LRTで大渋滞解消なるか 車社会からの転換、不透明 発進LRT②

芳賀方面への通勤車両で混雑する柳田大橋周辺=19日午前8時、宇都宮市道場宿町

 沿線の地価上昇、人口、税収の増加ー。栃木県芳賀町で20日開かれた自治会長向けの講演会。LRT運行会社の中尾正俊(なかおまさとし)常務が導入の利点を次々と挙げた。まるで「バラ色」の未来だ。

 その中で、度々言及したのが渋滞問題。「工業団地に勤める方々の足を、車からLRTに切り替えようという話でそもそも始まった」。清原、芳賀工業団地周辺の通勤時間帯の大渋滞は、LRT構想の原点だ。

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 講演会の中で出たLRTの利用者予測は1日1万6318人。そのうち通勤が1万3357人を占める。LRT開業に歩調を合わせ、団地内のホンダは通勤バス廃止を決定し、LRT利用を促す方針を明らかにした。車、バス通勤者がLRTを使うことで渋滞が緩和される。講演に聴き入った自治会長たちを含め、期待するのは自然な流れだ。

 だが、実際の通勤者には異なる受け止めがある。「LRTは最初の停留場で満杯になって途中からは乗れず、結局車を使うことになるのでは」。団地内のホンダに勤める50代男性は、LRTによる渋滞解消効果を疑問視している。キヤノン勤務の40代男性も「通勤時間帯の本数と座れるかを考えると会社バスの方が絶対にいい」とシビアだ。

 工業団地の会社、事業所対象の下野新聞社アンケートでは、渋滞が「あまり改善しない」「ほとんど解消しない」が半分を占めた。従業員が通勤手段をLRTに替える割合も「1割未満」とする回答が大半だ。

 宇都宮市が2014年に実施した沿線従業員アンケートでは、車による通勤者の少なくとも約1割が「LRTを利用する」と回答している。

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 「1割」という数字はそのまま、慣れた車社会からの脱却が難しい本県の現実の裏返しとも言える。

 既設の軌道を活用するのでなく、一から敷設する「全国初の新線」。宇都宮市の担当者は「走ってみないと分からない面はある。(渋滞が)こうなりますとは言えない」と話し、未知の挑戦が手探りであることをうかがわせる。主要な利用者である通勤者や沿線周辺の住民にとって、LRTがもたらす未来が何色なのかはまだ分からない。

 その上で、担当者は「最終的に自動車から公共交通へ選択の転換をしてもらう都市づくりを目指す」と強調。局地的な渋滞対策そのものよりも、長い目で生活様式や行動の変容につなげる大きな視点での意義を今は色濃く訴えている。

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