太陽系外惑星「LTT 9779 b」は岩石の雲で鏡のように輝いていると判明

天体がどの程度の光を反射するのかを示す「反射率」は天体によって様々ですが、高い反射率を持つ天体は限られています。エクス=マルセイユ大学のS. Hoyer氏らの研究チームは、地球から264光年の距離にある太陽系外惑星「LTT 9779 b」について、岩石の雲によって反射率が約80%もある鏡のような惑星であることを突き止めました。反射率がこれほど極端な理由は、LTT 9779 bの特殊な環境にあると考えられます。

ある天体が光をどの程度反射するのかは、その天体の表面の様子によって大きく異なります。例えば、月は入射した光の10%、地球は30%しか反射しませんが、上空に硫酸の雲が広がる金星は75%、表面を新鮮な氷に覆われている土星の衛星エンケラドゥスは80%以上を反射します (※1) 。金星やエンケラドゥスの反射率が高いのは、表面が光を反射しやすい物質に覆われているためです。

※1…反射率にはいくつかの定義があります。Hoyer氏らの論文ではLTT 9779 bの反射率が「幾何アルベド」で表されていますが、その一方でプレスリリースの原文で例示されている金星の反射率は「ボンドアルベド」の数値です。これらの反射率は定義が異なるので本来は単純に比較できませんが、今回は原文に従うことや、反射率という言葉の感覚に近い数値であることから、比較対象の反射率はボンドアルベドの値を引用しています。

太陽以外の恒星の周りを公転する「太陽系外惑星」は地球からの距離が遠いため、その反射率を測定するのは一般的に困難です。しかし、一部の太陽系外惑星は観測条件を満たしているため、大気の性質を知る1つの手掛かりとして反射率が測定されることがあります。

Hoyer氏らの研究チームは、そのような非常に珍しい条件を備えた惑星である「LTT 9779 b」についての研究を行いました。LTT 9779 bは国際天文学連合 (IAU) が実施した命名キャンペーンの結果、2023年6月に「クアンコア (Cuancoá)」という正式名称が付けられました。ちなみに、LTT 9779 bが公転する恒星「LTT 9779」は「ウウバ (Uúba)」と名付けられています。

太陽に似ている恒星をわずか19時間周期で公転するLTT 9779 bは、恒星に面している側の表面温度が約2000℃と測定されています。これほど極端に高温な惑星の反射率を調べる場合、惑星が反射した恒星の光と、加熱された惑星からの熱放射に由来する光を区別しなければならないため、難易度はより高くなります。

【▲ 図1: 恒星LTT 9779 (左) の放射を反射し、まるで鏡のように輝いている太陽系外惑星LTT 9779 b (右) の想像図(Credit: Ricardo Ramírez Reyes (Universidad de Chile))】

Hoyer氏らは欧州宇宙機関 (ESA) とスイス宇宙局 (SSO) が打ち上げた宇宙望遠鏡「CHEOPS」の観測データを使用して、LTT 9779 bの反射率を算出しました。その結果、事前の予想を大きく上回り、推定される反射率は約80% (63~90%) であることが判明しました。

金星における硫酸やエンケラドゥスにおける氷のような、温度の低い天体の反射率を高くしている物質は、表面温度が約2000℃にもなるLTT 9779 bでは分子そのものが分解されてしまいます。高温の惑星では岩石や金属でできた大気中の雲が反射率を上げることも予想されますが、LTT 9779 bは高温すぎるので蒸発した岩石や金属は宇宙空間へと逃げ出してしまい、雲は形成されないと考えられます。

【▲ 図2: LTT 9779 bの性質に関する概要と、今回の研究によって推定された大気の様子。上層にケイ酸塩、下層にチタン酸塩の雲が形成され、約80%という高い反射率となっていると考えられている(Credit: ESA)】

しかしHoyer氏らは、他の太陽系外惑星の観測で得られたデータを元にモデル計算を行った結果、LTT 9779 bの大気は岩石 (※2) で飽和しているため、この温度でも岩石の雲が形成されているという可能性に行きつきました。これは、地球で雲ができる原理とほぼ同じです。地球は、空気が限界まで水蒸気を含んだ時に、余った水蒸気が細かい水滴として結露することで雲が形成されます。結露するのが水ではなく岩石という違いはあるものの、LTT 9779 bでも同じようにして雲が形成されていることが考えられるというわけです。

※2…厳密にはケイ酸塩とチタン酸塩の混合物。

ただし、この仮説が正しい場合、LTT 9779 bの大気には岩石成分の元となる金属元素が極端に豊富に含まれていることになります。LTT 9779 bでは岩石が宇宙空間へ逃げ出し続けていることを踏まえると、岩石で飽和した大気を維持するのは一見すると困難です。Hoyer氏らは岩石の雲が生成される理由を複数推定しています。仮説の1つは岩石の雲が恒星からの光を反射することで表面温度が下がり、岩石成分の蒸発が抑えられる現象が起こっているというものです。大気の温度が低くなれば大気の蒸発と流出が抑えられるため、雲があるLTT 9779 bでは雲がない場合と比べて表面温度と大気の流出が共に抑えられていると推定されます。

LTT 9779 bが高い反射率を持つことは、LTT 9779 bに関する別の謎を解決することにもつながるかもしれません。LTT 9779 bの質量は地球の約30倍、海王星の約1.7倍です。このように海王星の数倍程度の質量を持ち、かつ恒星に極端に近い太陽系外惑星はほとんど見つかっていないことから、その希少性を示す「ホット・ネプチューン砂漠 (hot Neptune desert)」という言葉があるほどです。

どうしてホット・ネプチューンがこれほど珍しいのかは大きな謎です。木星サイズの惑星ならば蒸発に長い時間がかかりますが、海王星サイズの惑星の大気は少ないためにあっという間に蒸発してしまい、地球とほぼ同じ大きさがある岩石の芯しか残らないものと推定されることから、大気が蒸発しきってしまうことがその理由ではないかとも考えられています。

しかし、LTT 9779 bは約80%という極端に高い反射率を持ちます。恒星からの放射をほとんど吸収せず、岩石という重い元素で構成されていることで、LTT 9779 bの大気は蒸発が抑えられます。ホット・ネプチューンは大気の蒸発が遅くなるような特定の条件を満たした場合にのみ生き残ると考えれば、ホット・ネプチューン砂漠と表現される希少性もある程度説明できることになります。

LTT 9779 bに関する今回の研究結果はCHEOPSによる初期の観測データに基づいており、今後はCHEOPSによるLTT 9779 bの追加観測が予定されています。また、「ハッブル宇宙望遠鏡」や「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」がLTT 9779 bの観測に加われば、CHEOPSではカバーできない波長のデータが追加されるでしょう。LTT 9779 bの詳細な観測結果は、ホット・ネプチューン砂漠に関する謎の解決に役立つと期待されます。

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文/彩恵りり

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