茨城県はホテルや教育施設など県有施設の民間売却を進めている。人口減少などで利用の少ない施設を民間ノウハウを生かした経営に転換し、将来的に膨らむ財政負担の軽減を図る狙い。一方、相次ぐ売却方針に県議会から反発の声も挙がる。31日に開く臨時会で調査特別委員会を設置し、施設の在り方などが審議される。
■今も残る負債
県は6月の県議会定例会で、鹿島セントラルホテル(神栖市)の民間売却方針を報告した。同ホテル本館と新館、温浴施設と土地について、早ければ来春をめどに新法人による運営を目指す。
県が出資する第三セクター「鹿島都市開発」が運営する同ホテルは、長く経営改善が大きな課題となっている。建設費171億円をかけた新館が2000年に開業。これに伴う負債は、県の無利子貸付分115億円のうち約60億円が今も残り、毎年3億8千万円を償還している。
特に新型コロナウイルス感染拡大の影響で、経営状況は厳しさを増した。鹿島都市開発の20~22年度収支では、ホテル部門の経常利益が3年連続赤字。22年度の客室稼働率も、目標の45%に対し実績は42.2%。経費削減などを進めてきたものの、「抜本的な改善に至っていない」(県の担当者)のが実情だ。
■管理費3兆円
県議会定例会では、同ホテル以外にも県有施設の売却や事業廃止の報告が相次いだ。
県立青少年教育施設のうち、白浜少年自然の家(行方市)と里美野外活動センター(常陸太田市)の2施設の売却に加え、県立青少年会館内の宿泊施設「偕楽園ユースホステル」(水戸市)の廃止方針も明らかになった。
今年3月には茨城港大洗港区のレジャー船舶などの保管施設「大洗マリーナ」を売却し、6月から民間企業による運営が始まった。昨年11月には水戸市大町の県公館跡地について、有効活用策が見いだせないとの判断で売却を決定、24年度に食品スーパーが開業する見通し。
県有施設の売却には、膨れ上がる将来の財政負担が背景にある。施設の維持管理費について、大井川和彦知事はこれまでの定例記者会見で「放っておくと30年間で3兆円の費用負担が必要となる。長寿命化工事をしても2兆円ほどかかる」との試算を示し、「聖域を設けず」議論する必要性を訴える。
■「議論足りぬ」
県議会の一部からは、相次ぐ民間売却に対する反発の声も挙がる。「地元への丁寧な説明が必要」「事前の説明がなく、議会との審議が不十分」などと、県執行部との議論を求める。
最大会派のいばらき自民党は「多くの議員が参加して広く議論したい」として、調査特別委員会の設置を石井邦一議長に要請。こうした動きを受け、県議会は31日に臨時会を開き、「県有施設・県出資団体等調査特別委員会」の設置を決める見通し。
特別委では県有施設の設置目的や利用状況を再確認するほか、売却処分の妥当性や資産活用の視点を含む指定管理の在り方などの審議を進める。県が出資する33団体を対象に、経営状況や経営改善の方策など、今後の方向性も探る予定だ。
【県が売却などを決めた主な施設】
■県公館跡地(水戸市)
2月に民間売却。24年にも食品スーパーが開業予定
■大洗マリーナ(大洗町)
3月に民間売却。大型ヨットなど観光誘客を推進
■洞峰公園(つくば市)
早ければ10月にもつくば市へ無償譲渡
■白浜少年自然の家(行方市)
来春にも民間売却方針
■偕楽園ユースホステル(水戸市)
来年3月で事業廃止方針
■鹿島セントラルホテル(神栖市)
来年4月にも民間譲渡方針
■里見野外活動センター(常陸太田市)
来年4月にも民間譲渡方針