<社説>シェルターで予算案 避難施設より緊張緩和を

 住民の生命を守るふりをしながら、危機を高めているのではないか。防衛力増強とシェルター整備では島々の平和を守ることはできない。 政府は宮古島に住民用の避難シェルターを設置するための予算案を2024年度概算要求に盛り込む方向で調整を進めている。石垣、与那国にもシェルター整備の取り組みを進める。

 政府がシェルター整備を急ぐのは台湾有事を想定してのことだ。自衛隊の「南西シフト」の流れで3島とも駐屯地が配置され、敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有するミサイル配備の動きもある。当然、攻撃対象となる恐れがある。

 軍備増強によって攻撃対象となる危機を高めながらシェルターの整備を進めるという矛盾を島々に押しつけるものだ。急ぐべきは緊張緩和に向けた外交努力である。

 政府は昨年9月、先島地方にシェルター整備を打ち出した。12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」は、「南西地域を含む住民の迅速な避難」を実現するため「様々な種類の避難施設の確保」をうたう。しかし、避難施設では住民の生命は守れない。

 政府方針に呼応するように、先島からシェルターの整備を求める動きが相次いでいる。整備要請の背景には台湾有事に対する地域住民の危機感が存在していよう。地域財政の観点から、地域の公共施設とセットでシェルター整備を求める要請もあった。

 国の防衛施策に沿うような市町村行政の動きに対応したのであろう。松野博一官房長官が石垣市や与那国町を訪れ、3首長からシェルター整備の要請を受けた。しかし、松野官房長官の発言からは、沖縄の戦争被害に対する深い理解は感じられない。

 竹富町役場で会見した松野官房長官は南西諸島の自衛隊増強について「抑止力、対処力を高め、わが国への武力攻撃の可能性を低下させるためだ」と述べた。攻撃可能性を下げるのにシェルターが必要かという記者の問いに対し「全く次元が違う議論だ」と答え、並行してシェルター整備を進める考えを表明した。

 松野官房長官の言う「わが国」はどこを指すのか疑問だ。軍備を増強した地域は攻撃を受ける可能性も高まるのだ。「次元が違う」と言うが、攻撃目標となる自衛隊基地があるからシェルターを整備するのではないか。シェルターで救えない命があることは沖縄戦で経験済みである。

 79年前の1944年夏以降、日本軍が続々と沖縄の島々に配備され、住民は陣地構築に駆り出された。同時に空襲に備え、住民避難用の防空壕造りが家族単位や地域で進められたのである。沖縄戦ではいずれも住民の生命を守ることはできなかった。

 「皇土防衛」や「国体護持」の犠牲となった歴史を繰り返してはならない。防衛力増強とシェルター整備の強要はやめてほしい。

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