<社説>ビッグモーター不正 業界全体の信頼を損ねる

 驚くべき不正行為が次々と明らかになった。元凶は極端な営業ノルマがもたらした企業風土の歪(ひず)みである。 中古車販売大手ビッグモーター(東京)による自動車保険の保険金不正請求問題は創業者の兼重宏行社長と長男の兼重宏一副社長が引責辞任する事態に発展した。

 故意に車を傷つけて修理代を水増しする不正は到底容認できない。経営者が責任を取るのは当然であろう。これで幕引きとはならない。ユーザーを裏切り、業界全体の信頼をも損ねる事態だ。不正の実

態を解明しなければならない。

 25日の記者会見で兼重社長は不正行為について「経営層の関与は全くない」と断言した。組織的関与も否定した。6月に外部弁護士の調査報告書を受け取るまで不正を認識していなかったといい、「こんなことをやるのかとがくぜんとした。本当に許せない」とも述べた。

 これでは現場に責任を押しつけるようなものだ。仮に不正行為に関与していなかったとしても、不正が横行する企業風土を許した責任は極めて重い。

 同じ会見での和泉伸二専務の「不合理な目標設定や頻発する降格人事でいびつな企業風土をつくり、顧客の信頼や期待を裏切った」という発言が、ビッグモーター社内の実態を言い表していよう。

 今回の不正請求の舞台となったのは板金塗装部門である。外部弁護士の報告書によると、修理の工費や部品から得る粗利の合計額として、工場に1台当たり14万円前後のノルマを課していた。

 ノルマを達成するため、工具のドライバーで車体を引っかいたり、バンパーを力ずくで押し込んだりして修理代を水増しした。ゴルフボールを靴下に入れて振り回し、損傷の痕跡を付ける行為もあった。ノルマ達成のためなら顧客の車を意図的に傷つけるというゆがんだ企業風土が根付いていたのである。

 ビッグモーターが公表した社内調査によると7月16日時点で1275件の不正が見つかった。2022年11月から8427件の保険金申請を調べた結果のうち、15.1%に相当した。水増し額は1件当たり約3万9千円だった。

 不正行為は日常的に横行していた。「経営層の関与は全くない」という兼重社長の説明は説得力を持たない。問題となった板金塗装部門以外に不正はなかったのか、社内調査をやり直すべきだ。

 ビッグモーターの不正を内部告発した工場従業員の証言が、当初の「工場長からの指示があった」から「指示はなかった」に改ざんされ、取引のあった損保会社も把握していたことも判明した。本当に経営層の関与はなかったのか。不正行為はさらに広がりを見せる可能性がある。

 中古車販売、自動車損保全体の信頼を傷つけてしまった。信頼回復に向けた業界全体の取り組みも必要だ。

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