汗と涙の “ハレ舞台” 「神楽甲子園」の熱い夏 地域の伝統を未来へ  高校生の青春

地域の伝統芸能・神楽に取り組む全国の高校生にとって、“ハレの舞台” となる「神楽甲子園」―。コロナ禍の期間を除いて毎年、開催されていて、ことしで12回目です。神楽と向き合う高校生たちを取材しました。

広島・安芸高田市にある吉田高校です。この日は、神楽部が神楽甲子園に向けた練習です。

披露するのは、地元・安芸高田市の戦国武将、毛利元就が、山口の陶晴賢を厳島で討ち取った「厳島合戦」です。

部長の 乗田佳穂 さんです。乗田さんには、甲子園で必ず、厳島合戦を披露したいという強い思いがありました。

乗田佳穂 さん
「厳島合戦をやると決めた前は全然違う演目にしていたのですが、どうしてもわたしが厳島をやりたいという気持ちがあって」

部員を説得し、練習を始めましたが、舞いの動きや演出の方法で意見が何度も対立したといいます。

乗田佳穂 さん
「ここは違う、あそこは違うと言い合いながら少しずつ1歩前進していくという形でやっていたので、本当にけんかばっかりですね」

なかなか意見がまとまらず、涙を流すことは何度もありました。

毛利元就役を演じる 境江銀成 さんです。

毛利元就役 境江銀成 さん
「このままじゃ練習不足というか、見栄えがまだ少し悪いので。細かいところから体力をつけて、ビシっと最後まで舞えるようにやっていけたら」

細かい角度やタイミングがそろうように1つひとつ確認します。さらに陶晴賢役の 島田颯斗 さんは、セリフの表現や表情にこだわります。

陶晴賢役 島田颯斗 くん
「口上の強弱や抑揚・間をどうしようか。このときの陶はどういう気持ちだったんだろうなと考えながら。ここの唄のときは悲しくてやっているのか、くやしくて唄っているのかなって考えて…」

高校3年生のとき、コロナ禍で甲子園に出場できなかったOBの 佐々木健 さんも練習を見守ります。

神楽部部長 乗田佳穂 さん
「みんなががんばってくれるので、わたしもがんばろうと。甲子園もみんなで楽しく笑顔で終わればいいなと、それを信じて日々、練習しています」

神楽甲子園、初日―。会場には朝から多くの人が詰めかけました。

岩手県に古くから伝わる「葛巻神楽」です。披露しているのは、新型コロナの影響で4年ぶりの参加となった岩手県の葛巻高校。甲子園に参加するのも、広島に来るのも、初めてです。

岩手・葛巻高校 神楽部部長 田澤和珠 さん
「ホテルの近くのお好み焼きを食べました。おいしかったです」

そんな生徒たちには心配なことがあります。

田澤和珠 さん
「岩手県は、やっぱり(広島より)全然涼しいので、葛巻の夏とは比べものにならないくらい暑いです」

会場周辺の気温は33℃。慣れない暑さの中、最後まで舞い切れのるか―。緊張と不安を感じながらも4年ぶりの参加に期待が高まります。

岩手・葛巻高校 榎本ゆう花 さん
「自分たちが出られることが当たり前ではないと感じている。そのありがたみを演舞したい」

「がんばるぞ!」「おおー!」

東北の「山状神楽」の1つ、葛巻神楽―。激しい舞いが特徴です。演目「鶏舞」は、おんどりとめんどりが対になって、しなやかに舞うことで夫婦円満を願います。

さらに扇や手綱を使って側転をするダイナミックな舞いで無病息災や平和を願う「権現舞」。

クライマックスは、獅子の「頭かじり」です。厄を払うといわれ、観客の中にはこれを目当てに甲子園に来たという人も…。大人も子どもも “頭かじり” をしてもらおうと一斉に手を挙げ、舞台は盛り上がりを見せました。

岩手・葛巻高校 神楽部部長 田澤和珠 さん
「他県の人に見てもらえるのは貴重な機会で、準備のときに声をかけてもらって、楽しみにしてもらっていた方々に見てもらえてうれしい」

甲子園、2日目…。トリを飾るのは、吉田高校(広島市・安芸高田市)です。

吉田高校 神楽部部長 乗田佳穂 さん
「緊張してますね。わたし、きのうも眠れなかったので緊張しています。みんながいるのと、きのうもがんばれと応援されてきたので、がんばっていこうと思う」

本番当日を迎えて部員にも緊張が走ります。

吉田高校 陶晴賢役 島田颯斗 くん
「本番前になると、おなかをくだすんですよ。めちゃ緊張します。トイレにずっとこもってますもん」

あわただしく着替えやメイクの仕上げをしていると、「厳島合戦」の台本作成を企画した 下岡佑也 さんも応援に駆けつけました。

『厳島合戦』を企画 下岡佑也 さん
「部長さんに『(神楽甲子園で)厳島合戦を』と言ってもらえたのは、純粋にうれしい。元就と神楽を好きないろんな人に興味をもってもらって、安芸高田に来てもらうきかっけになればと思う」

毛利元就が安芸高田市の郡山城に入城して500年になることし…。毛利元就が、強大な力を誇る陶晴賢を倒そうと厳島で奇襲をかけます。

毛利元就と陶晴賢が激しくぶつかり合う「立ち合い」のシーン…。激しい立ち合い激闘の末、負けを覚悟した陶晴賢が自害するところまでを描いています。

約30分間にわたる演目をみごと、やり切りました。そして、迎えた閉会式…。あこがれの舞台で優秀賞にも選ばれました。大きな達成感とともに涙がこぼれます。

吉田高校 神楽部部長 乗田佳穂 さん
「ずっと涙が止まらないので、わたし。『みんなで楽しもうよ』と話して、みんなでやってきた成果が出たと思うので、やってきてよかった」

舞台で味わった感覚は忘れられません。

陶晴賢役 島田颯斗 さん
「前に足をあげて、髪をバッとやった瞬間に『おお』と拍手が湧いて、ああ、気持ちいい。このためだけに神楽やっとると思って」

神楽部OB・佐々木さんは…

神楽部OB 佐々木健 さん
「お客さんの前で神楽をできることとか、応援してもらえることが自分たちの代は当たり前ではなかったので、くやしくは思うけれど、がんばってくれた後輩がいるので誇らしく思います」

陶晴賢役 島田颯斗 さん
「このチームでできたのがよかった。みんなのおかげだと思っている。感謝したい」

仲間とともに全力で走りぬけた「神楽甲子園」―。これから、出場した高校生たちが、それぞれの地域で神楽を盛り上げ、支えていきます。

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