリラックスするための場所なんです」と話している。

2019年には、J.バルヴィンをフィーチャーした日本のヒップホップ・トリオ、m-floの「Human Lost」のMVで、アニメのキャラクターに変身した彼が出演している。

ヤング・ミコ

彼女の日本文化への愛は、日本語の“巫女”からとったアーティスト名にも表れている。ラッパーとしての地位を確立する以前、タトゥー・アーティストとしてキャリアを積んだ彼女のお気に入りのスタイルは、日本神話とギリシャ神話の作品だという。「カートゥーン ネットワークで初めて見た番組は、“ドラゴンボールZ”、“遊戯王”、“ポケモン”でした」と彼女は米ビルボード・エスパニョールに語った。

そして、 「母も仏教と日本文化が大好きで、これらは“鞘の中の2個の豆”のようなもの。とても象徴的で、生命は神聖であり、動物、動植物……私は小さい頃から彼女とそういったことを共感してきました。私が彫ったタトゥーはすべて日本のもので、全て意味があります。“Miko”も日本語で、いつもインスピレーションを得ています」と彼女は話している。

バッド・バニー

与那国は沖縄県八重山郡の島だ。米ビルボードの“Hot Latin Songs”チャートで1位を獲得したバッド・バニーの2021年夏のヒット曲のタイトルの由来でもある。この官能的なレゲトン・シングルでは、彼の脆さが表現されており、恋愛相手のために与那国島に行くと伝える内容の曲の最後は日本語で歌っている。

フアン・ルイス・ゲラ

2010年、フアン・ルイス・ゲラは、九州北部に位置する日本の都市に捧げるタイムレスなバチャータ・バラード「Bachata en Fukuoka」を作った。福岡出身の愛する人を想う、誠実なラブソングだ。ドミニカのスターはスペイン語と日本語で、「そして旅立ちの時が来た、泣く泣くサヨナラを言わなければならない/小さな鳩が窓に舞い降りた/コンニチハ、オハヨウゴザイマス」と歌っている。この楽曲はリリースされた年のHot Latin Songsで1位を獲得した。

番外編:クリスチャン・ノダル&カズ

今年1月にロザリアはインスタに、東京で新年を迎えたノダルとカズ(CAZZU)らと撮った集合写真を投稿した。メキシコのシンガー・ソングライターであるノダルとアルゼンチンのラッパーであるカズのカップルが日本文化にインスパイアされているという直接の確証はないが、複数のメディアによると、その日本旅行中に二人が親になることが判明したという楽しい事実がある。また、二人が東京を散策している最中に、東京のストリート・ファッションを記録するYouTuberに取り上げられた。

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