東京メトロの2つの新線プロジェクト 有楽町線と南北線の延伸計画が一歩前進【コラム】

2020年に登場したメトロ有楽町線・副都心線の新鋭17000系電車。延伸線開業時にも主力車両として活躍しているはずです(写真:鉄道チャンネル編集部)

前回の紹介が2022年8月なので、約1年ぶりになりますが、東京メトロ有楽町線と南北線の延伸プロジェクトが、また一歩前進しました。東京都と東京メトロは昨夏の最初の説明会に続き2023年6月、都市計画案と環境影響評価書案の説明会を新線ルートの沿線で開催しました。

延伸線は、有楽町線が豊洲で分岐し、東西線東陽町を経由して半蔵門線住吉にいたる延長4860メートル(約4.9キロ)、南北線が白金高輪で分岐して品川までの延長2520メートル(約2.5キロ)。構造は地下式、いわゆる地下鉄新線です。有楽町線は両端の豊洲、住吉のほか、途中3駅の新駅、南北線は分岐線の終点・品川に新駅を設けます。

本コラムは2つの新線の特徴をまとめるとともに、有楽町線については地元・江東区の動きをピックアップしました。有楽町線と南北線のプロフィールは、前回の「豊洲―住吉間、東京メトロの有楽町線延伸 実現に向けて、ついに動き出す 都とメトロが沿線の江東区で4回の説明会【コラム】」「東京メトロ南北線の延伸計画はどこまで進んだか【コラム】」で詳しくご報告させていただいています。本コラムとともにぜひご覧ください。

都市計画案と環境影響評価書案を公表

都とメトロの説明会は前回が「都市計画素案」、今回が「都市計画案」と「環境影響評価書案」で、いずれも大規模インフラプロジェクト着工までの過程にあります。都市計画(素)案は、前回と今回で大きな変更点はありません。

環境影響評価書案は工事中の騒音・振動や地盤(の変化)、水循環などのほか、史跡・文化財保全の考え方を示します、最近の鉄道工事に(鉄道以外のプロジェクトでも)大きな影響を与えることは、改めて指摘するまでもないでしょう。

都とメトロは、「低騒音・低振動の工法などで、周辺環境に与える影響を最小限にとどめる。工事中に埋蔵文化財が発見される可能性があるため、あらかじめ関係機関と協議し、必要な措置を講じる」とします。

開業は2030年代半ば!?

有楽町線の延伸線の線形はL形ならぬ“座いす形”と表現したくなります(資料:東京都)

有楽町線の延伸区間は豊洲5丁目から住吉2丁目までで、全区間が江東区です。駅は豊洲、枝川、東陽町、千石、住吉の5駅で、中間3駅はいずれも仮称。今後、東京メトロが正式な駅名を決めます。

枝川駅は枝川2丁目。枝川を出た分岐線は、東京メトロ深川車両基地の地下を抜けて東陽町に。東西線東陽町とは、ほぼ直角に交差します。東陽町―千石―住吉間は、東京都道・四ツ目通りの地下で、千石駅は千石2丁目です。

枝川駅の開設予定地。地上の三ツ目通りの上空を首都高速道路9号深川線が走ります。周辺には高層集合住宅のほか、東京の下町情緒を残す一角も(筆者撮影)
有楽町線の延伸線が地下で横切る東京メトロの深川車両基地。深川検車区と深川工場の総称で、東西線の車両が所属します(筆者撮影)

分岐線は住吉駅手前(清澄白河寄り)で半蔵門線に合流します。発着本数が増える住吉駅は、今後何らかの形で駅改良があるかもしれません。住吉駅は半蔵門線と都営地下鉄新宿線の接続駅で、新宿や一之江、本八幡から臨海部への移動が便利になります。

有楽町線の延伸線が千石―住吉間の地下でくぐる小名木川。隅田川と旧中川をつなぐ運河で、鉄道ファンには2000年に廃止されたJR貨物の総武線「小名木川駅」を思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません(筆者撮影)

着工や完成時期の資料記載は今回もありませんが、工期約10年とすれば、準備期間を考慮しても、2030年代半ばには分岐線が開業しそうです。

豊洲駅は1.4倍の規模に

新線建設で、大規模な駅改良が実施されるのが分岐線の起点の豊洲駅です。豊洲駅は2005年には1日利用客5万8000人で、東京メトロ全駅中で55位でしたが、2019年には22万8000人で、7位に躍進しています(東京メトロの駅数は180駅)。

駅改良では、新木場方面のホームを1面増設。エスカレーターやエレベーターも増設します。駅改良で豊洲駅の面積は、現在の約6400平方メートルから9200平方メートルへと、約1.4倍に拡大されます。

白銀高輪から〝Ωルート〟で品川へ

東京メトロ南北線の分岐線も、要約してご案内します。分岐線の白金高輪―品川間は約2.8キロ。白金高輪駅付近約0.3キロは、既設の南北線と同一ルートなので、鉄道新線建設に伴う都市計画変更区間は約2.5キロです。新駅の品川は仮称で、東京メトロが今後決定します。

分岐線の線形は、ギリシャ文字の「Ω形」のようです。有楽町線と同じく、白金高輪の分岐部分と品川駅部は開削工法、駅間はシールド工法を採用します。品川駅は、駅前を走る国道15号線の地下につくられます。

有楽町線に公共交通空白地帯解消の狙い

ここまで、有楽町線と南北線の延伸線を同一のトーンで紹介してきましたが、2つの新線には若干の違いがあります。

南北線延伸線の建設目的は、メトロ南北線と都営三田線、そして南北線と相互直通運転する埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線などから品川への直行誕生というほぼ一択です。これに対し、有楽町線の延伸線はメトロ半蔵門線や東武スカイツリーライン沿線から臨海部への短絡ルートという以外に。公共交通空白地帯解消につながります。

前にも紹介したように、有楽町線の延伸線は全線が江東区内。同区は、延伸線の早期着工を東京都などに働き掛けていました。

「多様なライフスタイルに合わせた生活環境」

江東区は2023年3月、「江東区地下鉄8号線沿線まちづくり構想」を策定。地下鉄8号線とは、有楽町線小竹向原―新木場間の国の都市交通審議会レベルの路線名です。

構想では、「多様なライフスタイルに合わせて、健康で快適に過ごせる生活環境」、「誰もが快適に移動できる利便性の高い交通環境の実現」などを地下鉄新線開業に向けた地域の整備指針とします。

両端の豊洲、住吉を含め延伸線5駅の未来図をみれば、豊洲は「水辺環境を生かし、持続的に発展する安全・安心な次世代都市」。有楽町線やゆりかもめとともに、新しい交通手段として舟運に注目。海陸の交通結節点を目指します。

有楽町線延伸線が開業すれば、陸海空の交通結節点に成長する可能性を持つ豊洲駅周辺の将来イメージ(資料:江東区地下鉄8号線沿線街づくり構想)

新駅の枝川は、「水辺に囲まれた回遊の拠点」が目標。延伸線開業を機に、商業機能の誘導や現在の落ち着いたまちとあらたなにぎわいの調和を志向します。

メトロ東西線と接続する東陽町は、「水辺と緑あふれるウォーカブルな交流都市」が指針。ウォーカブルは、「歩きたくなる街」といった意味合いです。

新駅の千石は、「みどりが連なり、下町人情あふれる安心快適な定住拠点」。下町情緒を残した暮らしやすい街づくりを進めます。

住吉はメトロ半蔵門線と有楽町線、都営新宿線の地下鉄3線が集積する交通の要衝。街の将来像も、ずばり「高い利便性の生活都市」です。

なお、東陽町の駅名は都の資料では仮称ですが、江東区の街づくり構想では正式な駅名とされています。

記事:上里夏生

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