勝田貴元、得意とする高速ラリーで苦戦「攻めきれず、居るべきところに辿り着けなかった」と反省の弁

 7月20日から23日にかけて、エストニアのタルトゥを拠点に開催されたWRC世界ラリー選手権第8戦ラリー・エストニア。今季3度目のマニュファクチャラー登録ドライバーとしてワークス参戦した勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)は大きなアクシデントなくラリーを完走したが、結果は総合7位と振るわなかった。後のオンライン取材会でも「攻めきれなかった」「ピュアなスピードで非常に苦戦した」という言葉が聞かれ、彼にとって厳しい週末となったことをうかがわせた。

 2023年シーズンよりTOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム(TGR-WRT)のワークスドライバーのひとりとなり、シリーズ8冠王者であるセバスチャン・オジエと3台目のマシンをシェアしている勝田。初めてのワークスエントリーとなった第2戦スウェーデンではクラッシュを喫し、第4戦ポルトガルはメカニカルトラブルに見舞われた。自身3度目のワークス参戦となるエストニアは彼が得意とするハイスピード・グラベル(未舗装路)ラリーであることから「結果を求めていきたい」ラリーだったという。

 迎えた競技初日。SS1を前に行われたシェイクダウンでのクルマのフィーリングは悪くなく、ややアンダーステアが気になりながらもテストコースを各車が3回走った段階で3番手、最終的なリザルトでも4番手の好位置につけた。勝田はこの段階では「結構いい具合で乗れている」と手応えも感じていた。

 しかし、本格的な戦いが始まったデイ2以降はエストニア特有の柔らかい路面などに苦戦を強いられる。足回り動きの不安定さからくる乗りづらさを感じ午前中のループからスピードに乗ることができなかった勝田は、ミッドデイサービスでこの問題の改善を図ったが、午後の再走ステージでは路面にできた深いわだちがスピードアップを阻んだ。

「すごく乗りづらかった部分を改善するためにいろいろとセッティングを変えて良くはなったのですが、午後のステージはわだちが深い路面コンディションとなり、そこでセッティングというよりも僕のドライビングの方で苦戦してしまい、タイムを伸ばすことができませんでした」と初日のタイムロスを説明した勝田。彼は“フルデイ”の初日に「流れを掴むことができなかったことが、ラリーの最後まで尾を引いてしまった」と続けた。

 その言葉どおり土曜日のデイ3は出走順が早くなったこともありつつ、やはり純粋なペースで1kmあたりコンマ3~5秒、多いところではコンマ6~7秒ほどの後れをとった。この間、クルマの乗り味は良い方向に向かっていただけに、勝田にとってはフラストレーションがたまる一日となったようだ。

「自分の中で攻めきれていない部分がひとつひとつのコーナーで積み重なっていった結果、土曜日のスピードに繋がっていたんじゃないかと思っています」と勝田は述べた。

「やはりハイスピードラリーだとひとつひとつのコーナーをどれだけ詰めていけるかで、その後の直線で軽く0.5秒から1秒くらい変わってしまうので、そこでの攻め具合だったりとか『行き切れた』『行き切れていない』というところで他のラフグラベルラリー以上に大きな差になってしまいます。そのあたりの差が今回のラリーで顕著に現れた。そのように感じています」

「週末を通してスピードに乗って走ることができなかった」と苦戦した週末を振り返った勝田貴元(TOYOTA GAZOO Racing WRT) 2023年WRC第8戦ラリー・エストニア

■3日目の挽回を阻んだ“原因不明”の電気系トラブル

 ラリー最終日。勝田はグリップ感を補うことを狙って足回りとデフのセッティングを変更した。これによりフィーリングは大きく改善されたといい、総合6番手を争うピエール-ルイ・ルーベ(フォード・プーマ・ラリー1)や若手フランス人のチームメイトであるオット・タナク(フォード・プーマ・ラリー1)のMスポーツ勢と争えるレベルになった。それは最後から2番目のステージとなったSS20で発揮され、今大会ベストとなるステージ5番手タイムをマーク。総合順位でもルーベを抜き6番手に浮上した。

 最終的にはSS21で再逆転を許しわずか0.3秒の差で総合7位フィニッシュとなった勝田は、今回の走りを反省するとともに問題点の洗い出しや27日(木)に予定されているテストなどで改善を図り、1週間後の8月3日(水)に開幕するTGR-WRTにとってのホームラリー、第9戦『ラリー・フィンランド』に良いかたちで入りたいと語った。

「ドライビングを含めていろいろなことを試しながらやっていたものの、徐々に良くはなっていったのですが最後まで劇的には変わりませんでした。自分が居るべきところには辿り着かなかったので、そこが今回の大きな反省点であり、次に向けての改善点だと思っています」

「先週末は本当にピュアなスピードで非常に苦戦してしまったので、フィンランドに向けたテストもそうですけど、チームやエンジニアが今もデータを比較しながら問題点をいろいろと洗い出してくれているところなので、次のラリーまでにすべてしっかりと洗い出して、良い状態でラリー・フィンランドに入りたいと思っています」

 なお、勝田がドライブするトヨタGRヤリス・ラリー1は、ルーベを追っていた土曜日の午後に電気系トラブルに見舞われた。

 SS14の序盤、スタートから3km地点で起きたというこのトラブルは、取材会が開かれた25日(火)時点では原因が突き止められていない。当時の車内ではモニター類がすべてシャットダウンされた状態となり、ステアリングに配置された各種ボタンもまったく機能しなかったという。スイッチ操作でエンジンを切ることもできなかったため、ステージ走破後はエンジンを守るために止むなくストールさせて強制的に止めたと勝田は語った。

 その後もデイ3最後のSS17まで同様の電気系トラブルが続くなか、これに関連してインターコム(インカム)にも不具合が生じ、勝田の声は相棒のアーロン・ジョンストンに届く一方、もっとも重要なコドライバーの声が勝田に届かなくなってしまった。この状況に対処するためSS15ではスタート1分前にジョンストンの提案でヘルメットを交換し、無事に同ステージを走りきることができたと明かした。

ラリー・エストニアとラリー・フィンランドは同じ高速グラベル(未舗装路)ラリーに分類されるが、前者は路面が柔らかく深いわだちができやすい。対して後者は、全体的に固い路面でグリップを得やすいという特徴がある。

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