“パートナーシップ制度”では「平等」を得られない 「同性婚訴訟」弁護士が語る“本当の”争点とは

「結婚の自由をすべての人に訴訟」東京弁護団の三浦徹也弁護士(7月東京都内/弁護士JP編集部)

全国5地裁の判決が出そろった 「婚姻の平等訴訟」は、6月23日より東京高裁での審理が始まった。(※「東京・二次訴訟」は東京地裁での公判中)

戸籍上「同性」同士である2人の婚姻が認められないのは憲法違反だとして、同性カップルらが原告となり2019年に起こされたこの訴訟は、5つの地裁で「違憲」(札幌・名古屋)、「違憲状態」(東京・福岡)、「合憲」(大阪)と判断が分かれた。

地裁判決では何が認められ、何が認められなかったのか。高裁では何が争点となるのか。弁護団の一員として裁判を戦う三浦徹也弁護士に話を聞いた。

地裁判決の総括と“本当の”争点

──地裁判決をどう評価していますか。期待を上回ったでしょうか、それとも下回るものでしたか。

三浦弁護士:自分たちの主張に説得力があるとは思っていましたが、裁判官にとって違憲判決を出す心理的ハードルが高いことは理解していました。なので、最初に札幌地裁が法の下の平等(憲法14条)に違反していると明示してくれたことは、期待以上の成果だと感じました。ただ、裁判が進み名古屋地裁や福岡地裁の判決の頃には、もっと踏み込んでほしかったと少し期待が大きくなっていました。

(報道をもとに弁護士JP編集部作成)

結果的に、合憲を出した大阪地裁を含め5地裁すべてが、同性カップルに対して「家族になれる法的な保護を与えていないこと」は違憲あるいは問題だと認めました。それはひとつの到達点として評価すべきだと思います。しかし、「同性カップルが結婚できないこと」について違憲だとしている地裁はなく、今後の訴訟で改めて主張・立証していく必要があると思っています。

──地裁判決には「違憲」と「違憲状態」がありますが、これはどう異なるのでしょうか。

三浦弁護士:「違憲状態」という判決をどう受け止めるかはメディアも悩んでいるように見受けられ、東京地裁の判決の時には「合憲判決」と報道するところもありました。しかし、東京地裁の判決文には、「憲法24条に違反する状態にある」と明確に現行法が憲法に違反していると言っていますので、「違憲」判決と整理すべきものと考えています。

そして「違憲」と「違憲状態」の違いですが、この点は地裁でも用語の統一が図られていないように思われ、説明が難しい部分があるのですが、私の意見としては、今回の訴訟で「違憲状態」という言葉を使う必要はなかったと思います。

「違憲状態」という言葉を聞いて多くの方が思い出すのは、「1票の格差訴訟」でしょう。これは選挙無効をめぐる訴訟ですが、1票の価値を全国で等しく1倍にすることが技術的にそもそも難しく、何倍から違憲になるのかは必ずしも明確ではありません。そうすると、選挙が無効かを判断する基準に、違憲(投票価値の平等の要求に反する)状態だが合理的期間は徒過していないため(選挙の規定が)違憲とまではいえない/違憲であるが選挙は有効/違憲であり選挙は無効というようにグラデーションを設けて、「違憲状態」という言葉を使うことにも意味があると思います。

ただ今回の訴訟は、結婚できるかできないかというゼロか百かの問題であり、このようなグラデーションは必要なく、「違反状態」という言葉を使わず端的に違憲と判断できたはずですよね。実際に札幌地裁や名古屋地裁の判決は違憲だとズバリ書いています。

婚姻に類する制度ではダメな理由

婚姻制度の利益を同性愛者等が享受できないのは差別と語る三浦弁護士(弁護士JP編集部)

──婚姻以外に「家族」になる制度は、ほかにあるのでしょうか。

三浦弁護士:今の日本には、家族になる制度は婚姻制度しかありません。憲法にも婚姻という言葉が明記され、婚姻した2人の関係を特別に扱っていますが、なぜ同性愛者等はその地位や利益を享受できないのかというのが、原告らの想いです。

──原告らはあくまで同性愛者等も現行の「婚姻制度」に含めてほしいと訴えていますよね。なぜ、パートナーシップ制度など「婚姻に類する制度」ではダメなのでしょうか。

三浦弁護士:まず前提として、同性カップルも異性カップルも共同生活の実態には特に違いはありません。それはどの地裁も認定しています。ということは、家族として2人の関係性を保護することに区別をつける理由はないということになります。それなのに「婚姻に類する制度」を作ったからいいだろうでは、性的マイノリティーは別の制度でいいという差別的なメッセージに国がお墨付きを与えてしまうことにもなりかねません。

婚姻制度について、子どもを産み育てるためという人もいますが、子どもを持たない異性カップルもたくさんいます。遺産の相続などのため婚姻するという場合もあるでしょう。異性カップルでは、子どもを産み育てること以外にもさまざまな理由で婚姻制度が利用されているわけです。また、現に子どもを育てている同性カップルもいますので、やはり同性カップルと異性カップルで制度を区別する必要はありません。

かつて、アメリカの黒人差別では「分離すれども平等」という法規範がまかり通っていました。同じものが提供されていれば、教室やバスの座席などが分離されていても問題ないと考えられていたのです。それが誤りだと判断されたのは1954年で、分離自体が黒人の子どもに劣等感を与えていたとして「人種分離した教育機関は不平等だ」と結論づけました(ブラウン判決)。すでに、50年代のアメリカでこうした判決が出ているのに、同じ過ちを繰り返していいとは思いません。すでに、広く社会に浸透している婚姻制度を利用できるようにならないと、平等は実現しないのです。

──パートナーシップ制度の普及が進み、日本の人口の7割をカバーするまでになっているとされています。これが仮に100%になったとしても、当事者の方にとっては、決して「平等」とは言えないわけですね。

三浦弁護士:パートナーシップ制度で当事者の方が満足することはないと思います。現状のパートナーシップ制度は、法的効果を伴いませんし、仮にパートナーシップ制度が法的効果を持つものとして全国に普及しても、婚姻制度とは異なる制度に分離されていること自体が、劣等感を与える可能性があるのです。東京地裁の尋問の中で、原告の方が「仮にパートナーシップ制度が法制度化されても使わない。自分が二級市民のように扱われるのは許されないはずだ」と発言していますが、その通りだと思います。

これまで性的マイノリティーの方々のこうした困難にあまり触れてこなかった方が「パートナーシップ制度でいいじゃん」と素朴に思ってしまう気持ちはわからないでもないですが、それでは問題があるんだという理解を広げていきたいと思っています。

社会的承認と人権

──裁判を戦った三浦弁護士から見て、反対派の方々の主張はどう考えますか。

三浦弁護士:婚姻は子どもを産んで育てる男女の関係を保護するものだと主張されている方が多く、この主張への考えは先にお答えした通りです。また、同性カップルを婚姻で保護するための社会的承認がまだ伴っていないという主張もあります。

──最近の各社世論調査では「同性婚を認めるべき」という回答が過半数を占めています。すでに社会的な承認はある気もするのですが、ほかに根拠が必要なのでしょうか。

三浦弁護士:そもそも、社会的承認が得られていないから認められないというのはおかしいです。これは人権の問題であって多数決の問題ではありません。仮に、社会的承認を考慮するにしても、おっしゃったように「世論調査でこれだけの人が問題ないと言っているのだから、すでに社会的承認があると言える」と弁護団としては主張していくことになると思います。

──社会的承認がなくとも、同性同士の婚姻が認められたところで異性愛者に不利益が発生することはないですよね。

三浦弁護士:何もないです。名古屋地裁の判決では、現在のパートナーシップ制度によって弊害はなんら確認できないと指摘されています。結婚したい人が結婚できるようになるだけです。もちろん、婚姻しないのもひとつの自己決定で、そこに価値として差はありません。ただ選択肢が平等に与えられていることが制度として重要なんです。

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