トム・クルーズ 「映画を守る」という「ミッション・インポッシブル」に挑む

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現在公開中のトム・クルーズ主演最新作「ミッション・インポッシブル/デッド・レコニング PART ONE」は「絶対に映画館で見なきゃいけない作品」。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、クリエイティブプロデューサーの三好剛平さんが断言した。
それが「映画文化を守る」という「ミッション・インポッシブル」にたった1人で挑み続けるトムへの恩返し。

「絶対に映画館で見なきゃいけない」

今週は、7月21日(金)より劇場公開中のトムクルーズ主演最新作「ミッション・インポッシブル/デッド・レコニング PART ONE」をご紹介します。

「ミッション・インポッシブル」といえば、1966年から1973年まで放送されたアメリカのテレビドラマ「スパイ大作戦」をベースとした映画シリーズで、1996年からトム・クルーズが映画としてのシリーズをスタートさせ、これまで6本の作品を発表しています。

今日はここから、この映画がなぜ「絶対に映画館で見なきゃいけない作品なのか」について、2つの視点からご紹介していきたいと思います。

苦境にあるハリウッドの現状

お話を始めるにあたって、まずハリウッド映画が置かれている現状に触れねばなりません。

今から20年前の2002年、ハリウッドのメジャースタジオは約140本の新作を劇場公開し、北米で約15億7,500人の年間観客動員を記録しました。一方、昨年2022年の数字を見ると、メジャースタジオ作品は73本、年間観客動員数は約8億1,200人と、どちらもほぼ半減しています。

これは映画の鑑賞スタイルとしてここ数年で一気に配信鑑賞が定着したこと、そしてコロナによる影響で一度映画館から遠のいた客足がその後も戻らない、という状況があります。

スピルバーグ「君がハリウッドを救ったんだ」

一方でトム・クルーズは「ビッグムービー、ビッグスクリーン、僕が愛しているもの」と自ら発言するほどに「大きな映画を劇場で皆と見る」という映画のマジックを心から信じる男です。

しかし現実には、俳優や監督、あるいは観客がいくら望もうと制作会社は資金を渋らざるを得ない厳しい状況にあるうえに、主演俳優が体を張って死線すれすれのアクションを行うことなんて、その後のプロモーションや保険会社との契約などを考えてもご法度となってしまうのが現在の映画界です。

ならば、と自らプロデューサーを買って出て、自ら資金を調達してくるかわりに、映画製作から公開の方針までしっかり発言権を獲得することで、なんとか彼の信じる「映画」を守ることに尽力しているのが近年のトム・クルーズです。その最大の功績こそ、昨年日本でも大ヒットした「トップガン マーヴェリック」でした。コロナ禍において、既に完成済みだった「トップガン」を配給会社は何度も「配信で公開すべし」と迫りますが、トムはプロデューサーとして断固として劇場での封切りを守り抜き、そのおかげで見事歴史的な大ヒットを記録。それは言葉通りに「大きな映画を劇場で皆と見る」ことのマジックを観客に再度信じさせることでもありました。この大いなる達成は、あのS・スピルバーグ監督も、ある映画祭の現場で対面したトムにむけて「君がハリウッドを救ったんだ、そして劇場への配給システムも救ってくれた。これは本当のことだよ」と直々に伝え、話題になったほどです。

制作費は400億円超

今回の「ミッション・インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」ですが、製作費は2.91億アメリカドル、日本円で400億円超と言われており、これまでの歴代世界の映画制作費ランキングのなかでも屈指のスケール。しかしそれも、ただ無法に金をかけたというわけでもありません。コロナ禍であらゆる映画制作がストップし、映画製作スタッフたちが仕事を失っているなか、トムはこの「ミッション・インポッシブル」の制作は止めませんでした。感染対策にかかる膨大な費用を引き受けてなお、彼らに仕事を続けてもらうことが「映画」を存続させることであるという信念を貫き、完成したのが本作です。

「見たことのない現実を目撃させる」

コロナ禍真っ只中2020年9月の撮影初日にトムは何を撮っていたかというと、本作の予告編でもご覧になった方も多いかもしれないあのシーン、そう、北欧の断崖絶壁にむかってトムがバイクを全速力で走らせ、バイクとともに崖から飛び降りる、あの超人的スタントを撮影していました。

このシーンにも明らかなように、トム・クルーズはプロデューサーという発言権を担保することで、主演俳優でありながら、自ら“活劇俳優”として身体を張ったアクションを披露することに徹底的にこだわった映画づくりをモットーとしています。

これは、まさしく今失われようとしている「映画」という文化の守り人として、「なぜ人々は映画を映画館に見に行くのか」という根本的命題に対して彼の出した回答でもあります。それはすなわち映画とは「見たことのない現実を目撃させる」ことであり、実存する人間や車や飛行機といったものたちが「現実」を飛び越えてしまう運動/活動の瞬間を、観客みんなと固唾を飲んで見守って楽しむことが映画である、というひとつの提起でもあります。

映画の原初を継承する

またそれは映画の原初のあり方に応えるものでもあります。1895年に誕生した映画は、その原初に、現実にそこにないはずのものが目の前に現出し迫ってくるようなスリル、見たことのない土地の風景を記録した映像、奇術師のパフォーマンスを記録したものなどをフィルムに焼き付けて、さまざまな場所で「上演/上映」されてきた歴史を持っています。映画はその原初において〈見世物〉興行であり(英語で見世物はspectacleと訳します)、観客はその驚きと感動を求めて、劇場に何度も足を運んでいたものでした。

そうした映画の「見世物」性を、自身の出資、そして文字通り自らの身体を張ったパフォーマンスを通じて見事に作品化し、またそれを意地でも「劇場で見せる」ことを価値として届ける覚悟によって、ある一時代を終えようとしている映画興行の「最後の晴れ舞台」を届けてくれるのが、このトム一座による「ミッション・インポッシブル/デッド・レコニング PART ONE」なわけです。

だからこそこんなにトムが身銭を切って、体にムチを打ってやっているこの晴れ舞台を見ないという選択肢はゼロですね。絶対に見た方がいいわけです。

「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」

2023年7月21日公開

監督: クリストファー・マッカリー

出演: トム・クルーズ/ヘイリー・アトウェル/ヴィング・レイムス/サイモン・ペッグ/レベッカ・ファーガソン/ヴァネッサ・カービー/イーサイ・モラレス/ポム・クレメンティエフ、ヘンリー・ツェーニー ほか

公式サイト:https://missionimpossible.jp/

田畑竜介 Grooooow Up

放送局:RKBラジオ

放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分

公式Twitter

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※放送情報は変更となる場合があります。

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