BoPに不満爆発の名門が即時撤退。アウディ陣営のフィリピ&パウエルが勝利/TCRヨーロッパ第5戦

 新生TCRワールドツアーとの併催イベントを終え、ふたたび単独開催(GTやフォーミュラのイベントは併催)に回帰したTCRヨーロッパ・シリーズの第5戦が、7月22~23日にフランスのポールリカールで開催された。

 しかしアクシデントに対するペナルティ裁定への不満が渦巻くなど、世界戦につられて不穏な空気が漂うシリーズでは、ふたたび衝撃的な事件が発生。ヒョンデ陣営として参戦する名門ターゲット・コンペティションが、各車両間で採用されるBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)に対する不満を挙げ、開催中のレース週末に「即時撤退」を表明する事態に。これに対し、TCRを統括するWSC代表マルチェロ・ロッティも「理解に苦しむ」との声明を発表する異例の状況に陥っている。

 前戦6月中旬開催となったハンガロリンクのイベントでは、予選トップ10リバース採用のレース2でポールシッターとなっていたドゥサン・ボルコヴィッチ(ターゲット・コンペティション/ヒョンデ・エラントラN TCR)が、世界戦組のサンティアゴ・ウルティア(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)と絡んでスピンを喫し、後続車両との接触によりダメージを受ける事故が発生。

 リヤを複数回ヒットされたと主張するボルコヴィッチは「次にコース上で(ウルティアに)遭遇した際は、報復も辞さない」と不穏な発言を残していた。

 そのウルティア自身、さらに前戦で「毎戦のように判断基準が変わる」と、シリーズのペナルティ裁定に不満を漏らしており、TCRの世界全体で遺恨を残す後味の悪いアクシデントが続いてきた。

 こうした流れで迎えたル・カステレでの週末は、最初のフリー走行(FP)からアウディ陣営が速さを披露し、今季よりラリークロス界から転向して才能を見せつける新鋭コービー・パウエル(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が最速タイムを記録し、続くFP2では僚友ジョン・フィリピ以下、アウディ陣営が1-2-3-4を独占する展開となる。

 続く予選でも当然ながらその傾向は変わらず。イタリアチームに所属しヒョンデ・エラントラN TCRをドライブするボルコヴィッチとマルコ・ブティは、それぞれ11番手、12番手に終わったセッションを経て、チームから以下の声明がリリースされた。

「残念ながらターゲット・コンペティションのチームとドライバーは、TCRヨーロッパからの即時撤退を発表します。ポルティマオの開幕戦から、このカテゴリーのバランス・オブ・パフォーマンス(BoP)は、我々のクルマにとって非常に不利なものでした。これによって生じたコース上での性能差を克服するため、我々はチームとして最善を尽くしてきました」

「(第2戦)ポー市街地では、BoPの影響が顕著な直線が欠けたコースだったため、我々は素晴らしい結果を残せた。そして我々のドライバー、ボルコヴィッチは週末を通して素晴らしい仕事をしてくれました。この決定は一夜にして得られたものではなく、難しい決断となりました」

今季から名門チームに加入したドゥサン・ボルコヴィッチ(ターゲット・コンペティション/ヒョンデ・エラントラN TCR)
ヒョンデ・エラントラN TCRをドライブするボルコヴィッチとマルコ・ブティは、予選でそれぞれ11番手、12番手に終わっていた
TCRを統括するWSC代表マルチェロ・ロッティも、この決定を理解するのに「苦労している」と主張する

■「目指すレース状況ではない」との宣言にWSC代表が反論。チームには罰金刑

「ヒョンデ・エラントラN TCRの車両BoPの悪質さと、ボルコヴィッチに課せられた補正重量30kgの組み合わせにより、概算1周あたり2秒を失った低調な予選セッションの後、両車両とも競技から撤退することを決定しました」

「我々のチームとドライバーがこのような状況で競争することは容認できませんし、それは目指すレース状況ではありません。我々は勝てるドライバーを擁し、勝てるチームとしての評判を維持したいと考えています。同時にシーズン初めに約束したとおり、解決策があればシリーズに戻る用意があります」

 この一方的な宣言に対し、WSC代表のロッティは今季のエラントラが他の場所で成功を収めていることを考慮しても、この決定を理解するのに「苦労している」と主張。チームがTCRイタリアでも競争できないと感じたら「同様の行動を取るだろう」と皮肉を込めて反論した。

「我々はチームの決定を注視しているが、とくにヒョンデ・エラントラN TCRは同じBoPのもとで走行しながら、世界中のすべてのTCRシリーズで競争力があることが証明されている。そのため、我々はこれを理解できないでいる」との談話をリリースしたロッティ代表。

「マーティン・カオは競争の激しいTCRチャイナで3勝を挙げ首位に立っている。ジョシュ・バカンはTCRオーストラリアで2勝を挙げてランキング2位、マット・オモラは3勝でTCRイースタン・ヨーロッパのリーダーであり、新生TCRワールドツアーではノルベルト・ミケリスが2勝してランク2位、ブライアン・ハータ・オートスポート(BHA)の車両はIMSAミシュラン・パイロット・チャレンジで1-2となっている」

「これらの結果を見てもターゲット・コンペティションの決定を共有することはできない。しかし、もしそれが彼らの見解であるとすれば、ブティはこれまでに開催された3つのイベントすべてでポールポジションを獲得し、イモラでのシーズン開幕戦で優勝しているTCRイタリアからも撤退すると予想される。この件に関し、ヒョンデ・モータースポーツ・カスタマー・レーシングからの何らかの反応も期待している」

 このシリーズ撤退の決定を受け、スチュワードは「競技からの撤退に関する公式声明や情報を受け取っていなかった」とし、各マシンにつき1〜2万ユーロ(約156万~312万円)の罰金を科すことに。

 さらに、チームが棄権を表明したSNSへの投稿に対しては「スポーツに反し、シリーズの精神を尊重しない行為」とみなされ、1台につき5000ユーロ(約78万円)の追加罰金が科せられている。

 ヒョンデの2台が去り、レース前にグリッドは14台から12台に縮小したなか、レース1はフィリピがポール・トゥ・ウインで完勝。レース2はリバースの8番手からスタートを切ったパウエルが正真正銘のトップチェッカーを受け、ポー市街地での2位を上回ってツーリングカーレースでの初勝利を達成している。

レース1で完勝を飾ったジョン・フィリピ(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2/右)と、ルーキーながらシリーズを席巻するコービー・パウエル
レース2では8番手発進のパウエルがオープニンググラップで4番手に躍進し、勝利を手繰り寄せる
ワールドツアー併催4戦中3戦でシリーズ最上位を奪ってはいたが、パウエルにとっては正真正銘のトップチェッカーとなった

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