【今週のサンモニ】売り物は過激な平和主義|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。さて今週は……。

政府批判のために対立構造を作りだす

今週の『サンデーモーニング』は、東アジアをめぐる対立構造を不合理に評価した上で、脈絡もなく日本政府にイチャモンを付けました。

外交を行なえば、セキュリティ問題が解決すると盲信しているコメンテーターのお花畑な共通認識には呆れるほかありません。詳しく見て行きましょう。

サンモニ・アナウンサー:今回ロシアから北朝鮮を訪問したのはショイグ国防相です。ソ連崩壊後にロシアの国防省が北朝鮮を訪問するのは初めてのことです。武器弾薬などの軍事的支援を北朝鮮側に求めた可能性が取りざたされています。

また、ロシア軍は28日から中国軍とともに太平洋での合同パトロールを開始、軍事的連携をアピールして欧米を牽制しています。さらにアフリカ諸国の大統領をロシアに招き、首脳会議(ロシア・アフリカ会議)を開催、食糧援助を表明し、取り込みを図っています。

ただ、前回の会議と比べますと首脳の出席は43カ国から17カ国へと大幅に減っていて求心力の低下も伺えます。また、南アやエジプトなど7カ国の首脳らはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と面会するなど、ロシアとの距離感でバランスを取っています。

関口宏氏:世界が大きく二分化されて対立構造がどんどん激しくなっている気がします。

藪中三十二氏:その通りだと思います。

藪中三十二氏

普通の国語力をもってアナウンサーの説明を解釈すれば、世界が大きく二分化されるのではなく、ロシアが貧困国の北朝鮮にすがるほどにどんどん没落して、アフリカ諸国にも相手にされなくなってきているというのが正解かと思います。

過激な平和主義を売り物にする番組としては「軍事に加担して外交しない日本政府」を批判するというのがオキマリの流れであり、そのためには対立構造が存在することが大前提となるのです。次の藪中氏のコメントを見ればそれがわかります。

前提から結論を論理的に導かない

藪中三十二氏:米国がキャンプデイヴィッドで日米韓のサミットを対決モードでやろうと。対決モードは抑止力では大事だが、日本はそれだけでいいのか。単に対決だけではなく、北朝鮮の非核化について日本は知恵を出して米にもアイデアを出すと。

いつも日本に軍事ではなく外交するよう求める藪中氏ですが、外交に必要不可欠な説得力のある「知恵」「アイデア」については具体的に示すことはありません。これでは無責任に「ホームラン打て」のサインを打者に出し続けているのと変わりません。

また、外交は基本的に不可視なので、日本政府が外交をしていないかのように決めつけるのも乱暴です。外交については、三輪氏も次のように日本政府に求めています。

三輪記子氏:抑止力一辺倒ではない外交が求められている。私自身も不安を煽られる一市民だと思う。なんで不安を煽られるかと思うと、知らないことが多すぎる。そういう時に二者択一の思考に陥ってしまうことを自分自身で危険に感じる。

だからいろんな選択肢があって、もっとしたたかに柔軟にやっていくことを自分自身も常に思っていなければいけないし、そういう対応を政府にも求めたい。

「自分は無知なので二者択一に陥る。だからもっとしたたかに柔軟な対応を政府に求めたい」という論証は、前提から結論を論理的に導いていない【non sequitur】という誤謬です。

一般に世界各国の政府は、三輪氏とは異なり、専門家の集まりであり、二者択一の思考に陥ることなどなく、常にしたたかに柔軟に他国から譲歩を引き出すよう行動しています。当然のことながら、各国の政府は、抑止力一辺倒などということはなく、抑止力を外交の延長として使っています。

クラウゼヴィッツ『戦争論』でよく知られているように「戦争は外交の延長」なのです。『サンデーモーニング』のコメントを聞いていると、軍事とは無関係な非軍事的な交渉であるかのように外交を捉えていますが、実際には、トーマス・シェリング『紛争の戦略』『軍備と影響力』に示されているように、軍事力という【強制力】による【威嚇】を前提とした上で、自らを拘束する様々な【コミットメント】【戦術】として使って【戦略】のゲームを支配するのが外交です。

恐怖を煽って視聴率を稼ぐ

浜田敬子氏:政治家が過剰に脅威を煽って、国民を不安にさせ、対立分断は仕方ないとどんどん演出している。戦争で必ず得をする人たちがいる。

例えば、ロシアはウクライナ産の穀物の輸出を止めて自分たちの穀物をアフリカに。米国の軍需産業の株価はウクライナ侵攻から軒並み上がっている。誰が恩恵を被っているか冷静に見なければいけないし、一番被害を受けるのはウクライナの人たちだ。この演出に踊らされてはいけない。

これは根拠のない陰謀論です。ウクライナ産の穀物のシェアを奪うためにロシアは対立を煽っているのですか。軍需産業の株価を上げるために米国は対立を煽っているのですか。

いずれも蓋然性が強いとは言えません。このような番組の演出に踊らされてはいけません。

ちなみに『サンデーモーニング』が過剰にコロナを煽って国民を不安にさせ、視聴率を稼いだ可能性はあります。

コロナ死者数は第5波以前よりも第6波以降に圧倒的に増加したにも拘らず、国民がコロナを恐れなくなると『サンデーモーニング』はほとんどコロナを報道しなくなりました。

日本社会に深刻な打撃を与えた「テレビが煽ったコロナ禍」は一体何だったのか、いずれ検証する所存です。

「日本政府は軍事に加担するだけで外交をしない」と視聴者に植え付ける

青木理氏:日本が統治していた朝鮮半島が解放された後に分断された。しかも日本の高度成長のきっかけは朝鮮戦争の特需だ。朝鮮半島の現状に日本は責任がある。

見ていると、米国は北挑戦に対しては戦略的放置、韓国は完全に対決モード、日本は米国追従だけだ。果たしてこれでいいのだろうか。

地域の「一応大国」の日本が、自らがかつて統治した朝鮮半島とどう向き合うのか、再構築して、この緊張を少しでも和らげる、具体的に言えば、対話のルートを模索するとか日朝の会談をやるとか同時に考えないと、どんどん緊張ばかりが高まって最終的には再び戦火ということになりかねない。

関口宏氏:そういう外交とか政治という面において、日本は流されているよね。自分たちで何とかというものが出てこないで流されたまま行っている。

朝鮮分断に対する日本責任論は、日本国民に贖罪史観を擦り込むありがちな論証です。

実際、20世紀初頭に清やロシアに脅かされていた朝鮮は、日露戦争の結果として日本に併合されたため、分断を回避することができました。第二次大戦後、ソ連の朝鮮半島北部の占領により北朝鮮が建国され、朝鮮戦争では中国が参戦して北朝鮮を支援しました。分断・戦争の原因を作ったわけではない日本に責任を課すのは論理的に間違っています。

また、岸田政権は拉致問題を絡めて北朝鮮との対話実現を目指すことを既に宣言していますが、青木氏と関口氏は、この事実をないことにして批判する【ストローマン論証】を展開しています。青木氏は、当該コメントにおいて、日本の責任を主張し、日本を「一応大国」と認めていますが、これは日本批判のための明確な伏線だったのです。

以上、「日本政府は軍事に加担するだけで外交をしない」という『サンデーモーニング』が創作したステレオタイプの印象を視聴者にしっかりと認識させた上で日本政府を批判するという演出が見え見えです。

何もしていないわけがないのに……

ちなみに、台湾有事の話題において藪中氏は次のようにコメントしています。

藪中三十二氏:政府がやらなければいけないことは、台湾有事なんて起こしちゃいけないということだ。そのためにどうするのか。せっかくG7サミットで「中国に関与し、建設的な関係を築く」と書いた。あれは日本が書いた。その後に何もしていない。米国は中国と意外と話をしている。日本こそもっときちんと中国と向き合って絶対に台湾有事なんか起こさないと。

最近、林外務大臣は中国の外交トップの王毅政治局委員と会談しています。この事実を無視して「何もしていない」と日本政府を叱責し、「知恵」「アイデア」を出すことなしにひたすら上から目線で「台湾有事を起こしてはならない」と日本政府に命令する藪中氏です。

何よりも大きな勘違いは、このような万人が認識している至上命令を日本政府が認識していないと思っていることと、中国と向き合えば、相手を絶対に説得できると信じていることです。勿論、中共が他国の説得に応じる存在でないことは自明です。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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