<社説>2023年版防衛白書 住民を脅かす軍事強化だ

 政府は2023年版防衛白書を決定した。安保3文書策定後初めての防衛白書で、その内容を色濃く反映した。在沖海兵隊改編を盛り込み、南西諸島の自衛隊増強を明記するなど、沖縄の軍備強化方針が改めて鮮明となった。 明らかに沖縄の基地負担軽減に逆行する。国土面積のわずか約0.6%の沖縄に在日米軍専用施設の70.3%が集中する面積的な負担に限らない。日米の軍事演習が激化し、民間の空港や港湾にまで軍事利用を拡大する内容である。

 この基地負担は事件事故や騒音など平時の負担に加え、有事には沖縄を戦場にし、多くの住民の命を奪う恐れを増す軍事強化だ。断固拒否する。

 今回の防衛白書や、これまでの政府方針をみると、住民のことを真剣に考えているとは思えない。安保3文書や防衛白書で示した通り、県内の民間施設では既に有事さながらの訓練が実施されている。

 昨年11月に県内で展開された日米共同統合演習「キーン・ソード23」では、民間の中城湾港で大規模な人員や車両を輸送した。与那国島では与那国空港に陸自最新鋭の装甲装輪車「16式機動戦闘車(MCV)」を運び込み、県内で初めて一般の道路を走行させた。

 こうした演習は、沖縄が再び戦場にされる危険性へ強い不安を県民に抱かせている。

 懸念に配慮してか、今回の防衛白書では国民保護と防衛省の関わりについて初めて取り上げた。主たる任務は「武力攻撃を排除し、国民への被害を局限化する」とし、警察や消防と連携し国民保護に携わると記した。那覇に拠点を置く陸上自衛隊の第15旅団を師団化することも国民保護の実効性向上につながるとした。

 それなら住民が避難するシェルターは要らないはずだ。だが、自衛隊増強は抑止力を高め「わが国への武力攻撃の可能性を低下させる」と述べた松野博一官房長官は、攻撃可能性を下げるのにシェルターが必要かとの記者の質問に「全く次元が違う議論だ」と答えた。増強と並行してシェルター整備を進める考えだ。

 宮古島、石垣島では自衛隊のミサイル部隊の配備が進む。敵基地攻撃能力(反撃能力)行使の拠点となる可能性がある。南西諸島が「国防の島」どころか、「攻撃の島」に変貌することが懸念される。

 多くの県民は軍備増強と国民保護の矛盾に気付いている。「武力攻撃排除」の任務のために空港、港湾の民間施設を占有すれば、県民はどこから県外へ逃げるのか。防衛省・自衛隊は住民避難に優先して、その任務を遂行するはずだ。ましてやシェルターで住民を守れないことは壕を構築しても多くの犠牲を出した沖縄戦で証明されている。

 住民を守るためには有事を未然に防ぐ以外にない。緊張緩和を優先すべきである。沖縄を武力衝突の場にしないためにも日本政府は有事が起きないよう、紛争の火種を除去する外交を最重視すべきだ。

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