国産チーズ10年で最多 輸入との価格差縮小 工房増加、大手も注力

国産ナチュラルチーズ(NC)の生産が増加している。農水省によると、2022年度は前年度比1・8%増の4・6万トン(速報値)が生産され、過去10年の最多を更新。輸入品が価格高騰で減少する一方、国内各地の工房や大手メーカーが日本人の好みに合わせた商品開発を強化。価格差の縮小も追い風となり、国産がシェアを伸ばした。

国産NCの生産量が前年を上回るのは3年連続。新型コロナウイルス下でチーズ全体の消費量は同5・3%減の33・6万トンと、20年度以降減少が続く。

一方、国産は、地元産の原料や素材を生かしたチーズ開発を手がける中小規模の工房数の増加や、家庭需要の高まりを商機と捉えた大手メーカーによる新商品の投入で市場が活性化している。

「生乳の需給改善に向け、伸びしろがあるチーズの販売に力を入れていく」(大手乳業メーカー幹部)など、乳製品全体の消費が落ち込む中、需要のあるチーズの生産を増やす動きもあった。

国際相場の上昇や円安を受け、輸入NCの数量は前年度比7・1%減の25・7万トンと大きく減った。「価格高騰に加え、物価高の影響もあり、売り上げは厳しい状況」(輸入業者)という。

国産の増産と輸入の減少で、22年度のチーズ総消費量(NCベース)に占める国産のシェアは14・9%と、前年から1・2ポイント拡大。プロセスチーズ原料用では同23・6%と、4ポイント拡大した。

ただ、7割以上は輸入品が占めており、生乳の需給改善に向けても、消費の伸びしろがあるチーズでの輸入品からのシェア奪還が鍵を握る。

『持続的な増産へ 仕組みづくりを』

酪農政策に詳しい日本農業研究所の矢坂雅充氏の話

チーズを巡っては、円安などによる価格差の縮小で、輸入から国産への置き換えがしやすい状況が続いている。これを好機と捉え、チーズ向け生乳への直接支払いなど、国は国産の持続的な増産に向けた仕組みづくりを検討すべきだ。需要のあるチーズの国産シェアを伸ばすことで生乳の需要が拡大すれば、需給バランスが安定し、価格転嫁の議論を進めやすい環境を整えることにもつながる。 斯波希

© 株式会社日本農業新聞