三菱ラリーアートAXCR連覇への挑戦。新型トライトン投入で、ミツビシらしさの表現と技術の継承を体現

 7月26日、三菱自動車は約9年ぶりに刷新された1トン・ピックアップトラック『ミツビシ・トライトン』を、タイのバンコクで世界初公開した。既報のとおり、同社が技術支援を行うチーム三菱ラリーアートは、この新型トライトンをベースとしたT1仕様(改造クロスカントリーラリー)車を用いて、8月13~19日にタイとラオスで開催されるAXCRアジアクロスカントリーラリー2023に出場し、大会2連覇を目指す

 2022年のAXCRにおいて初参戦・初優勝を飾ったチーム三菱ラリーアート。元ダカールラリー2連覇王者の“レジェンド”増岡浩総監督が率いるチームによって初年度から成功を収めたプロジェクトは、近年モータースポーツ活動から遠ざかっていたミツビシの社内から挙がった「もっと三菱らしさを表現しよう」という声や、それを支持する人々による機運の高まりに後押しされて実現に至った。

 新しい挑戦の舞台に選ばれたAXCRは、ミツビシの主要マーケットであるアセアン地域最大級のクロスカントリーラリーだ。SUVなどの四輪駆動車の分野を得意とし、長年にわたってラリーを戦ってきた同社にとって、「もう一度、三菱自動車の名前を世界に知ってもらう」場として、同イベントのトップカテゴリーはまさに、うってつけの場所と言える。また、これまでラリーを通じて4WD技術やS-AWC電子制御などの技術力を磨いてきたミツビシは、新しいプロジェクトを通じて技術の継承を目指した。

 それを体現しているのが、2023年大会に投入される新型ミツビシ・トライトンだ。約9年ぶりにフルモデルチェンジを受けた6代目トライトンは、長年キャリーオーバーされてきたラダーフレームが新設計されたほか、シャシーをはじめ、エンジン、駆動系、サスペンションなども設計段階から刷新されており、同モデルをベースに開発されたラリーカーも全方位で大幅な進化を果たしている。

 中でも大きな変化はトレッドが50mm拡げられた点で、ダブルウィッシュボーンとなったサスペンションや、増岡総監督の強い要望によって採用されたハイドロリック・バンプストップの採用といった足回りの改良も相まって、ハンドリング性能が向上した。なおベース車両の寸法は全長、全幅ともに先代と比べて大きくなっているが、ラリーカー開発においてとくに力が入れられた軽量化によって車両重量は先代ラリーカーと同等レベルに抑えられており、これも優れた運動性能や走破性に寄与する。

ベース車の寸法は5320×1865×1795mmで全長が先代比プラス15mm、全幅は50mmのプラス。ホイールベースは130mm伸びて3130mmとなっている。
新型トライトンではラダーフレーム、シャシー、エンジンなどが新設計となり、サスペンションもフロントがダブルウィッシュボーンに。リヤはリーフスプリング式リジット
8月の東南アジアは雨季となるため、11月に行われた2022年大会と比較してマッディなコンディションが多くなると予想されている。そのため新型トライトンでは防水対策にも力が入れられた。

■レッドとブラックのカラーリングは、湧き上がる溶岩のエネルギーがモチーフ

 一方、出力向上を果たした新開発の2.4リットル・ディーゼルターボエンジンや6速マニュアル・ミッション、デフなどに関しては多くの量産パーツが流用された。とはいえ、事前に行われたタイでのテストでは、非常に過酷なラフロードを全速力で走りながらノントラブルで延べ2000kmを走破しており、耐久性と信頼性の高さを確認しているという。

 また、チームは今年度のラリーがアセアン地域の雨季にあたることを考慮し、マッディなコンディションに強いクルマづくりにも注力。現地の道路状況を加味して水深約100cmでも走れる防水対策がなされた。これも新型トライトンの大きな武器のひとつだ。昨年の“265”から“235”へとタイヤのトレッド幅が狭くなったヨコハマタイヤのマッドテレーンタイヤ『ジオランダー』を装着していることもこの取り組みのひとつで、タイヤの面圧を上げグリップを稼ぐ狙いがある。

 タイのタント・スポーツが運営し、ミツビシのエンジニアが技術支援を行うチーム三菱ラリーアートの総監督を務める増岡氏は、新型トライトンでのチャレンジに胸が高鳴っていると語った。

「すべてが一新され、全方位で進化した新型『トライトン』での参戦に、私自身、期待で胸が高鳴っています。ラリーカーは国内とタイで延べ2000kmを超える耐久試験を行い特段のトラブルもなく、フラットダートの高速ステージからマッディな低速ステージまで、あらゆるステージで昨年以上のパフォーマンスを発揮できることを確認しました」

「それぞれが優勝を狙える3台体制であり、必ず表彰台の真ん中を勝ち取り、連覇を果たしたいと思います」

 3台の新型トライトンをドライブするのは既報のとおり、前年大会の覇者チャヤポン・ヨーターと同5位入賞を果たしたリファット・サンガー、そして1999年と2010年のアジアパシフィックラリー選手権チャンピオンである田口勝彦の3名だ。増岡総監督と開発部門のエンジニアは現地のラリークルーとともに、特別装備が施された『ミツビシ・デリカD:5』のサポートカーでラリーの全行程に帯同し、競技区間での戦況分析や戦略立案からサービス拠点での技術支援などを行う。計4台のデリカD:5サポートカーは、新型『トライトン』のT1仕様車と同様に、湧き上がる溶岩のエネルギーをモチーフとしたレッドとブラックのカラーリングに彩られている。

計4台の『デリカD:5』サポートカーのうち、競技車が走るコースサイドまで視察して戦略策定する増岡総監督が乗りこむ車両には、JAOS製の前後サスペンションが装着され悪路走破性がより高められている。

■新型ミツビシ・トライトン AXCR2023参戦車両

全長×全幅 5320mm×1865mm

ホイールベース 3130mm

トレッド(前・後) 1570mm・1565mm

エンジン形式 4N16型4気筒MIVECターボディーゼル

燃料噴射装置 高圧コモンレール

排気量 2442㏄

ターボチャージャー 三菱重工エンジン&ターボチャージャー

最高出力 150kW(約203ps)

最大トルク 470N・m

変速機 6速マニュアル

4WDシステム スーパーセレクト4WD-II

フロント・リヤデフ CUSCO製 差動制限装置付

フロントサスペンション 独立懸架・ダブルウィッシュボーン式コイルスプリング

リヤサスペンション リーフスプリング式リジット

ショックアブソーバー CUSCO製 減衰力調整式ツインダンパー

バンプストッパー 油圧式

ステアリング形式 ラック&ピニオン(パワーステアリング)

ブレーキ ENDLESS製 4ポッドブレーキキャリパー、ベンチレーテッドディスク、パッド、
FORTEC製 ブレーキフルード

ホイール WORK製 アルミニウムホイール(17in×7J)

タイヤ 横浜ゴム製 GEOLANDAR M/T G003(235/80R17)

その他特長 カーボン製フード、前後ドアパネル、荷箱

新開発された2.4Lディーゼルターボエンジンは、フリクションロスの低減と軽量化を中心としたチューニングが施されるとともに、新しいターボチャージャーを搭載し全域で出力向上を実現した。
トレッド幅を狭めタイヤの面圧を上げること狙い、2023年は235/80R17のジオランダーM/T G003を装着する。
軽さとクルマのコントロール性を活かして勝負することから「雨が降るとトライトンが有利」と見ている増岡浩総監督。ちなみに、総監督は“晴れ男”だそう。

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