知っておきたい 「180万円の壁」。60歳パート主婦「夫の健康保険の扶養に入れますか?」

シニア世代の就業者は増えていますが、60歳以降も働き続ける女性は多いと実感しています。働く理由には経済的不安もあるでしょうが、健康増進、社会や人とのつながりを持つためでもあるようです。今回はパートで働く主婦の方々から質問されることが多い健康保険の扶養についてお伝えします。


60歳以降は、年収180万円未満なら健康保険の扶養に入れる

筆者は日頃からファイナンシャル・プランナーの仕事として個別相談を行なっています。ご相談者の多くが50代・60代の方々ですが、最近、よく聞かれるのが扶養についてです。というのも、106万円や130万円の壁については耳にする機会も多いのですが、60歳以降は「180万円の壁」が出てくるからです。180万円の壁はあまり聞いたことはないかもしれませんが、シンプルにいうとパート年収が180万円未満であれば、配偶者の勤務先の健康保険に入れてもらえる、 ということです。なお、健康保険の扶養に入るには次の通り、一定の条件があります。

・主として配偶者に生計を維持されている
・配偶者の年間収入の2分の1未満である

例えば、配偶者である夫の年収が400万円なら年間180万円のパート収入までは扶養に入れますが、夫の年収が320万円なら160万円未満でないと、原則として、扶養には入れません。つまり、夫の年収次第で扶養の壁が上下するというわけです。特に60歳以降の継続雇用で配偶者の年収が大きく下がった場合には注意しておきたいところです。なお、これらの年収ルールについては、最終的には勤務先の健康保険の判断にもよるため確認をしておくのが確実です。

なお、180万円未満で扶養に入れるのは、従業員100人以下の比較的小規模な会社で働いている場合です。2024年10月からは、扶養に入れる条件が狭まり「従業員50人以下の職場」と制度改正があります。改正により、従業員51人以上の職場で働く人は、年間106万円(その他要件あり)になると勤務先の健康保険に加入し、自分で保険料を納めるようになることも覚えておきたいところです。

特別支給の老齢厚生年金を受け取ると扶養はどうなる?

65歳前に公的年金を受け取る女性もいます。「特別支給の老齢厚生年金」といい、厚生年金加入歴が1年以上、かつ昭和41年4月1日以前の生年月日に該当する女性が該当します。結婚前に正社員として働いた女性も多いことでしょう。金額としては少ないものの受け取っておきたい年金です。

さて、年金を受け取った場合の扶養判定は、「年金+パート年収」が180万円未満、かつ夫の年収2分の1未満になります。つまり年金収入は扶養判定に含まれるわけです。さらに、65歳以降は老齢基礎年金の受給が始まります。老齢基礎年金の満額は78万円ほどですから、扶養を外れてしまう可能性が高くなります。ただし、老齢基礎年金を受け取らずに繰り下げすることで扶養内に留まる方法もあります。

個人年金保険の収入で扶養はどうなる?

民間の「個人年金保険」に加入している場合はどうなるのでしょうか。60歳から個人年金保険を受け取り始める人も多くいらっしゃいます。そもそも、健康保険の扶養に認定されるか否かは、年間の収入額によって判断されます。年間の収入とは継続的に生じる収入を指します。個人年金保険を数年間に渡って受け取る場合、扶養判定に含まれることになります。具体的には、「個人年金+パート年収」で確認する必要があり、個人年金の収入については支払額で判断するケースが多いようです。なお、加入先の健康保険ごとに判断が異なりますから必ず確認しておくことをオススメします。

配偶者の定年後はどうなるの? 子の扶養に入れる可能性もあり

配偶者がリタイアした場合についても考えておきましょう。特に、国民健康保険は扶養という仕組みがないため自身で健康保険料を納めることになります。国民健康保険以外で退職前の健康保険の任意継続や特例退職被保険者の制度であれば扶養に入れてもらえます。その際の判定基準は、年収180万円、かつ配偶者の年収の2分の1未満であることです。リタイア後の年収は、多くの場合は年金収入でしょうから、配偶者の年金見込額についても確認しておきましょう。

ここまで60歳以降、パートを続ける際の扶養について見てきました。配偶者の健康保険の扶養に入る判定には、配偶者の年収や自身のパート収入とそれ以外を合わせた年収で考える必要があります。もしも、配偶者の年収がネックで扶養に入ることが難しい場合は、年金や個人年金を後ろにずらして受け取ること、あるいは、年収が高い子供の扶養に入る方法も考えておきたいところです。

最後になりますが、人手不足が社会問題となっている昨今、60歳以降の労働力への期待は必然的に高まっています。健康保険の扶養に入るために収入を抑えるのも考え方の一つではありますが、職場で厚生年金への加入を打診された時はぜひ検討してみてはいかがでしょうか。「厚生年金への加入=職場の健康保険に加入」ですから年収の調整は不要ですし、自身の老後の厚生年金を増やす効果もあります。先行きが不透明な時代ですから、自分にとってのベストをいろいろな方向から考えてみましょう。

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