<社説>環境保全共同声明 ポーズで終わらせるな

 日米両政府が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産に登録された本島北部の自然環境保全に向け、協力して取り組むとした共同声明を発表した。北部一帯で日本政府による米軍基地内での希少種の調査が可能になるという。 2015年に日米両政府が環境補足協定に合意して以降、初めて具体的な双方の協力を明記しており、一歩前進ではあろう。しかし、問われるのはその実効性だ。日本政府の本気度が問われている。

 共同声明の要点は、米軍北部訓練場内で日本側による希少種の調査が可能になったことだ。加えて、北部訓練場の環境対策で、日本側から「助言」が可能になった。基地内への立ち入り調査はこれまで米側の裁量に左右されていたが、共同声明によって、立ち入りの障壁は一定程度下がるとみられる。

 ただ、米側は環境補足協定に基づく過去の調査で、サンプル採取の場所を限定した。自由度の高い調査を日本側に保障すべきだ。日本側も環境対策への「助言」にとどまらず、主体的な関与が必要だ。

 基地内で米軍の判断が優先される状況は変わらない。これでは実効性のある調査と、環境対策への「助言」が可能なのか疑問が残る。日本側は共同声明を履行するよう米側に強く迫るべきだ。

 米軍はこれまで有機フッ素化合物(PFAS)水質汚染が基地由来とされながら、基地内の立ち入り調査を拒み、汚染源特定の壁となった。今回の共同声明でも、日本側が訓練場内で実施する調査に対する米軍の「協力」の度合いは不透明なままだ。

 共同声明が、やんばるの自然環境保全に協力するという米側のポーズに終わるのなら許されない。米軍の管理権や運用を優先し、十分な調査が実施できないなら単なる見かけ倒しである。「助言」も効力を持ち得ないであろう。

 やんばるの森は、21年7月にユネスコの世界遺産委員会が「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の登録を決定したが、ユネスコの諮問機関である国際自然保護連合(IUCN)は18年に一度、「登録延期」を勧告している。やんばる地域に広がる米軍北部訓練場の部分返還地(17年12月、約4千ヘクタール)が推薦地に含まれなかったことが疑問視された。

 北部訓練場は退役軍人が枯れ葉剤の使用を証言するなど、深刻な環境汚染も予想される場所だ。やんばるの原生林が残り、絶滅危惧種のヤンバルクイナやノグチゲラなど多くの固有種が生息する北部訓練場への立ち入りをいかに迅速に実施できるかが環境省には問われている。

 返還区域には今も銃弾など米軍の廃棄物が残されている。この問題を放置してはならない。米側は返還地も含めて使用履歴を明らかにし、日本側と共に汚染除去に取り組まなければならない。

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