GTR3台所有の「ディストピアSF」監督が『グランツーリスモ』を映画化したきっかけとは? 超人気レースゲーム映画誕生の軌跡を過去作から辿る

『グランツーリスモ』

なぜディストピアSFの監督が『グランツーリスモ』を撮ったのか?

全世界でシリーズ累計9000万本を売り上げた日本発のゲームを題材に、ゲームプレイヤーが実際にプロレーサーに転身した奇跡の実話を描いたハリウッド映画『グランツーリスモ』が、2023年9月15日(金)より日本公開。本作の監督を務めたのは、『第9地区』や『チャッピー』などのダークなSF映画でお馴染みのニール・ブロムカンプ監督だ。

作品毎にセンセーショナルな映像で観客たちを魅了してきたブロムカンプ監督が、カーレース映画を手掛けるのは初めてのこと。公開中の予告映像からも、これまでのブロムカンプ作品とは雰囲気が大きく異なることがわかるだろう。

そこで、ブロムカンプ監督の過去代表作をざっと振り返りながら、『グランツーリスモ』を手掛けたきっかけにも注目しつつ作品の魅力に迫ってみたい。

エビ型エイリアンがキモかわいい! “らしさ”の詰まった初SF長編『第9地区』

ニール・ブロムカンプ監督と聞いて、多くの映画ファンの思い浮かべる作品が『第9地区』(2009年)だろう。公開当時は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン製作総指揮で話題になっていたが、ド新人だったブロムカンプ監督の名を世に知らしめる結果に。無名監督の初長編作にも関わらず世界各国の映画賞を受賞した本作は、第82回アカデミー賞で作品賞ほか3部門にノミネートという高い評価を得ている。

そんな本作の魅力といえば、昆虫系エイリアンの禍々しさとリアルな生活感、ギミック感あふれるメカメカしいSFデザイン。そして遺伝子の暴走によって徐々にエイリアン化していく人間の恐怖と哀しさ、可笑しみなど、その後のブロムカンプ路線を決定づける近未来SF大作となっている。

マット・デイモンが貧富の差に苦しむ民衆たちを救うディストピアSF『エリジウム』

『エリジウム』(2013年)の舞台は、富裕層と貧民層の住環境がスペースコロニー〈エリジウム〉と地球に二分化された近未来。地球に住む平凡な青年マックス(マット・デイモン)は、とある事故で余命僅か5日と宣告されてしまう。はじめは自身の病を治すための行動を起こすが、やがて貧富の差に苦しむ民衆を救うべく決死のミッションに挑むことになる。

キャストにはマット・デイモンのほか、宇宙ステーションに暮らす富裕層をオスカー女優のジョディ・フォスターが演じており、なかなか珍しい悪役フォスターのレアな演技を観ることができる。また、本作では『第9地区』で主人公を演じていたシャールト・コプリーが冷酷なヴィランとして登場。日本刀や爆発する手裏剣などを操る、ブロムカンプ監督のオタク心が詰まったキャラクター像にも要注目だ。

ストリートギャングに育てられたロボットの成長物語『チャッピー』

長編映画3作目の『チャッピー』(2015年)は、人工知能を搭載したロボットであるチャッピーが、残り5日間分のエネルギー残量しかない中で、ストリートギャングや開発者の人間たちとのふれあいの中で成長していく姿を描いたSFブラック・コメディ。近未来SFの世界観を、今も実際に起こっているリアルな実情とミックスして描く監督の技量が際立つ作品となった。

『X-MEN』シリーズのウルヴァリン役でお馴染みのヒュー・ジャックマンが敵役を、さらに『エイリアン』シリーズの主人公リプリーを演じたシガニ―・ウィーバーが軍事ロボットを開発する企業経営者を演じており、往年のSF・アメコミファンにとってはたまらないキャスティングとなっている。また、シャールト・コプリーは本作でも主人公チャッピーの声とモーションキャプチャを担当。このようにブロムカンプ監督作は、たびたび他作品への出演で知られるキャストが参加することも大きな魅力の一つだ。

映画以外のドラマやショートフィルム作品にも注目

実はブロムカンプ監督は、長編映画以外にもドラマや短編作品に携わっている。2000年10月~2002年までテレビ放送されたジェシカ・アルバ主演のダークファンタジードラマ『ダークエンジェル』ではリードアニメーターを務めており、VFX畑出身ならではの多才ぶりを披露している。

また、2016年発表の〈BMW〉のショートフィルム『THE ESCAPE』はド派手なカーアクションを盛り込んだスリリングな作品になっており、『グランツーリスモ』の予習としても最適。主人公のドライバー役をクライヴ・オーウェンが務めるほか、ダコタ・ファニングやジョン・バーンサル、ヴェラ・ファーミガなど錚々たる面々が出演している。なお、過去のBMWショートフィルムシリーズはデヴィッド・フィンチャーやリドリー・スコットなどが監督を務めており、この作品によって名だたる名監督たちと肩を並べることとなった。

日本発の人気ゲームがハリウッドで映画化!『グランツーリスモ』

そんなブロムカンプ監督の最新作『グランツーリスモ』が、2023年9月15日(金)より日本全国で公開。もちろん映画化のベースとなっているのは、全世界でシリーズ累計9,000万本(※)を売り上げているリアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」シリーズだ。リアルなクルマの挙動をそのまま再現した本シリーズは「オリンピックEスポーツシリーズ」や「国体・文化プログラム」の競技種目にも選ばれている。

そんなゲームのトッププレイヤーたちを世界中から招集し、本物のカーレースに出場するプロレーサーに育てあげるべく競い合わせ選抜するプログラム〈GTアカデミー〉。本作は、そこで繰り広げられる想像を絶するトレーニングやアクシデントの数々をくぐり抜けた主人公のヤンが、実際にプロレーサーとしてデビューするまでの衝撃の実話を描いた実録系カーレース映画だ。

キャストには、GTアカデミーを発足したダニー役にオーランド・ブルーム、レーサーを目指すトッププレイヤーたちの指導官ジャック役にデヴィッド・ハーバー、主人公ヤン・マーデンボロー役に『ミッドサマー』のアーチー・マデクウィらが名を連ねている。

これまで手掛けてきた作品とは大きく方向性の異なる本作を手掛けたきっかけについて、機械学、工学、芸術、そしてデザインの融合である〈車〉が昔から大好きだったというブロムカンプ監督は、こう語る。

私がソニーに売りこんだディストピアSFの脚本がきっかけなんです。プリプロダクションが進むにつれて何かに取り組みたいという気持ちが強くなっていた私に、「グランツーリスモ」はどうかと持ち掛けられたんです。

最初は、「ドライビングシミュレーターをどうやって映画にするんだ」と思いました。しかし、脚本を読み、個人的にも日産のR35GTRを3台所有していることもあって(日産とNISMOが大好きなんです)、車好きとしてすぐにこのプロジェクトに惹かれました。

また、本作に取り組むことを決めたもう一つの理由として、自身のキャリアで経験してこなかった新しい試みについての喜びを明かす。

私の作品はみなさんもご存じの通り、もっとダークでディストピアを描いたものが多いのですが、この映画はこれまでとは違った形で観客の感情を揺さぶることができると感じました。観客が高揚して劇場を後にするような映画を監督することなど、これまで考えもしなかった私にとって、この映画を監督することは本当に魅力的だったのです。

『グランツーリスモ』は2023年9月15日(金)より全国公開

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