40代で若年性認知症「経済的な支えなかった」基本法成立で当事者が行動に意欲

「認知症基本法ができたここからがスタート」と強調する下坂厚さん(京都市中京区・京都新聞社)

 認知症施策の総合的な推進を盛り込んだ「認知症基本法」が6月に通常国会で成立した。京都府内の認知症の本人たちは、基本法が目指す「認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らすことができる社会」の実現に向け、自らが行動しようと意欲をみせている。

 「急に暮らしが変わるわけではないが、やっと認知症の本人の声が届く。ここからがスタート」。若年性認知症の下坂厚さん(50)=京都市北区=は基本法成立への喜びをかみしめる。

 2019年に認知症の診断を受け、仕事を辞めた。将来への不安と住宅ローンを抱え、「自ら死を選んだかもしれない」ほど絶望したが、支えてくれた制度は雇用保険の失業手当だけ。障害年金は初診日から1年半経過しないと障害認定されず、受け取れなかった。

 「働けなくなるかもと考え受診をためらう人は多いはず。行政は『早期受診が大切』と訴えるが、何ら経済的な支えはなく、矛盾を感じてきた」。働き盛りでなった場合に何に困り、どんな支援が必要か。ようやく、国や自治体がうわべでなく真摯(しんし)に本人と向き合ってくれるのではないかと期待する。

 依然として「認知症になったら人生は終わり」と思い込む人は多い。下坂さんは周囲の支えもあって前を向けた。講演や得意の写真を生かしたSNS(交流サイト)で「なってもできることはまだまだある。前向きに笑顔で生きていこう」と訴えている。

 認知症の人が700万人に達するとされる25年は目前だ。「誰もがなり得る認知症はもっと身近になる。基本法成立を機に、正しい理解と関心が深まってほしい」と話す。

 12年に認知症の診断を受けた宇治市の伊藤俊彦さん(80)も、本人の意見を中心に施策を進めるとした基本法の理念を「願ってきた社会の実現が加速すると思える内容」と評価する。

 認知症になっても暮らしやすい社会づくりには社会参画が欠かせないと強く訴え、人手不足に悩む茶園の摘み手として働いたり、小学校の出前授業の講師を務めたりしてきた。診断から間もない人や家族の相談に乗るピアサポートも18年から続け、先月に100回を迎えた。

 こうした取り組みが実現したのは、伊藤さんら認知症の人たちが市民や福祉、企業、行政の関係者と同じテーブルで検討を重ね、サポート体制の充実を図る宇治市の「認知症アクションアライアンス れもねいど」があったからだという。

 伊藤さんは、この制度が基本法の理念に重なるとして、「全国の先駆的な取り組みが新法の成立によって各地で共有され、認知症を取り巻く社会が変わっていく」ことを期待する。

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