<書評>『うちなー世 書を捨て、まちに出た高校生たち 復帰51年目の黙示録』 激動の沖縄 正面から見つめる

 あの頃の高校生たちのまなざしはなぜあれほど鋭く、厳しく、たたずまいは毅然(きぜん)としているのだろうか。1969年から復帰の年72年まで沖縄に住み、3万枚もの写真を撮った著者の記録を見て直感的に思った。

 女子高生刺傷事件抗議デモの前原高生、紙幅の多くを割いている読谷高校では、青空校庭討論会、佐藤訪米抗議大会の印象的な2人の女生徒の視線、琉球政府文教局の政治的活動禁止通達に反発した生徒たちの「秘密の会合」。「通達」をめぐる首里高校の全校公開討論集会の写真は壮観である。高校生たちが正面から見つめたのは復帰前の激動の沖縄だった。

 本書はNHK「ETV特集」で放送した「沖縄が燃えた夜~コザ暴動五〇年目の告白~」「君が見つめたあの日のあとに~高校生の沖縄復帰五〇年~」をベースに書籍化したものだ。評者は放送時に見たが、数多(あまた)の関連番組のなかではいずれも白眉の作品であった。

 本書では、限られた時間の番組で伝えきれなかった関係者の詳細な証言が採録されているので、番組を見た人にとっても新たな付加情報となっている。

 3万枚の写真を基にした沖縄再訪の旅は第一章から第十章(+終章)で構成され、72年の復帰に向かうなかで、嘉手納基地のB52墜落・爆発、毒ガス移送、コザ暴動、多発する米兵事件などの時代状況に身を置いた高校生たちが、積極的に「まち」へと出て行った背景が読み取れる。

 終章では現役読谷高生が思い描く50年後の「沖縄」が提示されるが、彼らの時代の沖縄が不条理の状況から解放されていることを願わずにはいられない。

 かつて団塊世代の評者が青春時代、寺山修司(歌人・劇作家)は著書『書を捨てよ、町へ出よう』で若者たちに呼びかけた。学生運動が盛んな頃で、「書物から学ぶ学問なんか捨てて、幅広く社会の実相をみろ」との意味が込められていた。

 それに倣って現代の高校生、若者たちに一言――スマホを置き、本書を読み、町へも出よう!

 (大濱聡・元NHKディレクター&プロデューサー)
 よしおか・こう 1944年長野県生まれ、TVドキュメンタリー・ディレクター、ジャーナリスト。映像では「戦場写真が語る沖縄戦」など、著書では「写真集『沖縄69~70』」など多数。

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