子どもたちを襲う栄養失調とマラリア アンゴラ、長期的な予防のために必要なこととは

栄養失調になった我が子を抱える母親 © Mariana Abdalla/MSF

アフリカ大陸の南西部にあるアンゴラ共和国。地方に行くほど、とりわけ干ばつや大雨のピーク時に、栄養失調やマラリアになる人びとが増える。特に、女性と子どもの被害が深刻だ。

この状況に対応するため、国境なき医師団(MSF)は2022年より、地元の医療当局と連携しウイラ州とベンゲラ州の2州において活動を行っている。

診療を受けるまで歩いて2時間

ウイラ州は、アンゴラの南西部に位置する内陸の州だ。MSFは、その州の奥深くにあるカマシーサという地域で移動診療を実施している。 娘のフロレンサちゃんに診療を受けさせるために訪れたというドミンガス・ルシアナさんはこう話す。「ここまで来るのは大変なんです。歩いて2時間かかるんですから。娘は生まれつき痩せ細っていて、なかなか良くなってくれなくて……」 フロレンサちゃんは、重度の急性栄養失調およびマラリアと診断された。そこで、地元病院で行っているMSFの外来栄養治療プログラムの対象となり、マラリア治療薬も投与されることになった。わずか3週間で、フロレンサちゃんの健康状態は著しく回復した。

「移動診療に連れてきて、その後病院で治療を受けて、具合が良くなっています。この子の回復ぶりを見るたびに、うれしい気持ちでいっぱいです」

フロレンサちゃんを抱き抱える母のルシアナさん  © Mariana Abdalla/MSF

三輪自動車で患者を運ぶ

このフロレンサちゃんのように、幼い子どもが栄養失調とマラリアの両方を患うことは珍しくない。アンゴラでは特にマラリアが流行しており、今年2月から6月にかけてウイラ州内の2つの市でMSFが行った診療では、約8割においてマラリアと診断された。 マラリアは、治療せずに放置すれば命に関わる。特に幼い子どもにとっては危険な病気だ。しかし、ウイラ州内には、しかるべき時に適切な診療を受けることが困難な地域もある。医療施設から遠く離れたところに住んでいる人びとが多いのだ。
そうした遠隔地の人びとも医療を受けられるよう、MSFは移動診療を実施してきた。加えて、地域保健担当者の研修にも力を入れた。マラリアなどの病気が発生しても、軽症の段階で治療したり、MSFが支援する医療施設での追加ケアが必要かどうか判断できるようにするためである。
現地には「カレルイアス」と呼ばれる三輪自動車がある。バイクに二輪のトラック荷台をつけたものだ。MSFは、このカレルイアスを生かす形で、搬送体制の支援にも取り組んでいる。医療を必要とする女性にとって、移動上のハードルが1つ解消することになる。稼働期間中、このカレルイアスによる搬送を300人の患者が利用した。

患者たちを搬送する三輪自動車 © Mariana Abdalla/MSF

「こんなに元気に」 医療施設で子どもの回復を支える

中等度・重度の急性栄養失調にある子どもは、MSFの外来プログラムの対象となり、そのまま食べられる栄養治療食、毛布、コップ、石けんなどのキットを提供される。重体の子どもは病院に入院することになる。 MSFは、これまで710人の子どもに対して、急性栄養失調の治療を行った。その中に、ホーザちゃんという2歳になる子がいる。彼女について、MSFの心理療法士イザベウ・ズアはこう語る。「ホーザちゃんが病院に入院してきた時は、栄養失調の症状に加え、長いことベッドで過ごしていたので運動能力も落ちていました。数週間ほどたって、ようやく回復に向かい始めたのです。その頃から、心身を刺激するケアも始めています。2回のセッションで、見違えるほどの変化が見られました」
心理療法士は、重体で長期入院することになった子どもに対し、運動能力と認知能力、そして自信を再び取り戻させる。さらに、母子の絆を再びつなげていく。ホーザちゃんの母であるパウリーナ・カソンボさんは「こんなに元気を取り戻してくれて、本当にうれしい」と喜んだ。

回復しつつあるホーザちゃんを母が見守る © Mariana Abdalla/MSF

知識と手段をその地に残す

MSFは、医療活動だけではなく、ロジスティックスチームや水・衛生チームによって医療施設や廃棄物処理区域の復旧にも当たってきた。保健センターと村々を結ぶ橋を再建するなどの建設プロジェクトも実施している。

また、アンゴラにおける複数の医療施設で、現地スタッフや保健省職員ら数十人を対象にした研修も行ってきた。とりわけ、マラリアや栄養失調の患者やその他の重篤状態にある患者にいかに対応していくかアドバイスしている。
この点について、MSFで緊急対応コーディネーターを務めるルイス・モンティエルが語る。「病気を長期的に予防していくには、人びとの行動習慣を変えるための知識や手段をその地に残していく。それが最善の道なのです」
ウイラ州のMSFチームは、5月下旬に移動診療の活動を終えた。6月には、地元の医療施設の支援活動をアンゴラ保健省に移譲している。この移譲の際に、MSFは、物資、オートバイ、三輪自動車を寄贈して、患者の搬送体制を継続できるようにした。

一方、ウイラ州に隣接するベンゲラ州では、MSFは2022年4月以来、現在に至るまで活動を続けている。

栄養失調に関する研修の様子。知識を地域に残していく © Mariana Abdalla/MSF

© 特定非営利活動法人国境なき医師団日本