お茶のルピシア ニセコ移転3年!新本社も完成 ビールに食品、今後の戦略は

今回の特集は、お茶の会社「ルピシア」。東京から北海道・ニセコに本社を移転し、3年が経つ。新しい本社棟も完成した。今後の戦略に迫る。

【3年前に東京からニセコに移転】

世界のお茶を扱う、「ルピシア」。1994年に設立、国内外に139店を展開し、ハワイやパリにも店舗を構える。会員数は約70万人にも及ぶ。

ルピシアとニセコの関わりは、本社移転の前からあった。2009年にレストランを、2017年に食品加工場をそれぞれ設置。会長自身もニセコにほれ込み、移住した。本社の移転も以前から検討していたが、社員にアンケートを取っても転勤希望者はほとんどいなかったという。その空気を変えたのが、新型コロナウイルスだった。

自然が豊かで、外国人も多いリゾート地のニセコは海外のお茶も幅広く扱うブランドのイメージとも重なった。社宅も設け、転勤者や出張で来る社員の受け入れ環境も整えた。

【自然と調和した新本社 “円”がモチーフ】

ことし3月から供用を始めた新本社。外観・内観ともに木のぬくもりが感じられる。入口を入ってすぐの来客スペース。使われているのは旭川家具だ。この本社では、子供向けの数学教室など地域の人を招くイベントも予定している。周辺の敷地には会員が泊まれる宿泊施設を造る構想もある。

建物自体もそうだが、一つの大きなコンセプトとなっているのが「円」。「円卓」は上下の区別なくフラットに話し合いができるということで、その考え方を取り入れている。取材の日は曇りで隠れていたが、窓からは羊蹄山が見える。自然との調和も強く意識している。

この日は曇っていたが、窓から羊蹄山が見える

新本社にはブレンディングルームも備える。コロナ禍を経て、オフィスや働き方を見直す企業も出てきている。

水口会長は「本社は意思決定するところ。それと情報が集まるところ。それでいい」と話す。円滑なコミュニケーションのためにも社員には、できるだけニセコに来てほしいというが、この3年間、異動は強制していない。転勤を受け入れた人や現地採用で、ニセコで働く従業員は約100人に増えた。

水口会長は「東京は今新しいオフィスを借りているが、本音はどんどん小さくしたい。ニセコはずっと住むにはなかなか難しいところもある。なので札幌には事務所を作ろうかと思っている」と話す。

【移住した社員は? 商品開発にも好影響!?】

東京から転勤で来た、中下さん。3年前の取材では「一番近いコンビニまで歩いて30分かかるという、日常があまりにも変わったのがびっくりした」と話していた。

町内の社宅に住み、初めての冬には、雪道で転んで右腕を骨折してしまったことも。東京ではお茶の商品開発をしていたが、ニセコでは食品の開発を担当している。北海道で過ごす日常で出合う食材も仕事に結びついているようだ。

ルピシアのレストランのメニュー

ニセコに来て、3年。生活にも慣れ、北海道の食材の知識も増えてきたという。ルピシアは今後、食品部門を強化していく考えだ。中下さんは「生産者からいろいろ教えてもらったり自分で見に行ったりする中で少しずつは知識が増えている。食品部門を強化する方針について、今後どのように進めていくかというところはあるが、わくわくしている」と話す。

水口会長は「都会の方がその新しいデザインだとか新しい情報に触れることができると言う人もいるが、ある意味で“都会のデザイン”。自然に戻れば自然のデザインっていうものがある。これからはそっちの方に少しずつ傾いていくのではないかと思う」と話し、自然の中で生活することが新しい発想やアイデアに結びつくと考えている。

【「儲からない」!?それでも取り組むビール事業】

ルピシアは元々OEMでの外部委託でビールを製造していたが、本社を移転した2020年に自社の蒸留所を建設。羊蹄山の雪解け水を使い、“ニセコ”ならではのビールづくりにこだわっている。

水口会長は「クラフトビールははっきり言ってそんなに儲かる領域ではない。ヨーロッパでは地ビールがある街の人はその地ビールしか飲まない。地元の人とのつながりができやすい。その理由だけで始めた」と話す。

先月、札幌で開かれた、ビールの新商品発表会。お披露目されたのはルピシアで人気のお茶の一つ、「白桃烏龍(はくとうウーロン)」をビールにした商品だ。

ティーバッグをビールの中に入れて抽出することで、お茶の味を引き出しているのだという。アルコール度数も低めにして、ルピシアのメインターゲットである女性も飲みやすくしている。お茶を使ったビールはこれで2つ目。第3弾以降も計画しているという。

ビールのラインナップには、石屋製菓の看板商品「白い恋人」とのコラボ商品も。水口会長は「北海道に来たことで、地元企業とのコラボも生まれた」と話す。今後もこうしたコラボ商品を増やしていきたいという。

【“北限のお茶”づくりも】

ニセコ町の試験農園。お茶の栽培は東北が北限とされていて、北海道での栽培は珍しいという。

ルピシアは2015年からニセコでお茶の試験栽培に取り組んでいる。寒冷地での栽培方法にメドがつき、去年5月に約7000本のお茶の樹を静岡から移植した。

ルピシアは先月、収穫イベントを開き、参加した約30人が、冬囲いを取り外し、お茶摘みの作業を体験した。近隣の町村や札幌圏から来た人が多く、去年の植樹から2年連続で参加している人もいる。

函館から3時間かけて来た人も

栽培とお茶づくりを手掛ける、興梠さん。釜炒りという手法を得意とし、農林水産大臣賞を16度受賞している。まだ商品化には至っていないが、参加者には試験的に作ったお茶が配られた。興梠さんはニセコのお茶について「春になると一気に芽吹く。パワー(生命力)が違う。お茶の深み、うまみもぎゅっと詰まっている。短い間で生育した生命力を私たちに飲ませてくれている。全然違う」と話す。

【コロナ禍でも最高益 今後の展望は】

ルピシアは、コロナ禍に過去最高益を出していた。先行きが見通せず、積極的な支出を控えた一方、巣ごもり需要で通販が伸びたことが要因だという。ことしは攻めの経営に転じる方針だ。

輸出を強化し、BtoBにも取り組みたいという。特に力を入れるのは食品部門。商品開発を強化し、海外、特に欧米への輸出を本格化する考えだ。水口会長は「全く違った領域だと成功の可能性がすごく低くなる。食品などに近い領域で新しいことをやりたい人が現れれば、いろいろ手を出していきたい」と話す。

挑戦を続けるルピシア。今後の展開にも注目したい。
(2023年7月29日放送 テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)

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