「赤字法人率」 過去最小の65.3% コロナ関連支援が利益押し上げに寄与

~ 2023年公表の都道府県別「赤字法人率」調査 ~

国税庁が2023年に公表した「国税庁統計法人税表」によると、2021年度の赤字法人(欠損法人)は187万7,957社だった。普通法人(287万3,908社)の赤字法人率は65.3%で、年度ごとの集計に変更された2007年度以降の15年間で最小を更新した。前年となる2020年度(66.1%)は、コロナ禍で10年ぶりに赤字法人率が上昇したが、2021年度は0.8ポイント改善した。

都道府県別の赤字法人率は、最大が徳島県の70.4%(前年度71.9%)で、2007年度以降、15年連続のワースト。最も低かった佐賀県は61.5%(同61.9%)で、過去15年で初の最小となった。2019年度まで4年連続で最小だった沖縄県は、コロナ禍で観光業や建設業など主要産業が打撃を受け、2年連続で都道府県別の最大の悪化幅をみせ27位まで落ち込んだ。

産業別では、建設業(56.8→59.5%)の赤字法人率が前年度比2.7ポイント増で、最大の悪化となった。一方、手厚い給付型支援を受けた業種の多いサービス業他(69.3→67.1%)は同2.2ポイント減で、改善幅が最も大きかった。

前年の2020年度はコロナ禍で、リーマン・ショック後の2010年度以降、初めて赤字法人率が悪化した。しかし、2021年度はコロナ支援が広がり、赤字法人率は一転して過去最小となった。
ただ、売上や営業利益が回復しないまま、助成金や補助金など給付型支援が利益を押し上げた可能性もあり、アフターコロナに向け、支援終了後の赤字法人率の変化には注視が必要だ。

※本調査の赤字法人率は、国税庁公表の「国税庁統計法人税表」のデータを元に、普通法人を対象に「赤字(欠損)法人数÷普通申告法人数」×100で算出した。
※普通法人は会社等(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、協業組合、特定目的会社、相互会社)、企業組合、医療法人などを含む。


赤字法人率65.3% コロナ禍で過去最小

2021年度の全国の普通法人287万3,908社のうち、赤字法人は187万7,957社(年2回の複数納税を含む)だった。赤字法人率は前年度を0.8ポイント下回る65.3%で、過去15年間で最小だった。
一方、赤字法人数は前年度から0.7%増(1万3,708社増)で、2年連続の増加となった。
赤字法人率はリーマン・ショック後の2010年度に75.7%まで上昇したが、以降は9年連続で減少が続いた。コロナ禍で2020年度は10年ぶりに赤字法人率が前年度を上回った。だが、持続化給付金や雇用調整助成金など、コロナ禍の資金繰り支援策の効果で、2021年度の赤字法人率は再び減少に転じた。

都道府県別 40都府県で赤字法人率が改善

都道府県別では、40都府県で赤字法人率が前年度より改善した。改善幅の最大は島根県(65.6%→63.9%)で、前年度を1.7ポイント下回った。
赤字法人率の最小は、佐賀県の61.5%(前年度61.9%)で、トップは2007年度以降の15年間で初めて。次いで、青森県61.9%(同61.7%)、高知県62.5%(同64.2%)、長崎県62.7%(同63.5%)、福井県62.8%(同63.3%)の順。
2016年度から2019年度まで4年連続で赤字法人率が最小だった沖縄県は、前年度に続き0.9ポイントアップして都道府県別最大の悪化幅で、65.4%(同64.5%)となり27位(昇順)まで後退した。コロナ禍で、主要産業の観光業や建設業が大きな打撃を受けたのが影響したとみられる。
赤字法人率ワーストは、70.4%の徳島県で15年連続。ただ、前年度の71.9%からは1.5ポイントの大幅改善だった。以下、香川県69.5%(前年度69.3%)、長野県68.0%(同69.7%)、愛媛県67.97%(同68.4%)、栃木県67.94%(同68.9%)の順。
徳島県は、木工関連など地場産業の低迷に加え、少子高齢化や人口減少による地域経済の停滞、医療・福祉関係の競合などを背景に、赤字法人率が高くなっている可能性がある。

赤字法人数、33都道府県で増加

都道府県別の赤字法人数は、33都道府県が増加、14県が減少だった。最も増加率が大きかったのは、2年連続となる沖縄県の前年度比6.3%増(1万7,548→1万8,665社)だった。次いで、北海道の同2.8%増(7万1,093→7万3,117社)、福岡県の同2.3%増(6万6,237→6万7,820社)、宮崎県の同2.0%増(1万3,145→1万3,409社)、岡山県の同1.8%増(2万5,725→2万6,194社)の順。
減少率では、最大が島根県の同2.2%減(7,262→7,099社)。次いで、長野県が同1.8%減(2万8,946→2万8,424社)、高知県が同1.6%減(7,716→7,590社)、徳島県が同1.3%減(1万1,326→1万1,173社)、山形県が同1.1%減(1万1,573→1万1,445社)の順。

北海道を除く8地区で赤字法人率改善、関東は1.2ポイント低下

地区別では、北海道(63.3%→64.1%)を除く8地区で赤字法人率が前年度を下回った。最も改善幅が大きかったのは関東(66.8%→65.6%)で、前年度から1.2ポイント低下した。
赤字法人率が最も低かったのは、北陸の63.9%(前年度64.3%)で、唯一の63%台だった。次いで、北海道64.1%、九州64.52%、近畿64.55%の順。
最も赤字法人率が高いのは、四国の68.0%(前年度68.7%)だった。

産業別 8産業改善、2産業悪化

産業別の赤字法人率では、最大が小売業の71.9%(前年度72.8%)。次いで、製造業の69.0%(同70.3%)、農・林・漁・鉱業の67.5%(同68.1%)の順。
最も赤字法人率が悪化したのは、建設業の2.7ポイント増(56.8→59.5%)。一方で、最も改善したのはサービス業他の2.2ポイント減(69.3→67.1%)だった。「料理、飲食店」の赤字法人率は前年の83.5%から10ポイント近く改善し、73.6%まで低下した。業種によっては手厚いコロナ対策の給付などで、一時的に利益が改善した企業も少なくないとみられる。


赤字法人率はコロナ禍が始まった2020年度にリーマン・ショック時以来、10年ぶりに悪化したが、2021年度は再び改善に転じた。2019年度の65.4%も下回り、65.3%と過去15年間の最小を更新した。過去最小を更新した背景には、持続化給付金や雇用調整助成金、特別家賃支援給付金などの給付型コロナ支援の浸透だけでなく、経済活動の停滞や在宅勤務などによるコスト減少も影響した可能性がありそうだ。
ただ、東京商工リサーチが2022年4月に実施したアンケートでは、2022年3月の売上高がコロナ禍前の2019年3月を下回る企業が53.4%を占めた。2021年度末でも、半数以上の企業の売上がコロナ禍前の水準まで戻っていない。
赤字法人率の推移は今後、経済の回復状況を判断する上でも重要な指標だけに、引き続きその推移に注意を払っていくことが必要だ。

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