“かみつきイルカ”今年も福井の海に出没…ケガしても「海水浴場側の法的責任」問うことが難しいワケ

イルカの歯は鋭い(Vrabelpeter1 / PIXTA)

涼を求める人々でにぎわう福井県の海水浴場に、今年も野生のイルカが出没し、地元の人々の頭を悩ませている。

昨夏、福井市内の海水浴場では海水浴客がイルカにかまれケガをする被害が続出した。福井新聞の報道によれば、この影響を受け、被害が発生した3つの海水浴場(鷹巣、越廼〈こしの〉、鮎川)では海水浴客が前年に比べて1万人減少したという。

今年はすでに、同じ福井県内にある水晶浜海水浴場(美浜町)に連日イルカが出没し、海水浴客がかみつかれたり、衝突されて肋骨(ろっこつ)を折るなどケガ人が相次ぐ事態になっている。これを受け、同海水浴場は一度閉鎖が検討されたものの、現在は対策強化の上で開設を続けている。

なぜ福井の海にイルカが出没?

そもそも、福井の海水浴場にはなぜ、野生のイルカが出没しているのだろうか。昨年多くのイルカが出没した福井市のおもてなし観光推進課は、「考えられる要因としてはいくつかあると思いますが、群れからはぐれたイルカが岸に迷い込んだ、昨年出没したイルカは人への執着心が強く人慣れしていた、などが挙げられるかと思います。ただ、明確な要因は分かりません」とコメントする。

「昨年は、福井市内にある鷹巣、越廼、鮎川の各海水浴場でイルカにかまれたとの相談を受け、市ではイルカが嫌がる超音波発信器を購入し、海水浴場に貸与するとともに、市ホームページやSNSで、イルカを見かけたら『近づかない 触らない エサをあげない』などの注意喚起を行いました。また、各海水浴場を運営する観光協会等は、海水浴客に対し、アナウンスや看板で注意を呼び掛けました」(福井市おもてなし観光推進課・担当者)

対策の効果もあってか、今年は7月24日時点で福井市内の海水浴場におけるイルカの目撃情報はないそうだ。

イルカにかまれた…! 法的責任の所在は

イルカは福井県の海水浴場に限らず出没する可能性もある。万が一イルカにかまれるなどしてケガをした場合、誰に法的責任を問うことになるのだろうか。ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの吉村岳弁護士は「理論上は海水浴場開設者になるかと思いますが、現実的には難しいと考えられます」と指摘する。

「本件については、エイに刺されて負傷した遊泳客が、看板等の設置義務や網による封鎖義務、展望台や望遠鏡で観察する義務などを怠ったとして、海水浴場の管理者(この件では東京都)に損害賠償を請求したという判例(平成8年5月21日東京地裁判決)が参考になるかと思います。

この判決では『普通公共団体が特定の海域と海浜につき前記内容の海浜公園を開設した場合は、これを利用する者に海浜公園の安全性に対する信頼と期待が生じることは否定できないから、普通地方公共団体が海浜公園を開設した以上、右の信頼と期待にこたえるため、安全性に関しある程度の人的・物的設備を備える必要がある』として、海水浴場の管理者は遊泳客の安全を守るために一定の措置を講ずべきであるとしています。

一方で『本件事故以前に公園利用者がエイ等の海洋生物に刺される等して怪我を負ったのは年に1~2回程度であり、その怪我の程度も軽微なものであった』ことから『エイ等の海洋生物に注意するよう警告する措置を講ずる』ことで足りるとした上で、

  • エイに注意せよとの図入りの看板は掲示されていた
  • 網による封鎖は非現実的
  • 展望台や望遠鏡による観察では、海底に生息するエイの動向の把握は困難

であるとして、原告の請求が棄却されています。

被害頻度や、現地の地形や実情などの違いもあるので、この判例が福井のイルカ被害にそのままあてはまるとは言えませんが、一般的に、イルカの害よりエイの害の方が広く知られている上に頻度も多いと思われるので、網を張っていなかったり監視体制をとっていなかったりしたとしても、イルカ避けの機材を貸し出したり、様々なメディアや現地の看板等で注意を呼び掛けたりしていたという事情の許では、海水浴場開設者の法的責任までは問えないのではないかと思われます」(吉村弁護士)

今年イルカの目撃情報が相次ぐ福井県美浜町「水晶浜海水浴場」

イルカは「愛護動物」ではないが…

これだけイルカ出没に関する報道がなされている中、多くの海水浴客はイルカと適度な距離を保った上で海水浴を楽しんでいると思われる。しかし、万が一イルカをたたくなど攻撃したり、挑発したりするような行動をとった場合、海水浴客側に何らかの罪が問われる可能性はあるのだろうか。

「動物に対する加害行為を処罰する法律としては『動物の愛護及び管理に関する法律』(以下『動物愛護法』)や『鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律』(以下『鳥獣保護法』)があります。

しかし、野生のイルカは動物愛護法の保護対象である『愛護動物』には該当しません(動物愛護法第44条第4項各号)。また鳥獣保護法の処罰対象行為は『狩猟、捕獲、採取』であって(鳥獣保護法第83条、同第8条)、攻撃したり挑発したりする行為はこれにあたりません。

よって、海水浴場に出没したイルカをたたくなど攻撃したり、挑発したりするような行動をとったとしても、犯罪は成立しないと思われます。

ただし、処罰は受けないとしても、動物をいじめることは、そもそも褒められたことではありません。それによって動物から逆襲を受けたとしても、自然の怒りに触れた自業自得の行為としか言えないでしょう。

動物にも動物の生活があり、みだりにその生活の静穏を害するようなことをしてはならないことは、よくよく心得るべきであると考えます」(吉村弁護士)

© 弁護士JP株式会社