我がパッチワークが包摂される日

巨大隕石落下から25年

今日、デジタル・トランスフォーメーション(DX)は、経済社会を変革のキーワードとして毎日目にする言葉となっています。振り返れば、インターネットが商用に開放され、一般に使われ始めた1994年頃、私はカナダに駐在していました。当時、米国の大学がリリースしたブラウザを興味津々ダウンロードして、まだ貧弱だったWebサイトの閲覧を「遊び」として楽しんでいました。

インターネットは、巨大隕石に例えられますが、この時、正に落下していたのだと後になって分かりました。恐竜世界に巨大隕石が落下したかのように、その前後で非連続的な社会が開かれ、「ググる」時代を経て、「AI」時代となっています。そして、今やシンギュラリティが近いのではないかとも語られています。この間、約25年。ドッグイヤーどころか指数関数的な発展と言われるのも頷けます。

旅行セクターとDX

旅行セクターは、IT親和性が高いと言われ続けています。インターネットが解放される遥か前から、旧国鉄のマルス、航空業界のセイバーなど、情報処理技術をいち早く利用していました。これは「人の移動」の裏側では情報が大量に流通することの証左です。検索・予約・決済の一連の過程は、専用の回線でオンライン処理が行われていました。今日では、インターネットを使って、Webサイト、SNS等での情報発信、OTAの隆盛、デジタルマップ等々、デバイスの進化とともに、さまざまな利活用が急速に進展していることも、当然の流れと言えます。

ただ、そもそも「デジタル技術でツーリズムはこのように変わる」という未来の姿がはっきり共有されていないのではないでしょうか。その上、「DXはトレンド」と頭では分かっていても、デジタル技術の活用は、大きな投資と業務の見直しが必要です。人材も組織も変えなければ効果は限定的。それには、痛みも伴います。

インターネットの黎明期に、コモディティ化したハードウェアビジネスから脱出し、高付加価値な収益性の高い市場に集中することを目指した世界のITの巨人企業がありました。そしてソリューションビジネスへと変身を遂げています。その成功には、決断と指導力、そして、「変革の先」の姿が明確であったことが鍵だったと言われています。

我がパッチワーク

旅行セクターは、まだまだデジタル技術がパッチワーク的に実装されている感が否めません。私の組織も、デジタルマーケティング室を設け、Webサイト運営、SNS投稿、SEO対策等行っています。そして、データに基づき事業を推進するための基盤づくりに取り組んでいます。具体的には、「プロモーション効果の可視化」と「戦略策定」の基盤となる”Marketing Dash Board”の開発です。予算確保に常時頭を悩ましている我々は、外部データを購入することは無理なので、我々のWebサイトへのアクセスデータを活用して、収集・分析を行うツールとしてリリースしました。Webサイトへのアクセス数が多ければ多いほど精度が上がるのですが、それには、また予算が必要という頭痛抱えつつ、アクセス増に知恵を絞る毎日です。

切り札としての関西MaaS

観光は、五感で楽しむリアルの世界のものです。そして、その世界に誘い、より安心・快適で、満足いただく旅を提供するためには、今日、デジタル技術の活用が不可欠です。宿泊・観光施設等のバックオフィスだけでなく、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」という旅行の流れにおいて、サプライヤーと旅行者双方の立場に立って、常に、デジタル技術が関与し、サポートする世界を追い求め明確化していかなければならないと考えています。生成AIといった革新的な技術もどんどん実用化されつつあります。大きな未来の姿が共有されれば進みも早くなるはずです。

幸いにも関西では、在阪の鉄道7社が万博に向けて、「関西MaaS(Mobility as a Service)」の構築が急ピッチで進められています。交通の検索・予約・決済を柱に、移動の動機となるさまざまな情報が連動していくと考えています。世界で最も進んだMaaSになるでしょう。そして、これ連動することをモチベーションに関西の旅行セクターのDXが大きな流れで進んで行くのではないかと期待を膨らませています。

Marketing Dash Board

イメージ図

寄稿者 東井 芳隆(とうい・よしたか)(一財)関西観光本部 / 代表理事・専務理事

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