裁判所が泣いた…実際の事件が基の舞台「生きる」 友人母の認知症で衝撃「考えるきっかけに」 上尾で9月

舞台「生きる」の一場面

 介護に疲れた息子が認知症の母の命を奪った実際の事件を基にした舞台「生きる」が9月3日、埼玉県上尾市文化センターで上演される。劇団ZANGEによる市制施行65周年記念公演。原案、主演、プロデュースを務める同劇団代表のブッチー武者さん(71)は「ヤングケアラーや介護ど真ん中の人などたくさんの人に見てもらいたい」と呼びかける

■認知症を身近に

 武者さんは、22歳の時にNHKの「お笑いオンステージ」のオーディションに合格、村人の役でデビューした。コントや喜劇を中心に活動していた1980年代に、バラエティー番組「オレたちひょうきん族」の懺悔(ざんげ)の神様として一躍人気者に。その後は役者としてドラマや舞台に出演する傍ら、アフガニスタンの兵士に「お笑い慰問」などをしてきた。

 2013年ごろ、武者さんは仲間の母親が認知症になったことで、初めて認知症を身近に感じたという。「健康な時を知っていただけに、びっくりした。私の友人である息子のことが分からない様子を見て、衝撃を受けた」

■風化させてはいけない

 認知症について調べる中で、06年に京都府で起きた「京都伏見介護殺人事件」を知った。認知症の母親と心中未遂を起こした息子が懲役2年6月、執行猶予3年の判決を受けた「裁判所が泣いた介護殺人」と呼ばれる悲しい事件で、孤独な介護と貧困という社会問題を表面化させ、当時の介護制度や生活保護制度などにも一石を投じた。

 「これを風化させてはいけない」。武者さんは事件を基に舞台化を考え、友人の山口弘和さん(コント山口君と武田君)に脚本を依頼、さらに劇団ZANGEを旗揚げした。そして約1年後、初演が実現した。

■古典でいい

 14年、東京の俳優座劇場で上演した「生きる」は反響を呼び、その後年2回のペースで東京都内、長野県、茨城県などで公演。県内でも18年に所沢市と越谷市、19年に草加市、20年にさいたま市で上演されている。今回で21回目。「事件から十数年、初演からも10年近くたって、社会情勢も変わってきた。でも介護者の孤独、悩みは今も同じ。だから舞台は古典でいい」。武者さんは言う。「芝居で終わりではなく、その後どうするかということを皆で考えていくきっかけになれば」

 厚生労働省による21年度の調査結果によると、市町村が把握した養護者による被養護者の殺人は13人、養護者のネグレクトによる被養護者の致死が9人、養護者の虐待による被養護者の致死が4人、心中が2人だった。

■舞台「生きる」(BMCエンタープライズ主催、あげお文化創造パートナーズ共催、県、上尾市、埼玉新聞社など後援)

 9月3日、午後2時開演(開場午後0時半、あいさつ1時半から)、上尾市文化センター。原案・主演=ブッチー武者。特別出演=浜田光夫。特別ゲスト新田恵利。全席自由席6千円。チケットの購入、問い合わせはBMCエンタープライズ(電話03.6903.7895)か同センター窓口へ。

「介護の問題は自分たちの生活に関わる問題」と話すブッチー武者さん=上尾市文化センター

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