小惑星「リュウグウ」のサンプルから太陽系誕生以前の物質を新たに発見

JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機「はやぶさ2」は、探査対象の小惑星「リュウグウ」で採取したサンプルを2020年12月に地球へ持ち帰ることに成功しました。現在、複数の国際研究チームがリュウグウのサンプルの分析を行っています。太陽系誕生時の情報をそのまま保持しているとされるリュウグウのサンプルからは、これまでに水、アミノ酸、貴ガス(希ガス)、炭酸水といった非常に様々な物質と、それらの起源を示す情報が見つかっています。

また、リュウグウは最初から現在の形で形成されたのではなく、天体同士の衝突で砕けた破片が集まることで形成されたことが分かっています。そのため、サイズがわずか数mmのサンプルでさえ、その中では太陽系の外側領域の低温環境で作られた鉱物と、太陽系の内側領域の非常に高温な環境で作られた鉱物とが隣同士で混在していることもあります。では、そのほかの物質にはどのようなものがあるのでしょうか?

【▲ 図1: 今回分析されたサンプルの1つ「A0040」(Credit: JAXA/ISAS)】

リュウグウのサンプルを研究しているAnn. N. Nguyen氏などの国際研究チームは、電界放射型走査電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光法を使用し、リュウグウのサンプル「C0002」と「A0040」を対象に分析を行いました。その結果、周辺の部分とは明らかに異なる性質を持つ粒子がサンプルの中から合計58個発見されました。

【▲ 図2: C0002の断面を反射電子によって撮影した画像 (BSE) と、それぞれの元素が豊富であるほど色が明るく見えるように着色処理した画像。線で囲まれた領域は、酸素 (O) 、マグネシウム (Mg) 、ケイ素 (Si) に乏しいため暗く表現されている一方で、鉄 (Fe) と硫黄 (S) は豊富なため明るく表現されている。なお、矢印で示された点は、水を含まないケイ酸塩鉱物である橄欖 (かんらん) 石であると見られる(Credit: Ann. N. Nguyen, et.al.)】

発見された粒子は周辺と比べて鉄と硫黄が多く、マグネシウム、ケイ素、酸素は乏しいという特徴がありました。分析を進めたところ、これらのほとんどが「炭化ケイ素」であり、一部は「石墨 (単体の炭素)」であることが判明しました。さらに、同位体組成 (※1) を調べたところ、炭素、水素、窒素の同位体が、太陽系の様々な物質とは異なる比率をしていることが判明しました。

※1…同じ元素の中でも、原子の重さが異なるものを同位体と呼びます。同位体はわずかながらも物理的・化学的な挙動が異なるため、たとえ同じ物質(鉱物など)でもそこに含まれている元素の同位体組成が異なる場合、それぞれ異なる環境を経験してきたことを示す1つの証拠になります。

炭化ケイ素や石墨は水が存在する環境では変質しやすい性質を持っていることから、これらを含む領域は水に乏しい環境で形成されたことが分かります。酸素に乏しく硫黄が豊富であることも、水や酸素に乏しかったことを示す別の角度からの証拠となります。

その一方で、リュウグウを構成する鉱物にはかつて液体の水によって変質したことを示す証拠が見つかっており、今回見つかった粒子の周辺部も水による変質が見つかっています。このことから、炭化ケイ素や石墨は周辺の鉱物とは異なる環境で生成された後に混合したことが分かります。同位体組成が太陽系の物質とは似ていないことも合わせて考えると、これらの粒子は太陽系の誕生以前から存在し、太陽系の材料となった物質の名残である「プレソーラー粒子」の可能性が極めて高いということになります。

太陽系には炭素を始めとして重い元素が豊富に存在します。これらは恒星の活動、超新星爆発、中性子星の衝突などで生み出されると考えられていますが、元素を生成する上でそれぞれの原因がどの程度関与していたのかはよく分かっていません。ただ、今回見つかったリュウグウのプレソーラー粒子は「漸近巨星分枝」 (※2) と呼ばれる段階に入った巨星で作られた可能性が高いことが分かりました。また、一部には超新星爆発を経験した痕跡も見つかっています。

※2…太陽と同じくらいの重さの恒星が、生涯の後半に経験すると考えられる恒星の進化の段階の1つ。核融合が恒星の中心部だけでなく周辺部でも起こるようになる。特に、炭素が生成される層があることが注目される。

リュウグウのサンプルから太陽系誕生以前の物質が発見されたのは今回が初めてではなく、2022年の初期分析の段階でもその候補が見つかっています。しかし、今回は多数のプレソーラー粒子を詳細に分析したことで、より多くの情報が判明したという違いがあります。これらの情報は、太陽系の材料となった物質がどのように生成されたのか、私たち人間をはじめとする生命の基盤である炭素がどこからやってきたのか、という謎を解明する大きな手がかりとなります。

リュウグウのサンプルは、太陽系の誕生直後だけでなく、太陽系以前(プレソーラー)の状況を知ることができる、まさに “玉手箱” です。リュウグウのサンプルを通して、これからも太陽系の謎について多くのことが明らかにされていくでしょう。

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Source

  • Ann. N. Nguyen, et.al. “Abundant presolar grains and primordial organics preserved in carbon-rich exogenous clasts in asteroid Ryugu”. (Science Advances)

文/彩恵りり

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