噴射口は1300度…400年以上続く手筒花火 125分の1秒を切り取る眼帯のカメラマンに密着 豊橋祇園祭

轟音と共に吹き上がる火花が夜空を照らす、「手筒花火」。400年以上の歴史があり、毎年7月に愛知県豊橋市で開催される「豊橋祇園祭」で奉納されます。火花を吹き上げてから爆発まで、およそ30秒。その美しさに魅せられ、15年以上カメラに収め続ける写真家に密着しました。

「撮りたいならまずやってみろ」横浜から通い続け、唯一の公認カメラマンに

神奈川県横浜市の写真家・金武武さん(60歳)は、手筒花火の魅力を知って欲しいと15年以上、手筒花火を撮影し続けてきました。撮影するのは花火の打ち上げ当日だけではありません。祭りの1か月前、豊橋市内の竹やぶで、打ち手が自ら手筒の芯となる竹を切り出す過程も撮影していました。時には、金武さん自ら切り出しに参加する熱の入れようです。

(花火写真家・金武武さん)
「(噴射口は)約1300度だって、火の粉。それを30秒40秒みんな耐えている。ハワイのキラウエア火山の溶岩は約1200度、それよりも温度が高い。すごいことですよ」

元々、打ち上げ花火を専門に撮影していた金武さん。テレビで手筒花火を知り、祭りの関係者に撮影させて欲しいと申し入れました。

(花火写真家・金武武さん)
「『本気か?手筒花火を撮りたいならまずやってみろ』と言われた。(神奈川から)毎週通うと費用もかかりますし、本当にできるのか不安もありました。本気でやってみようと決心をして、参加させてもらうことになった」

実際に自分で一から手筒花火を作り、打ち上げることで祭りを維持する大変さ、それにかける人々の思いの強さを体感しました。その思いを写真に残したいと考え、毎年祭りの準備から本番までの全てを撮影し、奉賛会に無償提供しています。

(豊橋祇園祭奉賛会・酒井数美会長)
「(祭りを)記録として残せるし、自分があげた歴史が1枚の写真に刻まれていて、(打ち手にとっても)家宝になる」

カメラマン人生初、片目での撮影に挑むことに

唯一の奉賛会公認カメラマンとして、10年以上祭りの全てを撮影してきた金武さんですが、今年は右目に問題を抱えていました。

(花火写真家・金武武さん)
「実は30年前に(白内障の)手術をして、眼内レンズが入っていたのを、新しいのに取り換えようと取り出した。いま取り出して、目の中のレンズがない状態」

両目で見えていない分、細かいところに気を遣いながらの撮影ができません。ピントはオートフォーカスに設定し、普段の3倍近い枚数を撮影することで、何とか良いショットを狙います。

祭りの2週間前、試験的に手筒花火を打ち上げて、火の上がり方を確認します。金武さんは、この日までに手術を終わらせる予定でしたが、眼帯は付いたままです。

(花火写真家・金武武さん)
「祭りの日は、片目で勝負するしかない」

実は、目の状態が悪くなり手術ができなくなっていました。写真家として40年以上活動する中で、初めて片目で撮影する事になったのです。それでも、何十年も身体に染みついたシャッターを切る動きに、迷いはありません。

(花火写真家・金武武さん)
「カメラの操作は全く問題ない。ピントの確認も問題ない。何十年もやり続けているからね」

「遺影にしたい」打ち手も絶賛の出来栄え!ベストショットは…

2023年7月21日、豊橋祇園祭当日。奉賛会の公認カメラマンとして、参加する8つの町全てをきれいに撮ってあげたい、という使命でカメラを構えます。この日は、金武さんを手伝いたいと、知り合いのカメラマン2人が助っ人として撮影に加わりました。

迎えた手筒花火の打ち上げ本番、金武さんが30秒間で狙う瞬間が2つあります。1つ目は、吹き上がる火の粉の軌跡。シャッタースピードを4分の1秒とかなり遅くして、火の粉の光を軌跡として捉えるのです。打ち手がすぐ煙に包まれるので、表情を含め最高の一瞬を狙います。2つ目は手筒花火の最後、爆発音とともに筒の下から炎が吹き出す瞬間。この「ハネ」と呼ばれる瞬間を捉えるには、シャッタースピードを125分の1秒に切り替えなければなりません。

しばらくすると、いつも通りの方が集中できる、と眼帯を外した金武さん。

(花火写真家・金武武さん)
「(右目の視界は)ぼけていますけど両眼で見た方が、爽快感が違う」

写真を撮りながら、助っ人の2人にも指示を飛ばします。長年の経験で身体を動かすその姿に、右目が見えないハンデは感じられません。約3時間にわたる撮影で撮影された写真を打ち手に見せると…。

(手筒花火の打ち手)
「最後のハネが最高ですよ。僕ら素人じゃ(撮るのは)無理。(携帯電話の)待ち受けをこれに変えます」

「死んだときは、(遺影を)この写真にしよう。何回か撮ってもらってるけど、今回はとりわけいいね!」

今回、金武さんが撮った写真は4000枚以上。その中からベストショットに選んだのは、火の粉が降り注ぎ、打ち手の頭や腕に当たって人間のシルエットが出た一枚。打ち手の表情・火の粉の軌跡、全てを捉えた最高の出来栄えです。

(花火写真家・金武武さん)
「火の粉を浴びても動じず、熱さに負けずじっと耐えている。(Qいままでの出来と遜色ない?)もう全然OKですね。気に入っています」

400年の伝統ある手筒花火。その一瞬の美しさを切り取って後世に残すため、金武さんの取り組みはこれからも続きます。

CBCテレビ「チャント!」7月24日放送より

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