和田琢磨,希代彩,桧山征翔出演 CEDAR Produce vol.10「逃亡」上演中 生と死、人はそれでも生きる

2000年にノーベル文学賞を受賞した作家・高行健(ガオ・シンジェン)の代表作『逃亡』が下北沢のOFF・OFFシアターで上演中だ。

華人で史上初めて2000年にノーベル文学賞を受賞した作家・高行健(ガオ・シンジェン)の代表作『逃亡』。
1989 年6月、中国北京で天安門事件が発生。民主化を求める学生のデモ隊を、軍隊が武力を行使し鎮圧したその凄惨な事件は、世界中を震撼。
作家・高行健は留学先のパリから事件を眺め、その年の10月に『逃亡』を執筆。
物語はとある共産国家での出来事。民主化を求め学生達が広場でデモを起こしていた。軍の弾圧によりデモ隊に銃声が響き、若者の革命への夢は暴力により打ち砕かれていく。青年(桧山征翔)と娘(希代彩)は銃弾を逃れ必死で逃走。逃げ込んだのは暗く湿った倉庫。そこにやってくる自称作家の中年(和田琢磨)。3人は死に直面しながら【生きている実感】とは何なのかをひたすらに考え求め続けていく。
高行健は人間の生命力の煌めく炎と、激動の時代の混乱をひるむことなく直視し、人間の究極的な尊厳に真っ向から向き合う。
登場人物は中年・娘・青年の3人。作家であり当局から目をつけられている中年役に2.5次元舞台からストレートプレイまで幅広く活躍する和田琢磨。デモ隊では拡声器で演説をしていた女優志望の娘役に映画『JKエレジー』で主演を務め、今注目を 集める女優希代彩。理想の革命と現実の狭間で葛藤する青年役にCEDARの桧山征翔。三人の織り成す激しくも切ない人間ドラマを小空間で。
演出は松森望宏が務める。

銃声の音、群衆の音、時折怒号のような音も聞こえる。若い男女が逃げ込んでくる。女性の方は服が血だらけ、命からがら逃げ込んできた様子。そこは倉庫、とりあえず、安全。そこにやってきたのは中年の男、自称作家。この二人とは対照的に落ち着いているように見える。セットの倉庫はリアル、というのではなく、白い、客席から観ると渦巻く洞窟にも見えるし、巻貝の中?のようにも見える。「私、生きてる??」「生きてるよ」生と死、紙一重で助かった、生きてること自体がミラクルな状況。女性の方はまだ恐怖に囚われてヒステリックに叫ぶ。そして3人目、中年の男、落ち着いているように見える。どこか達観しているかのようだが、そう見せているのかもしれない。

この『密室』、外に出れば、死ぬかもしれないという状況での会話。「偶然、通りかかっただけ」と言い「運命」ともいう中年の男。生きるも死ぬもある意味、『運命』、そして銃弾を逃れてやってきたことも『運命』。たった3人、タイトルの『逃亡』、この3人はもちろん、我々は何かから常に『逃亡』しているかもしれない。女性は「お芝居がしたい」と言い出し、ある戯曲の一節(「ひばり」※)を語り始める。中年の男も一緒になって語り始める。

その瞬間、この閉塞的な状況から『逃亡』しているのかもしれない。それぞれの性格、考えがなんとなく見えてくる。若い男性と若い女性、二人は恋人同士のように見えるし、そうではなく、思想に共鳴した同志なのかもしれない。現代史で習ったかと思うが、20世紀の中国は激動の時代だ。清朝が倒れ、革命が起き、中華民国、中国共産党、日中戦争、そして文化大革命、過激な紅衛兵、そしてこの物語の背景となった1989年に起こった天安門事件。市民たちに無差別発砲、これが世界中に生中継された。生きること、生きているだけでも大変。この3人が紡ぎ出すドラマは心が痛くなり、熱く、彼らの間に諍いも起きる、いっときも休まらない、ここがわかったら踏み込まれて銃殺されるかもしれない、女性が取り乱し、大声を張り上げそうになり、男性が「静かに!」と口を押さえるシーンもあるが、死がすぐそこにあるからだ。

そんな状況でも人としての尊厳を失いたくない、という彼らの思い、それは自覚、無自覚に関係なく、人として生きることは忘れないが、時には理性よりも欲望が勝る瞬間もある。だが、それもまた人間、濃密な空間で密度の濃い芝居、上演時間はおおよそ80分程度。暴動の音がどこか切なく、哀しい。人類の歴史は繰り返す、争い、対立、殺戮、それでも生きる。

※「ひばり」ジャン・アヌイ作。英仏百年戦争の末期に、祖国フランスを救ったものの火刑台に果てたジャンヌ・ダルクを描いた作品。日本でも劇団四季を始め、数多く上演されている作品。

概要
CEDAR Produce vol.10「逃亡」
日程・会場:2023年7月26日(水)~30日(日) OFF・OFFシアター(下北沢) ※上演時間 約90分
作:高行健 (ガオ・シンジェン Gao Xingjian)
翻訳:瀬戸宏
演出:松森望宏
出演:和田琢磨 希代彩 桧山征翔
スタッフ:
美術:いとうすずらん 音楽・音響:西川裕一 照明:南雲舞子 衣裳:堀井香苗
演出助手:石川大輔 票券:西野優希 舞台監督:小川陽子/杉山小夜
宣伝美術:飛田庸徳
企画・制作:一般社団法人CEDAR

CEDAR公式サイト:https://www.cedar-produce.com

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