<社説>最低賃金千円超 地域間格差の解消を急げ

 厚生労働省の中央最低賃金審議会は、2023年度の最低賃金を全国平均で時給1002円に引き上げる目安額をまとめた。現在の961円から41円の増額で、1000円を超えるのは初めてだ。増加額も過去最大幅となる。 物価高騰を反映したほか、今春闘で高い賃上げ回答が相次いだことを考慮した結果となった。

 労働者の収入が一定程度は底上げされる見通しだが、物価高騰に追いつくには十分とは言えない。物価高騰や光熱費増は企業の経営も圧迫しており、政府には賃上げできる環境整備に向けた政策が求められる。地域間格差も残ったままで、その解決が急務だ。

 6月の全国消費者物価指数は前年同月比3.3%の上昇となり、前年同月を上回るのは22カ月連続だ。帝国データバンクの7月の発表によると、23年に値上げしたか、10月までに値上げを予定する食品は3万9品目に達した。これは22年の2万5768品目を超える水準だ。

 一方、物価変動を加味した23年5月の実質賃金は前年同月比1.2%減と、14カ月連続でマイナスとなった。物価高騰が労働者の生活を直撃していると言える。

 財務省の発表では、22年度の国の税収は71兆1373億円と、3年連続で過去最高となった。消費税収が最高となったほか、コロナ禍からの業績回復も要因だ。

 23年春闘では大企業を中心に賃上げの動きが見られた。日本商工会議所の調査でも、全国の中小企業58%が23年度に賃上げするとしている。

 物価と賃金の好循環を生み出すためには、実質賃金の引き上げが重要だ。企業にとって賃上げはコスト増にもつながるが、業績を向上・安定させ、賃上げの原資を確保するための政府の支援が必要だ。

 大幅な引き上げとなった今回の目安額だが、地域間格差の課題は依然として残る。

 審議会では、経済状況に応じ都道府県に区分を設けて、目安額を示している。格差解消を目的に、これまでのA~Dの4区分から、今回からA~Cの3区分に再編した。

 今回示された区分ごとの目安額は、東京などAランク(6都府県)が41円、福岡などBランク(28道府県)が40円、沖縄などCランク(13県)は39円。目安額通りに最低賃金が改定されれば、最高は東京の1113円、最低は沖縄などの892円で、その差は221円となる。これは4区分だった22年度の219円よりも格差が拡大している。

 深刻な人手不足の中、地域間の賃金格差を放置すれば、賃金が高い大都市圏への人材流出が進む恐れがある。人材流出は地方経済の衰退を招き、地方の人口減少や都市部の一極集中に拍車をかける。

 地域間格差の解消には、都道府県の区分設定をやめ、全国一律の引き上げ目安額を提示するなど思い切った改革も検討する時期に来ている。

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