【クイズ】知的雑談力がアップするって、ほんと? “クイズ界最強夫婦”にインタビュー

写真左から河村拓哉、篠原かをり

(画像)“クイズ界最強夫婦”河村拓哉、篠原かをりその他の写真

「クイズ界最強夫婦」とも名高い、YouTubeチャンネルの登録者数が200万人超えの東大発知識集団「QuizKnock」メンバーの河村拓哉さんと、『日立 世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターや『嗚呼!! みんなの動物園』の動物調査員などでも活躍中の動物作家、篠原かをりさん。

クイズ作家やクイズプレイヤーとしても活躍しているふたりは、クイズがきっかけで親しくなり結婚し、2023年7月7日に発売の共著『雑学×雑談 勝負クイズ100』(文藝春秋)が“初めての共同作業”となりました。

今回、知的なおふたりに著書のことや豊かな毎日についてお話をうかがいました。

「クイズ」と「コミュニケーション力と脳」の深~い関係

日頃やっていることをまとめたら本になるとわかりました(笑)

© 文藝春秋(撮影:三宅史郎)

――2023年7月7日に『雑学×雑談 勝負クイズ100』(文藝春秋)を発売されます。今回、おふたりでクイズ本を出版した経緯から教えてください。

篠原 夫とはクイズ研究会で出会って、共通の趣味にクイズがあって結婚に至ったということと、もともと私の本を出版していただいて長くお世話になっている編集者の方から、今回のクイズ本の企画をいただいたことがきっかけです。

とはいえ、日常でもクイズ形式で会話をすることはよくあって、最近、夫は毎日4問ぐらい問題を作ることを自分に課して、夜になると問題を出してきたりするんですよ(笑)。だから、日常生活ともマッチした企画でしたし、日常の切り取りになったところもあるかなと。

河村 そもそもはいただいた企画でしたが、夫婦でいつもやっていることでもあるので、日頃やっていることをまとめたら本になるということがわかりました(笑)。クイズ作家という仕事柄、いつもクイズを作り溜めておくと、のちのち楽。

今回は、本に全部で100問掲載していますが、急に1日20問を作るとなるとまる1日かかってしまうので、毎日少しずつ余力のある日はクイズを作っていました。

© 文藝春秋(撮影:三宅史郎)

――『雑学×雑談 勝負クイズ100』は、生き物・カルチャー・グルメ・スポーツ・文学・歴史・地理・言語・生活・ニュースの「10ジャンル」のクイズをおひとり5問ずつ考案されたそうですが、問題はスムーズに作成されたのでしょうか。

篠原 スムーズに考えられる問題とそうではない問題があって、「昆虫100問」のほうが本当は楽なんですよ(笑)。でも、ひとつのジャンルに偏るとその他のジャンルが好きな方にはクイズの面白さが届きづらいので、あえて自分たちからは普段出ない問題もバランスよく作ってみようと、10個のジャンルで質問を作ってみました。

私たちはスポーツが苦手なんですが、スポーツの苦手な人が出すクイズってこんな感じだよ、という問題で、ここはご愛嬌、みたいなものもだいぶ含まれていて(笑)。その大変さはあったよね?

河村 そうだね。ふたりで会話をしていると、まったくスポーツの話題が出ない(笑)。本のために頑張りました。

篠原 たとえば相撲問題が2問あるんですが、昨日も相撲の話になって、「大栄翔(だいえいしょう/追手風部屋)は大学院を出ている。○か×か。」というようなクイズを出して、スポーツは苦手ながらお互いに若干相撲は好きだとわかりました。

河村 苦手なりに相撲を観ようとはしていて。自己分析では、相撲はふたりで取り組むので、サッカーのような団体競技と違って試合中どこを観ていいのかわからないという状況にはならないから、まだ興味がわくのかなと(笑)。苦手なジャンルも全部遠ざけずに、わかるところから始めています。

――クイズ問題を作りながらも、お互いに新しく発見したところもあるのですね?

篠原 そうですね。夫に限らず、一緒にクイズをしている者同士だと「こんな問題はきっと得意かな?」という読める部分もあって。お互いの得意分野と、好きそうな問題は、近くで一緒にクイズをやっているとわかってくるものではあるんです。でも、完全に読み切れるものでもないので、ふと意外なところを垣間見たり、逆に自分のことはこうやって思っているんだとわかったり。お互いの理解を深めるという意味でも、クイズが機能したよね?

河村 そうだね。ただ、前に話したことがあるクイズかもと思いながらボツにした問題もありました。今回、本のために新しく調べて作ったクイズもたくさんありますね。

篠原 日頃から、新しく知ったことは見た瞬間に話してしまうので、そういったクイズになるような知識をクイズを収録するまで、自分の心の中に留めておくのが難しかったです。

出題者と解答者の気持ちが離れすぎないものがいい

河村拓哉 © 文藝春秋(撮影:三宅史郎)

――では今回の本を読まれるみなさんが、日頃から脳を活性化させたいときにやったほうがいいことはありますか。

河村 「誰かにクイズを出したい」と思っているだけで、十分に脳を活性化していますよ。「これ、なんだと思う?」と、答えを隠して他の情報を相手にあげることで、それはもうクイズになるので。

篠原 クイズを考える、答えるという作業は、コミュニケーション能力の一貫ですよね。「どんなものを出したら受けてくれるかな?」という気持ちと、「どこを隠されたら、ほどよくわかりづらいかな?」という駆け引きから成り立つものがクイズですから。

とはいえ、ずっとクイズをやっていた人の問題が必ずしも一番面白いわけではなく、クイズと全然関係ない方が出された問題のほうが盛り上がることも。たとえば、日頃クイズを作っている男性と結婚したまったくクイズに縁のない女性が作った問題のほうが面白かったことがあって(笑)。

河村 目線が新鮮なのがいいんだよね。

篠原 妻の問題のほうが、クイズプレイヤーの夫の問題より、盛り上がったことがありました。結局のところ、自分が触れないものの情報は、目新しくて興味深い。出題しようとすると、自分が好きなものに限ってしまうから、脳を鍛えるときにはそんなに難しく考える必要もないのかなと。

自分が面白いと感じる問題が思わぬ誰かに刺さることもあれば、空振ることもある。

河村 僕はクイズを出す側は、心がけが大事だと思っていて。クイズが難しければ難しいほど、面白いわけではないことだけわかっているといいのかな、と。

超難問といわれると盛り上がりそうですが、会話としてはそんなに盛り上がらないという(笑)。そんな難問よりも、相手は知ってるだろうし正解できるけど出してみよう、ぐらいの問題を出すといいと思います。

問題を出す側は会話の主導権を握ることになるので、有利・不利で会話を考えがちになるんですが、それはやめておいたほうがいいですね。

『雑学×雑談 勝負クイズ100』(文藝春秋)より

篠原 私は幼少期に、父親にクイズを出すのが大好きだったんですが、答えられるのは嫌いでした。たとえば「アフリカに生息していて、首の長い動物ってなあに?」と問題を出して、父が「キリン」と言うと、「違う」と言うというように。

本当は正解だったとしても、質問の仕方を変えてだんだん難しくしていって、出題する側は相手に答えられないほうが楽しかったから。でも、まったくわからない問題ではなく、ぎりぎり答えられて相手が喜べる問題を出すと、出すほうも答えるほうも双方一番うれしいんじゃないのかなと。

私は宝塚が好きなんですが、観劇していない方もたくさんいらっしゃいますよね? 宝塚からクイズを出す時、同好の士に出すならタカラジェンヌが飼っているペットの名前をクイズにするくらいがたぶん盛り上がるんです(笑)。

でも、解答者の属性がわからない場合は「宝塚の初演の演目は有名な日本の昔話です、さて、なんでしょう? 」みたいなクイズを出すと思います。正解は「桃太郎」なんですが、宝塚をあまり知らなくても、日本の昔話は自分にも馴染みがあるから勘で答えることもできる。さらに、最初は桃太郎から始まったという意外性もある。出題者と解答者の気持ちが離れすぎないものがいいと思います。

豊かな毎日を送るヒントは…

いろいろな話をすることが豊かな毎日につながる

篠原かをり © 文藝春秋(撮影:三宅史郎)

――生活にクイズが溶け込んでいるおふたりにとって、豊かな毎日にするために、日頃から何か心がけていることはありますか?

篠原 毎日、夫婦でとてもよく話をします。もともとそんなに共通の話題があるわけではないんですが、最近知った面白いものや数多ある知識をランダムで話す相手として、すごくいいんですよね。今は、連載開始から21周年を記念した私の大好きなアメフト漫画『アイシールド21』(集英社)の特別読切が公開されるらしいので、夫に早く読んでほしいと強く思っていて(笑)。そういったいろいろな話をすることが、豊かな毎日につながる共通のことかもしれないですね。

河村 ふたりで本当にどうでもいいことをずっとしゃべっています(笑)。それは話したい気持ちはもちろんのこと、情報は持っておいたほうが得だ、という価値観が共通しているので、おたがいに「これ教えておいてあげよう」と思って会話が増やせているのかなと。

篠原 おたがいに知りたがりだからこそ、自分に関係のないことでも、ランダムに情報が入ってくるとうれしいんです。普段、SNSを見たり、動画配信サービスを観たりということの一環に会話をするということがあって、情報源が増えて毎日うれしいよね?

河村 そうだね。気兼ねなく情報を入れてもらうことは、楽しいことです。

『雑学×雑談 勝負クイズ100』(文藝春秋)より

――今回の本は、クイズの答えを導き出すまでの雑談もたっぷり収められていて、クイズ本としても対談本としても楽しめる内容ですが、一番のおすすめポイントはどこでしょうか。

河村 一番の良さとなると、あまり似たようなクイズ本が他にないことですね。通常のクイズ本といえば、情報を覚えて自分の知識を強くするという形が多くて、ドリルという名前になっていたり、過去の問題集だったり。

今回、100問のクイズが載っている点は他と変わらないんですが、そういうクイズ本があったとしたらどういう会話が行われますか? というところまで踏み込んで、パッケージ化したのがこの本です。だから、ちゃんといいクイズを作っているんですが、クイズ目当てというよりは、「クイズを通してこういう会話ができますよ」という、ある種の実例集でもあるのがポイントですね。

篠原 クイズを作るうえでも、「こういう気持ちでクイズを作って出していいんだ」と感じましたし、みなさんにも気軽にクイズで驚いたり発見したりしたことを話してみていいよ、という実例集です。

河村 だからけっこう、気楽に読んでほしいですね。

――クイズは、コミュニケーションを深めるものなのだと感じました。

篠原 選択肢が増えるという点では、クイズはお互いを豊かにする存在です。でも、生活に必須なものではないかもしれません。

河村 そうだね。僕はクイズが身近な環境にいますが、一般的にはみなさんにとってどのくらいの頻度でクイズに触れることがあるかはわからないので……。

『雑学×雑談 勝負クイズ100』(文藝春秋)より

篠原 でも、会話のとっかかりとして、クイズはとても役に立つものでもあって。スラスラと話がうまくできる人ばかりではないと思いますし、私も話し始めることだけは苦手なので、そういう方にとってクイズは使いやすいものです。コミュニケーションのひとつとして、こういうこともできるよ、という選択肢になるかなと。

河村 「では問題です!」とクイズを出すところから会話が始まると、まったく文脈を無視した投げかけになるかもしれませんが(笑)、とにかく話し始めることができて、コミュニケーションが取れる。それは必ずしもスマートに見えないかもしれませんが、不恰好なりにコミュニケーションが取れるので、手段としてクイズを持っておいてもいいのではないかなと思います。

いつもの景色が違って見える力がクイズにもある

© 文藝春秋(撮影:三宅史郎)

――では、クイズによって得られる喜びとは、どういうものだと思いますか?

河村 知識が増える喜び、そして会話の幅が広がることかなと。同じことについて、ふたり以上の人たちが考えている、という状況になるので。

篠原 どんなに幅広く勉強しようと思っても限界があるなかで、誰かが作ったクイズ問題は、そのジャンルの凝縮された魅力を伝えてくれるものでもあるんですよね。自分の中で世界に対する解像度が上がると、いろいろなものが面白く見えてくるんですよ。自分ではリーチできない情報をクイズで他の人が出してくれると、「これはクイズで出されていたものだな」と自分の感度も上がって、ただ街を歩くだけでもまわりに気づくことが増えるんです。

河村 以前、ひとつの花の名前を教わって、その時は「ふ〜ん」としか思わなかったんですが(笑)、散歩していたらその花を道でよく見かけるようになって。「そういえば、あのとき聞いた花だな」と、びっくりしました。

篠原 それは「ムラサキカタバミ」だね、道にすごく生えているから。家から駅まで1キロの道のりがあったとして、その1キロという距離は変わらないんですが、知っていることが増えれば、その1キロの楽しさが増えていきます。

河村 こんなふうに、いつもの景色が違って見えるようになる力がクイズにもあって。知識が増えることで、豊かな毎日が過ごせるのではないかと思います。

(取材・文/かわむら あみり)

書籍情報

『雑学×雑談 勝負クイズ100』
河村拓哉 篠原かをり
2023年7月7日発売
文藝春秋刊 1,430円(税込)

河村拓哉
1993年生まれ。東大発知識集団 QuizKnockの立ち上げから関わるメンバー。東京大学理学部卒業。東大クイズ研OB。Webメディア「QuizKnock」の初期から記事の執筆・編集なども行っている。日本テレビ『頭脳王』では問題作家、QuizKnock主催のクイズ大会「WHAT」では大会長を担当。日本漢字能力検定の準1級で高得点合格、成績優秀者として、協会賞(個人の部)を受賞。YouTubeチャンネル「QuizKnock」の登録者数は200万人を突破。

篠原かをり
1995年生まれ。動物作家。昆虫研究家(専門:昆虫産業)。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本大学大学院芸術学研究科博士後期課程 在籍中。著書に『LIFE―人間が知らない生き方』(文響社・麻生羽呂共著)、『フムフム、がってん!いきものビックリ仰天クイズ』『よし、わかった! いきものミステリークイズ』(共に、文藝春秋・田中チズコ共著)『ネズミのおしえ』(徳間書店)などがある。TBSテレビ『日立 世界ふしぎ発見!』のミステリーハンター、日本テレビ『嗚呼!!みんなの動物園』の動物調査員など、テレビやラジオでも活動。コラム連載や講演会も積極的に取り組んでいる。

(ウェルなわたし/ かわむら あみり)

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